愛二乗=可愛すぎ!
「眠…」
新年早々あくびをするのは果穂子である。
何を隠そう彼女は新年を迎えてから一つも寝てない。
というより徹夜だ。
「クリスマスみたいに来ると思ってたのにー」
彼がクリスマスに最初に会うのは俺がいいと言っていたので、正月もそうかと思って待っていた私が馬鹿みたいだ。
言い訳するために学校の宿題してたしね!!
ほんと馬鹿。
「果穂子~、年賀状よ」
部屋にこもって誰とも会わないようにしてたのに母さんと会っちゃったし。
もうどうにでもなれ。
「ねぇちゃんー?雪哉さん来てるよー」
ヤツがきたか。
ふふふふ、このやるせない思いをありっったけぶつけさせてもらうわよ。
姉の逝った目に弟は引いていた。
「明けましておめでとう、果穂子!」
にっこ~り笑って梅の枝をくれた。
「で、何の用よ」
こいつが能天気に笑っているのが頭にくる。
こっちは徹夜したのに!
「うちの姉」
なぜか紹介された。
黒のまっすぐな髪のロング。和風美人というところか。
「ど、どうも」
慌てて礼をする。
「私、ポチが待ってるからさっさっと終わらせるわよ。
いいわね?」
彼がにっこり頷く。
何故、こんな展開に。
「ちょっと動かないで!」
あれよこれよと私を回す彼のお姉さん。
何故?
そもそも今着ている物は…
「よし、出来たわ!」
「あのぅ、これって…」
「着物よ?」
「やっぱり…」
「ふふふ、ホントに黄色が似合う子。
あの子ったら酷いのよ~。
『姉さんには黄色なんて若い色は合わない』って言うの。
確かにもう大学生だけどさぁ、弟が作ってくれたら嬉しいのよね。
実際はあなたのための着物。
小さい頃は『お姉ちゃん~』ってついてきたのに。
あ、私の分も後で作ってくれたのよ。良い子でしょ」
座らされて、化粧までされる。
「完璧!これで弟を悩殺してきなさい」
「悩殺って…」
「そうねぇ。
あなたの目の下のくまの理由、話してあげると喜びそうね」
「な―!!」
化粧で白くなった肌が赤く染まる。
「化粧で隠したから分からないわよ」
くすり、とわらったお姉さん。
流石一枚上手だ。
「雪哉ーーー!準備出来たわよー!」
「わっ、呼ばないで下さいよ!」
にやっと笑って部屋を出ていった。
「果穂子!!」
家の中なのに走ってきた彼。
私を見てキラキラする彼。
「すっごく似合ってるよ、可愛い!」
頬が興奮したため赤い。
「ありがと」
少し小さい声でお礼をいった。
「あの、この着物手作りって聞いたから」
彼が更に顔を赤くする。
「姉さんには秘密だって言っていたのに」
口を尖らせて言う彼は可愛く見えた。
「私も秘密教えてあげる」
なあに?と首を傾ける彼の耳をひっぱって教える。
秘密を知った彼は、ぱちぱちと目を瞬かせて私を見てくる。
「何よ、一度しか言わないんだからね」
「果穂子ってさ」
「何?」
「意地っ張りで損してるけど可愛いよね。
考え様によっては果穂子の可愛い所を知ってるのは俺だけだし」
何にも言えなくなった私の手を引いて神社に向かう。
人が沢山いるので手を振り払う。
彼はしゅんとしたが、すぐさま元気になった。
「あ、おみくじだ!行こう!!」
おみくじしか見えてないのか、どんどん先に進む。
反対に着物の為まったく進めず、なおかつ転びそうな私。
ちょっとくらい待ってくれてもいいじゃない…。
―意地っ張りで損してるけど可愛いよね。
彼の言葉がよぎる。
今年くらい可愛い彼女でもいいじゃない。
「雪哉!!」
彼がぴたりと止まる。
「果穂子?あ、ごめん!」
人波を掻き分けて私の前に立つ。
「あのね―」
口が渇いてしゃべれない。
素直になるだけなのにどうしていえないのよ。
「どうしたの?」
「あの、ね?」
「うん」
彼はただ笑って見守ってくれている。
素直になるんだ。
「転びそうなの。手つないでもいい?」
恥ずかしそうに笑って、潤んだ目で果穂子は手を差し出した。
なかなか返事がないので彼の顔をうかがってみると、しまりのない顔で笑っていた。
彼が遅れて差し出した手はやっぱり私よりも大きくて、男の人の手だった。
「可愛い」
彼が私を見て言う。
「可愛くない」
彼を睨みながら言う。頬が熱い。
「可愛い」
頬を見てさらに言う。
「可愛くない」
頬を手を繋いでいない方の手で押さえる。
「可愛い」
彼が手を強く握り締める。
「可愛くない」
私も強く握り返す。
「今年はいい年になりそうだー」
「ばか」
こんなことですっごく喜ぶ彼を見たら、たまには素直になるのもいいかなって思った。
彼には秘密だけど。