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愛 二乗  作者: 花ゆき
中学生編
15/37

愛二乗と王子

 


 二年、一学期。また委員長になりました。



「また一緒だね、平田さん。よろしく」

「はは、よろしく」



 今回も大君くんと一緒です。

 というか、前委員長をしていたのでまた頼まれたという感じ。

 みんなが部活や家に帰る中、私は手馴れた様子で仕事をこなしていく。





「さすがに二回目となるとやりやすいね」

「仕事が速くなるよね」

「残念。組みやすいってこと」


 さすが王子さま。

 女殺しのセリフです。

 というか何も言えない……。


 果穂子は頬を赤くしたまま俯く。

 その様子を雪哉は笑って見ている。



「あ、そうそう。今週の日曜日空いてる?」

「空いてるけど、どうしたの?」


 突然の話に果穂子はきょとんとする。


「いやー、姉の誕生日がもうそろそろあるんだ。

 プレゼント選ぶの手伝って欲しいなーと」


「えー!?うちの弟なんて誕生日プレゼントくれないわよ。

 むしろ『え、姉ちゃん今日が誕生日?へぇー』レベル。

 大君くんって姉思いなのね」


 感心する果穂子とは反対に雪哉は顔を青くし、ガタガタ震え始める。



「いや、誕生日プレゼントをあげないとそれはそれは恐ろしいことに……」

「へ、へぇ」

「しかもプレゼントにこだわりがある人だから同じ物じゃあ首締められるし」

「首締めるって、冗談だよね」


 大君くんはにっこりと笑う。


 えっ、まじですか!?




「ねぇねぇ、雪哉ぁ~」


 教室に突如として現れた少女。


「ああ、比奈。どうしたの?」


 大君くんがにっこりと笑っている。

 しかも下の名前で。


 新しい彼女?

 なんだ。彼女いるなら私を誘うことないじゃない。


「今日早く帰れることになったんだ~。一緒に帰ろ?」



 うわ、委員会の仕事あるのに。

 タイミング最悪だ。

 まぁでも、私一人でも何とかなる量かな?


 書類をチラリと見て確認する。



「ごめん、今日は委員会の仕事があって一緒に帰れないんだ」


「その横の子、同じ委員の子なんでしょ?

 その子に頼めばいいじゃん」



 うん、そうなるよね。

 彼女さんの言うことはもっともだ。



「そんな無責任なこと出来ないよ。悪いけど先帰って」

「いつもの優しい雪哉らしくな~い!」



 そうだった。

 学校で優しいと知られている王子は実は責任感の塊のような人で。

 一度任された仕事は何があっても仕上げるんだ。

 委員会の仕事を一緒にしてきたから分かる。


 大君くんのプライドに感心しつつも、これはやばい。

 このままじゃあ二人の仲はっ!



