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愛 二乗  作者: 花ゆき
中学生編
23/37

愛二乗=好きだから涙

 


 学校の帰り道、彼女に来週の日曜日は空いていないことを伝えた。


「誰と遊ぶのですか?」

「啓一と平田さん、柿本さん」


 彼女は膨れっ面をした。


「女の人も、ですか」

「ああ、啓一の好きな人がいてね。応援中」

「なら二人で行けばいいじゃないですか」

「Wデートが条件でね」

「でも、イヤです。こんなこと言ったら嫌われるかもしれませんけど、他の女の人と一緒にいないで下さい」



 これまでも似たようなことを言われてきた。

 その時は委員会の仕事だったから、平田さんに会わないなんて無理だった。

 だから意見が食い違って別れた。


 でも今回は俺が悪い。


「分かった。これきりにするよ」





 デート当日。

 昼から別れて行動することになった。

 前にあった、別行動するための啓一のわざとらしい演技はない。


「大君くん、元気ない?」


 平田さんが心配そうに俺の顔を見る。

 相談してみようか。

 平田さんも女の子なんだし、いいアドバイスくれるかもしれない。


「実は……」


 こういうことがあったのだと話す。

 平田さんは黙って聞いてくれた。


「彼女は不安なんじゃないかな。来週にでもデートしたらいいと思う」




 それからも楽しく過ごした、と思っているのは大君だけだった。

 果穂子は相談されたとき、泣きたくなった。

 自分の中で二つの気持ちが衝突したからだ。


 一つは彼女を犠牲にしてデートを続けること。

 もう一つはWデートを止めることだ。


 大君くんに嫌われたくなくて、いい子でいるしかなかった。

 デート、迷惑だったんだ。分かってたけど、面と向かって言われるとキツイ。


 私は内心泣きながら彼女とのデートを勧めた。


 臆病な自分が嫌い。

 いい子な自分も嫌い。


 私は大君くんに気付かれないように元気に振る舞った。





 大君は果穂子の言うとおり、彼女とデートの約束を進めた。


「先輩は鈍感な所があるから、デートに誘われると思いませんでした」


 つまりご機嫌取りのデートだとばれているようだ。

 とても気まずい大君。


「アドバイスくれたのって女の人ですよね」

「どうしてそれを?」

「ついでにWデートの人でしょう」

「よく分かったね」


 突然彼女は大きく息を吸い込んだ。


「こっの、鈍感!!」


 普段は使わない大きな声に大君は怒っているのかと思った。

 しかしポロポロ落ちる涙に悲しんでいるのだと気付く。


「どうしてそんなに優しいんですか。

 みんなに優しい先輩が好きです。そんなあなたが好きになりました。

 でも今はっ、特別な優しさが欲しいんです。

 こんな何の魅力もない私が付き合えただけでも奇跡なのに、どうして次も欲しくなるんでしょうね」


 彼女は涙を拭いながら力なく笑った。


 彼女は知っていたのだ。告白されたら大君が断らないことを。

 それは相手のことを好きかどうかさえも怪しい。



 ――お願いよ、雪哉。女の子には優しくしてあげて。



 姉が泣いている。姉の泣いている背中が頭から離れない。

 あれからその言葉が離れなくて、俺は優しくあろうとした。

 姉の望む男に。




 けれどこれは何だ。

 女の子が泣いている。

 涙なんて見たくないから俺は今まで頑張っていた。

 その俺が泣かせている。


「ごめん」


 この子を大切にしよう。

 そして好きになろう。

 傷付けたお詫びに――。







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