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愛 二乗  作者: 花ゆき
高校生編
6/37

愛二乗=砂糖一袋?

 


 放課後になったので、校舎がざわめく。


「果穂子かほこ~!行こ!」

 花を散らして現れたのは私の彼氏である。

 駅前のケーキ屋がおいしいと評判なので行こうという話なのだ。





 その駅前のケーキ屋は今日も繁盛していた。

 女性客に。

 その空気を物ともせずにメニューを選ぶ男がここに。


「モンブランにするべきか、

 いちごのショートケーキにするべきか…」


 私の真横で真剣に悩んでいた。


「あのさ、どうして横に座るのよ。

 あんた一人で座りなさいよ」

 びっ、と空いている席を指す。


「えぇ~。こっちの方が果穂子が近いのに」


 イヤと断る彼。


「明らかにおかしいでしょ!

 あっちが空いてるのに」

「イヤ」

「も~!!

 ほら、周りの人が笑ってるじゃない!」


 微笑ましさに暖かい目で見守られる。

 この時、実は店内全てが注目していた。


「あ、こんにちは~」

「ちがーう!誰があいさつしろって言ったのよ」

「俺はいちごのショートケーキにするね」

「あ、私はカプチーノにするわ」


 流れた会話に店内がほっとする。

 いつの間にかウェイトレスが注文をとっていた。

 それだけ注目の的なわけで…。


 横で急にしゅんとなった彼。

 理由を聞いてみた。


「果穂子が俺のこと名前で呼んでくれない…」

「は?」


 思わずそう言っていた。


「高一の冬から言ってるのに…」


 のの字を書き出す始末。


「名前忘れたんだ…」


 テーブルにうつ伏せる。


「ちょ、知ってるわよ!大君おおきみ 雪哉ゆきやでしょ!」


 むくっと起き上がる彼。


「じゃあ名前も言えるよね?」

「うぐっ」


 言葉に詰まるとはこのことである。


「果~穂~子」

 期待の眼差し。


「果穂子っ」

 せかすように言う。


「果穂子?」

 心配そうに果穂子を見る。


「だ、だって…」

 か細い声で果穂子が言う。


「そんなことしたら、バカップルみたいで恥ずかしいじゃない」

「いいから呼んでよ。果穂子に呼んで欲しいんだ」


 そんなことかと安心していた一同は、息を呑んで見守る。


 彼女は赤い顔のまま目を泳がす。

「だめ?」

 果穂子が問う。

 うっ、と雪哉が止まった。


 ちょうど身長の関係で上目遣いになっていたのだ。

 いいよ、構わないよと言い出したい気持ちを抑えて果穂子を見る。

 果穂子は深いため息をつく。


 そして、

「…ゆきや」

 かすかな声で呼ぶ。

 幸せそうに笑う彼。


 心なしか果穂子に近づいている。

 確実に近づいている。


「ちょっ、こんなところでするつもりじゃないでしょうね!?」


 雪哉の体を押さえる。

 顔を寄せる雪哉。


「だめ?」

「だ、だめに決まってるじゃない!

 人が見てるってば!!」


 身を乗り出して、見ていた一同はわざとらしく咳をして席に着く。

 いかにも白々しらじらしい。


「じゃあ、すぐに出よう」


 立ち上がる雪哉の腕を引っ張る。


「ちょっと、ケーキは!?それを食べに来たのに」

「確かここって持ち帰りが出来たハズだよ」


 話を聞いていたらしいウエイトレスが頷く。

 ある意味死刑宣告。





 その後、ケーキ屋にいた人全員が

 恋人が懐かしくなったり、欲しくなるなどの症候群が現れた。

 そして恋人を連れて店に来る。

 結果ケーキ屋は大繁盛。

 ここでケーキを食べたカップルは幸せになれるというジンクスまで誕生した。


「あんたのせいよ。前行ったら半額にされたじゃない」

「あ、俺もだよ。彼女は一緒じゃないんですか~?って聞かれた。

 それよりちゃんと名前呼んでよ」

「イヤ!!」

「そんなぁ~」




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