「いいよ、大君くん。彼女と一緒に帰りなよ。

 後はやっておくから」


 その言葉に雪哉は果穂子をじっと見る。

 そして雪哉は根負けしたようにため息をつく。


「分かったよ。今帰る準備するから待ってて」





 日曜日、駅前広場。



 ああもう、早く着きすぎちゃった。

 まだ20分前だよ。



「平田さんおはよ。待たせちゃ悪いと思って早く来たつもりなんだけど、早いね」

「あはは、早く着すぎちゃって」


 大君くん10分前に到着。


「んじゃ、早いけど行こうか」





 まず着いたのは雑貨屋。

 ぬいぐるみ、ノート、アクセサリーなどいろいろある。


「今お姉さんいくつ?」

「高1だよ」

「結構年離れてるんだね」

「そうそう、だから姉さんには頭が上がらなくて」

「ふふ、私の家でもそうだよ。お兄ちゃんが二人いるんだけどね一番上のお兄ちゃんが兄弟の中で一番権力強いの」

「どこの家も同じか~、よかった」


 自然に私達は笑い合った。





「お姉さんって何が好きなの?」

「華やかなものとかかな。でもケバケバしたものは嫌いなんだ」

「それは難しいことを。どんなお姉さんなの?」


 華やかというキーワードをもとにアクセサリー売り場に向かう果穂子。

 どこもかしこもキラキラしている中で一つだけしんとした輝きがあった。

 ただ、透明のガラスがついているだけのネックレス。

 綺麗だと思った。





「姉さんはきつめの美人かな」


 その声にはっと現実に戻る。

 きつめの美人っていうと、ゴールドが似合いそうだな~。


「何をよく身につけてるの?ピアスとかネックレスとか」

「ピアスかな」


 すると、これかな?

 私は人を引き付けてやまない赤い宝石のついたピアスを選んだ。


「うん、姉さんに似合いそう。それ買ってくるよ。先に店出てて」





 あ~、あれで本当によかったのかな。心配だよ。

 気に入られなかったらどうしょう!

 今更不安になる。


 その不安を打ち消すのが、店を出てきた大君くんの微笑み。

 よかった。


「これなら姉さんの合格点もらえるよ。

 平田さんに頼んでよかった」


 そう言ってもらえて嬉しい。けど……、


「どうして彼女に頼まなかったの?」


 大君くんは苦虫をつぶしたような顔をした。

 なぜ?


「今の彼女さ、よく物をおねだりされるんだよね。

 ブランド物なんて中学生なのに手が出るはずないじゃん。

 でも彼女はお構いなし。デート代も俺持ち。

 俺まだバイトも出来ないのにさ。

 男だから持ってて当たり前。払って当たり前なんだろうね。

 今日彼女に頼まなかった理由は二つかな。

 一つ、真剣に選んでくれなさそう。自分のものじゃないしね。

 二つ、他の物をおねだりされそう。

 だから真剣に選んでくれる平田さんに頼んでよかった」





 嬉しいと思うと同時に彼女に対して腹が立った。

 大君くんを何だと思ってるんだろう。

 彼女の甘えなのだろうか。それを大君くんは可愛いと思ってるのかな?


 何だかムカムカする。


 しかめっ面をする果穂子に大君は長方形の箱を差し出す。


「今日のお礼」


 何だろう?チョコレート?和菓子??

 開けてみると見覚えのあるものが中に入っていた。


 店で見ていたアクセサリ。

 透明なガラスが反射してキラキラしている。


「な、どうしてこれを?もらえないよ」

「だってずっと見てたでしょ。お金なら大丈夫。最近親戚の家で働いてるんだ」

「尚更もらえないよ!彼女さんにお金使うんでしょ?」


 ところが、返ってきた返事はYESでもNOでもなかった。




「俺は媚びようともしない、何にでも一生懸命な平田さんを気に入ってる。

 女の子って宝石とか好きだよね。なのに真剣に姉さんの選んでくれた。

 そんな平田さんが見てたのが飾り気のないシンプルなネックレスで。

 純粋だなって思ったんだよ。平田さんに買ってあげたいって思った」


 ね?もらって?


 そう言われればうんって言うしかないじゃない。

 大君くんは優しいけど意地悪だ。

 私が断れないように言葉を選んでる。


「じゃあつけてあげるよ」

「いや、いいよ」


 思わず断る。


「俺が見たいから」





 ほんとにこの人は女泣かせだ。

 言動の一つ一つが女を魅了する。

 私もその女の中の一人なんだろう。


 私は大君くんに背を向ける。

 大君くんが私の首にネックレスをかけ、金具をいじっている。

 沈黙が重い。

 そして、




 ドキドキする。




「出来た」


 その声でやっと沈黙は晴れた。いや、まだかすかに残っている。

 大君くんは振り返った私を見て満足そうに笑い、よく似合ってると言う。



 私は何故か大君くんの熱が残るネックレスを外したくないと思った。





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