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愛 二乗  作者: 花ゆき
中学生編
28/37

愛二乗=“デート日”



大君はカレンダーを見る。

もう十月だ。時がたつのは早いなー。


そして今日は日曜日。

“デート日”。

決まった経緯はこうだ。




「デートしたいよねー」

「そうですよね」


「でも、どちらかを選んでもらうんだから公平でないと。デートは交代でしましょ」

「賛成です!」


「あの、俺の意見は?」




まあこんな感じで決まったのだ。

今日は平田さんとデートの日。




待ち合わせには俺がいつも早く着く。

待たせたくないからね。

平田さんは先に待っている俺を見て、いつも慌てて走ってくるのだ。


「そんなに急がなくていいのに」

「だって待たせてるから」


こういう気遣いをする平田さんは可愛いなぁって思う。


「何処行こうか」

「ゲーセン!」


手を上げてまで答える平田さん。

俺はニヤッと笑う。


「勝てないのに?」

「今日は勝てそうな気がする!」

「じゃあ負けたほうは「ジュースを奢る、でしょ?」


こんな展開が読めるほど、彼女とデートした。


「そう。負けるつもりはないけどね」

「くぅ~、今日こそは奢らせてやるー!!」




数時間後、俺達はドーナツ屋にいた。


「ゴチになります」


俺ははつらつとして言った。

財布の紐を解く平田さん。

ああ、小銭数えてる。


そんな彼女を隣に、ドーナツをトレーにのせていく。

その量に平田さんはぎょっとしていた。


「そんなに食べるの?」


女の子からしたら三つは多いのかもしれない。

「そうだよ」と短く答えた。



向かい合って座るような席に移動する。

互いのトレーで机が見えなくなった。


狭い。いや、普段はそんなこと思わない。

原因は平田さんだ。トレーがぶつかる距離にいるだけ。

それだけなのにどうして緊張するのだろう。


目が合った。正面を見れない。


気まずくて、視線を落とした先に救世主がいた。



そっと彼女のトレーにドーナツを置く。

彼女はびっくりして俺を見る。


「いつもジュース奢ってもらってるからお礼だよ」

「うっわぁ~、嫌味だ」


そう言いながらも彼女はありがとうと笑って食べる。

買ってよかった。





帰り道、夕飯時のためか人が多い。

人の波に逆らって歩くのは大変だ。さっきからいろんな人がぶつかっていく。

それは平田さんも同じだったようだ。すでに人ごみに流されている。


思わず彼女の手を掴む。

ほっとため息をついてから「危ないところだったね」と彼女に笑いかける。

彼女はりんごよりも赤い顔をしていた。その視線の先を見て慌てる俺。


さっきとっさに平田さんの手を取ったけど、これって、これって。



「ごめん、今手を離すから」


けれど手が離れることはなかった。

強く握られた手がそれを拒むのだ。彼女に視線で問う。

平田さんは地面を見たまま小さい声で呟いた。


「このままがいい……」


消え入りそうな声だった。それでも、確かに俺に届いた。

そしてその言葉は何度も俺の頭を駆けめぐった。


いつまでも反応がない俺に彼女は「ごめん」と言って手を離そうとする。

俺は急いで手を握った。


「このまま帰ろう」


彼女はこくりと頷いた。





あっという間に彼女の家に着いてしまった。けれど楽しかった今日はおしまいだ。

俺は後ろ髪をひかれるような思いで背を向けて歩き出す。


急に家に入る平田さんが見たくなって、振り返る。

すると寂しそうな目をした平田さんと目が合った。俺を見ていたんだ。

けれど俺と目が合った瞬間、花が咲くように笑ったのだ。


「また明日」

「うん」



それだけしか言えなかった。

胸の奥が妙に苦しくて、足を早めて帰った。







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