愛二乗=夏祭り
「果穂子ー、夏祭り行こ!」
そうして行くことになった、高校に入って初めての夏祭り。
これまでとは違ったお祭りにしたい。
少し背伸びもしたいよね。
一番可愛く綺麗に見てもらいたい人のためにおしゃれをするの。
当日、果穂子は時間ぴったりに現れた。
雪哉は楽しみにしすぎたため、30分も早く来ていた。
そして絶叫する。
「果穂子可愛いーーーー!!」
抱き付いてくる雪哉。
押しのける果穂子。
「ちょっ、離れて。浴衣が崩れる!」
「……それはそれでおいしいかも」
「何か言った?」
「いえ、何も」
果穂子は紺色の、アサガオが色鮮やかな浴衣を着ていた。
そして蝶がモチーフのネックレスをしている。
髪はアップにしているため、いつもより大人っぽい。
爪にマニキュアを塗っていて、少し色香が漂う。
「本当に似合ってるよ、果穂子」
にっこりと満面の笑み。
落とされたのは私の方かもしれない。
雪哉は雪哉で浴衣姿の果穂子に興奮していた。
そしてより深みにはまってしまったと嬉しく思うのだった。
つまり二人とも似たようなことを考えていた。
果穂子と雪哉は夜店を回る。
りんご飴を買ったり、イカ焼きを食べたり。
ヨーヨーすくいもした。
しかし次第に果穂子の顔が引きつってくる。
原因は足。
下駄がすれて痛いのだ。
そして最悪なことに鼻緒が切れた。
立ち尽くす果穂子。
そんな果穂子に気付くことなく、進んでいく雪哉。
気が付けば独りになっていた。
立ち止まっている果穂子は邪魔だとばかりにいろんな人にぶつかる。
紐が千切れたから進めない。
雪哉がいないから心細い。
突然強い力で腕を掴まれる。
引き寄せられた先には雪哉がいた。
私を包む腕、体温に安心する。
「急にいなくなったからびっくりした」
「ごめん、鼻緒が切れちゃって」
ちらりと私の足元をのぞく雪哉。
すれて赤くなっている足に、切れて地面についている鼻緒。
納得したようだ。
彼はなぜかにっこりとする。
「それなら任せてよ」
何か嫌な予感しかしない。
数秒後その予感は的中する。
あっという間に膝の裏に腕を通され、背中に手を置かれる。
そして視界は90度変わった。
状況を理解した後すぐに抵抗する。
「ちょっ、恥ずかしいってば。おろして」
「ちょうどいいからこのまま移動しようか」
それはつまり断固拒否と言うことで、……このままの状態ってこと!?
周りの視線が恥ずかしいんですけど!
そう、日常生活で滅多に見られることのないお姫様抱っこを私はされていた。
視線も集まる集まる。
「花火がよく見える場所まで行こうか」
「出来れば人気のない所がいいデス」
にっこりと笑う雪哉。
「そんなに二人っきりがいいの?」
「バカ!」
顔真っ赤にして言っても意味ないだろうけど、言わずにいられなかった。
酷いこと言ったかなと思って顔を見る。
彼はこちらのことなんてお見通しというように微笑んでいた。
彼は神社の階段を上る。
60段もあるので雪哉に降ろしてと頼んだけど聞いてくれなかった。
「俺の夢は結婚式でお嫁さんをお姫様抱っこすることなんだ。
世界で一番綺麗な愛しい人を自慢したい。
これが俺のお姫様なんだって。
俺がお姫様抱っこすることでお姫様にしたいんだ」
まったく顔が上げられない。
「高校に入ってから毎日筋トレしてるんだ」
そうでしょうとも。
私を支える腕の強さ。
頭に触れる胸筋の堅さ。
全てが彼の努力を証明していた。
何より嬉しいのが中学生時代にした話を覚えてくれていると言うところだ。
あの時私達はこう言った。
雪哉は私の旦那さんに、私は雪哉のお嫁さんになりたいと。
戯れのように交わした言葉。
幼い口約束だった。
まだ高校生なのに真剣に考えてくれているあなたが好きです。
ああ、もう。こんなに好きにさせてどうしてくれるの。
爆発してしまいそう。
だから悔し紛れに雪哉の首に手を回した。
雪哉は私の顔を見て甘くとろけそうな微笑を落とす。
そして私を強く抱える。
ねぇ、そんな微笑み私以外に誰にもあげないでね。
ドン、と上がる花火。
階段の一番上で見る景色は格別で。
私は花火の打ちあがる中彼に感謝の言葉を送った。
とても小さい声だったけど、きっと聞こえてる。
雪哉私のほう見て笑ったもん。
花火が終わって。
「ちょっと、いい加減降ろして!」
「だーめ」
「家近いからさ!恥ずかしいの!」
「むしろ果穂子のご両親に挨拶する」
「だめーーーーー!!」
「じゃあこのまま帰ろうか」
なんだかしてやられたような気がする。