愛二乗=愛二乗
授業が終わって、私達は手を取り合ったまま外に駆け出した。
世界がこんなに色づいて見えるなんて初めてだよ。
つないだ手に力を入れれば振り返る彼。
こんな何でもないことが重なって、幸せだなって思う。
通学路の途中で土手に出た。
制服が朱に染まる。
西を見ると、太陽が空を赤に染めていた。
雲は上側が朱色。真ん中が白色。下が赤紫。
カラスが気ままに飛んでいる。
時の流れをゆっくりと感じた。
私はその景色を目に焼き付ける。
私達が始まった日の空だから。
大君くんを見ると、彼もそう思ったのか空をまじまじと見ていた。
夕焼けに染まる大君くんは何だか別人だ。
私は吸い込まれそうな気持ちになる。
「綺麗な夕焼けだね」
そう言って振り返ったから、慌てて顔を前に向けた。
「そうだよね」
さっきまで、夕焼けじゃなくて大君くんを見ていたので恥ずかしい。
大君くんは頭をかいた。
「でも、夕焼けに包まれた平田さんも綺麗だよね」
急に何を言うんだ。この人は。
けれど私は逆に笑えてきた。
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「私も同じこと考えて見てたよ。大君くんをもっと好きになった!」
大君くんに背を向けて先を行く。
夕焼けが私の頬の色を隠してくれるだろう。
が、肩を掴まれ振り向かされる。
「俺も、平田さんを前より好きになった。……好きだ」
気が付いたら彼の温もりに包まれていた。
「俺の可愛い唯一の人」
体が沸騰しそうだ。耳まで赤い自信がある。
彼は私の顔を見て笑った。
「好き」
私は大君くんの言葉に酔わされて、息を止められそう。
次第に彼の顔が近づいて、ピントが合わなくなった頃、唇が重なった。
泣きたくなる。
幸せすぎるから。
とうとう泣き出した私の涙を、大君くんが拭う。
「イヤだった?」
「知ってるくせに」
私の涙の理由、感のいい大君くんなら知ってるはず。
「イヤじゃないよ。大君くんだから」
大君くんは、立ち止まって顔を覆う。
隠しきれていない耳は薄ピンク色。
大君くんは頬を赤くしたまま、手を出す。
「手をつなごう」
「うん」
この物語は続く。
あなたと私がいる限り。




