愛二乗=傍に
体育祭が終わり、またいつもの生活に戻る。
「先生も人使い荒いよね」
「あはは」
大君くんと二人で教室に残っている。
私達のいつもは委員長の仕事で居残りすることだった。
前とは違って少しでも傍にいられるだけで嬉しい。
それだけで満足していたのに――。
ある日一年に呼び出される。
「体育祭だからしょうがないと思って雪哉先輩を貸していたのに。
どうしてまだ独り占めしてるんですか?
お願いです、取らないで下さい」
その娘は体育祭で見た女の子だった。
「そんな、私独り占めなんてしてない」
「じゃあどうして毎日一緒に帰れないんですか?
少しでも傍にいたいのに!」
“少しでも傍に”
それは果穂子が先ほど願ったことだった。
恋するものなら誰しも思うこと。
だから果穂子は彼女の気持ちが分かった。
「そうよね。明日から一緒に帰れると思うわ」
「ありがとうございます!」
「大君くん、今日の仕事もう終わったから」
「え?大分あったのに?」
「昨日家でやってきたの」
「じゃあプリント職員室に持って行くよ」
「ううん。一人で出来るから」
避けるようにして職員室に向かった果穂子を、雪哉は不思議そうに見ていた。
だんだんと顔色が悪くなっていく果穂子。
心配した皐月は尋ねた。
「どうしたの?最近変よ」
「何でもないから」
「心配なのよ。果穂子は頑張りすぎちゃうから」
果穂子はぴくっと反応する。
目が皐月を見た。
そして事情を話しだす。
「そんなの、果穂子ばかり苦しいだけじゃない。
果穂子の幸せはどこにあるの?」
「でも、あの子の“好きだから傍にいたい”って気持ちは分かるから」
「あの子は果穂子じゃないのよ。傍にいたいのは果穂子もでしょ?」
苦しそうに果穂子は頷く。
いたわるように皐月は果穂子の肩をたたいた。
そして大君も果穂子の異変に気付いていた。
その原因を突き止めれば、これまでの関係が崩れることも。
大君はそれを覚悟の上で話しだした。
「俺は自分の仕事をやり遂げることに誇りを持ってる。
でも最近相方が仕事を全部終わらせてしまうんだ。
本来委員長の仕事は二人分配布されてるんだけど、彼女一人で頑張ってるから顔色も悪くなってきている。
君は何か言ったのかな?」
言葉は優しかった。
けれど突き放す空気が大君を纏う。
そしてもう終わりだと感じていた。
だが、予想外の言葉が聞こえた。
「ごめんなさいっ。もうしないから別れるなんて言わないで!」
彼女は必死だった。
自分がしたことを認め、謝るほど必死。
その反応に大君の怒りが冷めていく。
「あ、うん。分かってくれたならいいんだ」
「よかったぁ」
ほっとしたように笑う彼女を何故かその時可愛いと思った。
次の日、大君の彼女は謝りに行った。
それからいつも通りの生活へと戻る。
けれど少し違うことがある。
「じゃあまた明日」
大君と帰らなくなったのだ。
理由は靴箱で健気に待つ彼女。
今まで疲れたようにカノジョのもとに向かう大君とは違って、顔が明るい。
私、最悪だ。
疲れた大君くんを見て、私は違うって優越感に浸ってたんだ。
最悪。これから二度と大君くんは私を見ないだろう。
彼女の元に向かう大君の背をずっと見つめ続ける果穂子。
妙に泣きたくなった。
『傍にいたいのは果穂子もでしょ?』
うん、だから苦しいよ。
家に帰ると長兄が彼女を連れてきていた。
「いいなぁ……」
そのヒトコトを聞き逃さない長兄。
「はははは!羨ましいだろ。
でも彼女は俺がアタックして付き合うようになったんだ。
まず行動してみなきゃな」
ぽんぽんと撫でられた頭。
気持ちが軽くなる。
大君くんには彼女がいるけれど、頑張ってみよう。
それによって被害が出たとしても、私だって傍にいたい。
欲しいものがある。
大君くんの彼女になりたい!




