愛二乗=綺麗
中学の同窓会に参加することになった。
今のこいつを見て泣くやつは何人いるのだろうか。
私達が入った瞬間、絶叫が聞こえた。
相変わらずかっこいいからね、こいつは!
足を踏んづけたくなったが堪える。
「果穂子~!久しぶり!」
入った瞬間話かけてきたのは、別の高校に行った友人皐月だ。
「久しぶり。しっかし、あいつは今も人気なのねぇ」
女性陣に囲まれている雪哉を睨みつける。
果穂子が見ているのに気づき、手を笑顔で振る雪哉。
果穂子も振り返す。
ざわっとざわめきが起こる。
彼の豹変にびっくりしたのだろう。
「果穂子!?大君くんどうしたの??
あんなにクールだったのに」
今度は私が女性陣に囲まれる。
「高校の手芸部に入って変わったのよ…」
そう答えると口々に話す。
「えぇ~、ショック」
「でもやっぱりかっこいいよね!親しみ易くなったし」
つまり人気が上がったらしい。
心配して損した。
「でもいいなぁ~。愛されてるって感じで」
「はは。恥ずかしくていいことなんてないよ」
「ふ~ん」
女性陣は野生動物の目で果穂子を見据えていた。
何故、何故私は男に囲まれているんですか。
教えてください。
カラオケに行くことになったんだけど、いつの間にかこんなことに。
雪哉の隣は…、女ばっかりだし!!
「なあなあ、何歌うの?」
「今流行りの歌ってよ」
ああ、しつこい!
「可愛くなったよね。この後俺と―
「果穂子!!デュエットしよう!!」
「いいけど…」
雪哉に誘われた。
何か話してたような気が…。
まあいっか!
二人で見事に演歌を歌い終える。
「し、渋い趣味だな」
「えっと、渋くてかっこいいわね!」
なぜか引かれた。
ふんっ、どうせ私はいつもカラオケで演歌歌うわよ。
それよりもあいつが私の十八番を覚えてくれてたのが嬉しい。
にこっと雪哉に笑いかける果穂子。
雪哉は驚きのあまり後ろの壁に頭をぶつけてしまった。
頭を押さえながらも笑い返す雪哉。
空気が変わる。
「果穂子!」
友人の皐月が外に出ろとジェスチャーする。
頷き、外へ。
「果穂子っ、あんたやばいよ。早く帰ったほうがいい!!」
皐月が必死に言う。
「どうして?」
頭を叩かれる。
「…この鈍ちんが!!
あんたの周りの男に狙われてるのよ!」
「大丈夫だよ。二瀬ふたせ兄に護身術教えてもらってるし」
見当はずれの回答に口を大きく開く皐月。
「こりゃ大君くんが変わっても仕方ないわ。
可愛くなったのは友達として嬉しいんだけどね~」
まるで子どもにするように頭を撫でられる。
「ちょっと、何すんのよー」
「いいからいいから。いざと言う時には私に任せなさい」
「?うん」
「なあなあ、メルアド教えてよ」
無言の否定。
「いいじゃん、少しくらい」
馴れ馴れしく肩を引き寄せられる。
果穂子は自分の血管が切れる音を聞いた。
考えるより先に肩にある手を振り払い、
こぶしを強く握り締めていたところ、
ガッシャーーンという音がして、何事かと見る。
「今まで果穂子の良さにも気付かなかったクセに。
果穂子がおしゃれしただけで寄るんだね。
見る目がない。
てゆーか、果穂子は俺のものだ。
触るな、クズ」
氷の沢山入ったグラスが転がっていた。
零れる水と怒り。
雪哉の目は限りなく冷えていた。
それからカラオケはお開きに。
帰る間際に話かけられた。
立っていたのは元同じクラスの女の子達だった。
「あんたら本当のカップルっぽくなったね」
「そうそう、中学生の時はお互い遠慮してた感じだったのにね」
「お似合いになったんじゃない?」
頬が思わず緩む。
「あんた綺麗になったよ!」
女として最高の褒め言葉までもらう。
「へへっ」
喜んでいると後ろからもたれかかってくる雪哉。
「果穂子がおしゃれしたのって俺の為なんだよね~?」
雪哉と目がばっちりと会う。
「ど、どうして知ってるのよ!!」
「弟君に聞いたんだ~」
今とてつもなく弟を東京湾に沈めたい。
「不安だったんだ。果穂子が急に綺麗になっていくから。
新しい男が出来たんじゃないかって。
聞きに行ったら笑って否定してくれたよ。
『あの不器用な姉には出来ませんよ。
髪を切ったのも、染めたのも一人の人の為なのに』
すっごく嬉しかったんだ。一方通行だと思ってたから。
全力で愛したいと思った。
そうしたらかっこつけてるのが馬鹿らしくなった。
表現したいと思った。
手芸部に入った。
敵の駆除もかけて、沢山の好きが言えるようになった。
こんなに俺を変えたのは君だけだよ」
敵というのが分からなかったが、心が大きく動いた。
彼の手をとり、握る。
「こんなに私を変えたのもあんただけよ。
おそろいね?」