愛二乗=作戦実行!
映画を見に行くことになった。
なんでも平田さんが見たい映画があるそうだ。
それがまさか、ボクシングだったなんて……!!
いや、内容はおもしろかった。
でもさ、女の子と見に来る内容じゃないよね。
ラブコメ映画とかあったのに!
俺、実は見たかったんだけど!!
「果穂子ー、どうしてあの映画選んだの?」
ファミレスで昼食をとっていると柿本さんが尋ねた。
同じことを思っていた俺は、箸を止めて平田さんを見た。
「え?あれいいじやん。男と男の友情!拳で語り合う!」
「あー、そう」
柿本さんは興味をなくしたように食べだす。
俺もそうした。
平田さんってあーゆーの好きなんだ。
俺は姉の影響が強いからか、ドラマでも恋愛モノ好きだしなぁ。
食べ終わった頃、啓一が「あ!」と大きい声を出した。
「どうしたんだ」
そう言ってる最中もジーンズのポケットをガサガサと探っている。
「忘れ物した。俺さっきの映画館戻る」
「まったく啓一は。待っててやるから行ってこい」
「いや、先に行ってくれ。後で追いつくから」
「しょうがないわね。私が付いて行ってあげるわよ。ほら、さっさと行くわよ」
どうやら別れて行動することになったようだ。
で、啓一。一体何を忘れたんだか。
財布と携帯持ってたよな?
わざとらしいぞ。
だけど柿本さんと二人っきりになるために、別れるのを頼まれていたからな。
さて、次何処だろ。
すると彼女は俺を見て行った。
「あの太鼓のゲーム一緒にしょ?」
斜め前にあるゲームセンターが気になるようだ。
彼女が言った太鼓のゲームは店の入り口にあった。
そして並んでいるのは小学生ほどの小さな子ども達。
「俺はいいけど、結構並んでいるみたいだよ」
「いつものことだからOK、OK」
平田さんは子ども達の後ろに並んだ。
それがなんだか可笑しくて、笑えた。
後ろに並んでまで順番をちゃんと守っている所とか、大人しく順番を待っているところとか、小学生と変わらない。
「大君くんも早く早くー!」
俺を遠くで呼ぶ。
並ぶと小学生達と平田さんが話していた。
「姉ちゃん久しぶり~!ランクどこまでいった?」
「まだ太鼓駆け出しだよー」
「俺太鼓初級者!!」
「ぇえ!?すっごーい!!」
きゃっきゃっとはしゃいでいる。
子ども達とまざっても違和感のない、無邪気な平田さん。
「この兄ちゃん、姉ちゃんの彼氏?」
「ち、違うって!大君くんに失礼でしょ」
うーん、なんだろ。この微妙な気持ちは。
ようやく順番が回ってきた。
えーと、どうやってやるんだっけ?
「兄ちゃん、そこ“カッ”!横叩いて!」
「両方で叩いて!」
「連打連打!!」
親切にも教えてくれました。
「もう追いつかれてるし!」
ぎょっとして俺のスコアを見る平田さん。
いつの間にか追いついてるみたい。
「打倒平田さんかな」
にゃりと笑う。
するとムキになるのが平田さんだ。
「負けないんだからね!!」
そして。
「兄ちゃんかっこいいな!」
「ありがとう」
「なんかコツあるのー?」
その横でしょぼーんとしている平田さん。
結果?あははは。分かるでしょ。
「大君くん、次はこれで勝負!」
指したのは狙撃のゲーム。
立ち直り早いね。
「いいよ。負けたほうがジュースおごるなんてどう?」
「りんごジュースだからね」
「平田さんが勝てたら、ね」
「絶対勝つ!」
結果として俺はコーラを飲んだ。
横で平田さんがブツクサ言いながらりんごジュースを飲んでいる。
「あのトラップは予想外だったわ」
「平田さん見事にひっかかってたね」
「ライフが1減ったし」
「最後までいけなかったし?」
やばい、平田さんをからかうのたのしいかも。
「その言葉宣戦布告と受け取った!次はあれで勝負!!」
「いいの?俺あれは得意だよ」
「私だって得意なんだから。兄と鍛えたあの技、今こそ見せる時!!」
そんな感じで一日は過ぎていく。
夕方、すこしひやりとした空気が気持ちいい。
ゲーセンで白熱しすぎたためだろう。
「あんなにはしゃいだのひさしぶりかもなー」
「私達まだ中学生だよ?はしゃがなきゃ」
「……そうだね。しっかし今日は俺の全勝だったね」
「次こそはっ、次こそは!」
「勝てるかな?」
ニャリと笑う俺。
悔しそうにする平田さん。
馬鹿みたいなやり取りが楽しかった。
俺はまだ中学生で、微妙な時期。
大人ぶりたくて、子どもにもなりきれない。
それでも君がまだ子どもでいていいと言ってくれた。
俺はまだ、子どもだ。




