愛二乗=独占欲
俺と果穂子は中学の同窓会に参加することになった。
今の果穂子は見せたくないなぁ。
そんな想いもむなしく着いてしまう。
俺達が入った瞬間、絶叫が聞こえた。
男子は果穂子の変身ぶりに驚いている。
俺が先に目つけたんだからね。
目でいなす。
手を引く男子達。
「雪哉!今日も相変わらずだな!」
話かけてきたのは、同じ高校の悪友啓一だ。
「人聞きが悪いなぁ。俺がいつも睨んでいるみたいじゃないか」
笑って啓一に言い返す。
「お前ほど女に余裕のない男はいないよ」
こちらも笑顔で返す。
分かってないなぁ。
本気だから形振なりふり構っていられないんだ。
愛しさを込めて果穂子をみると果穂子が見てくれていた。
嬉しくて手を振る。
いつもなら悪態をつく果穂子だが…
なんと手を振り返したのだ。
しかも笑顔つきで!!
可愛いなぁ。
ざわっとざわめきが起こる。
しまった!!果穂子の可愛い顔が見られた!
男どもの目はすでに果穂子をロックオンしていた。
どうやって撃退すべきか。
カラオケに来ることになったのだが、やられた。
果穂子と離された。果穂子の周りは男だらけ。
どうにもこうにも手が打てない。
八方詰まりだ。
カラオケはいつも果穂子と演歌歌うのに…、くすん。
「ねえねえ、何歌うの~?」
「ラブソングがいいな」
きゃぴきゃぴと俺に話しかけてくる。
悪いけど アウト オブ 眼中。
ああ、果穂子と歌いたいよ~。
悲しみに暮れていたところ、聞き逃せない言葉を聞いた。
「可愛くなったよね。この後俺と―
「果穂子!!デュエットしよう!!」
「いいけど…」
阻止完了。
鬼?何とでも言いなよ。
果穂子は俺の大切な人なんだから。
願わくば俺の苗字を名乗って欲しいなぁ。
大君 果穂子かぁ。
良い響きだ。
お嫁さんになってほしいなぁ~。
二人で見事に演歌を歌い終える。
「し、渋い趣味だな」
「えっと、渋くてかっこいいわね!」
見事に引かれた。
でもいいんだ。君達は果穂子が演歌を歌うのが好きだなんて知らなかっただろうから。
どす黒い優越感が胸に込み上げる。
君の事を一番知っているのは俺でいたいんだ
果穂子が唐突に笑いかけてきた。
めったに見せない女の子の笑みで。
果穂子、サービスしすぎだよ。
俺でさえめったに見ない笑みだからか、思いのほか動揺して後ろの壁に頭をぶつけてしまった。
頭を押さえながらも笑い返す。
可愛くて全てが愛おしい
「果穂子!」
果穂子の友人の皐月が外に出ろとジェスチャーしている。
しまった、空気が重い。
男達が本気モードに入っていた。
威嚇するように睨んでくる。
負けるわけにはいかない。
「ねえ、これ私のメルアドなの」
女の子らしい時で書かれたメモを俺に差し出す。
「甘く見られたものだね。
俺が果穂子のこと大切にしていないように見えるのかな?」
言葉こそ温厚だが、目は笑っていない。
「だって私っ、中学生のときから
「知ってたよ」
大きく見開かれた目は俺を映す。
「でも、ごめんね」
彼女は脱力する。
他の女の子達も取りつくったように大人しくなった。
丁度、果穂子が帰ってくる。
ほっとした空気が流れる。
それはつかの間のことだったが。
「なあなあ、メルアド教えてよ」
果穂子に馴れ馴れしく声をかける男。
果穂子の無視に胸を撫で下ろす。
「いいじゃん、少しくらい」
男が果穂子の肩を引き寄せられる。
思わずかっとなった。
氷の沢山入ったグラスを倒す。
ガッシャーーン
水と氷が零れる。
「今まで果穂子の良さにも気付かなかったクセに。
果穂子がおしゃれしただけで寄るんだね。
見る目がない。
てゆーか、果穂子は俺のものだ。
触るな、クズ」
冷静でいられるはずがない。
果穂子が可愛くなっただけで言い寄るなんて許さない。
果穂子はそんなに安い女じゃない。
限りなく冷えた目はあたりを凍らせる。
それからカラオケはお開きに。
帰る間際に話かけられた。
立っていたのは元同じクラスの男達だった。
「わりぃ!!」
「本気で好きなんだな。悪いことした」
平謝りされた。
「雪哉っておっかね~だろ。
学校でも独占欲丸出し」
啓一が入って場をなごませる。
そんなに余裕ないかなぁ
「あんた綺麗になったよ!」
耳に入ってきた言葉に頬が緩む。
嬉しそうな彼女に後ろからもたれかかる。
「果穂子がおしゃれしたのって俺の為なんだよね~?」
果穂子の目が揺らいだ。
「ど、どうして知ってるのよ!!」
「弟君に聞いたんだ~」
余計な事を、という顔をする果穂子。
違うんだ、弟君は悪くないよ。
「不安だったんだ。果穂子が急に綺麗になっていくから。
新しい男が出来たんじゃないかって。
聞きに行ったら笑って否定してくれたよ。
『あの不器用な姉には出来ませんよ。
髪を切ったのも、染めたのも一人の人の為なのに』
すっごく嬉しかったんだ。一方通行だと思ってたから。
全力で愛したいと思った。
そうしたらかっこつけてるのが馬鹿らしくなった。
表現したいと思った。
手芸部に入った。
敵の駆除もかけて、沢山の好きが言えるようになった。
こんなに俺を変えたのは君だけだよ」
嘘偽りのないキモチ。
こんな馬鹿馬鹿しい男を君はどう思う?
果穂子が俺の手を取る。
「こんなに私を変えたのもあんただけよ。
おそろいね?」
君は容易く俺を受け止めてしまった。