この世界について1
親切にいくつか中古の教材を分けて頂いたので、これを使って検問所を通過する前に少し魔法について整理しておこうと思う。
まだこの星が大きく、一人一人の世界が狭かった頃、特に見どころがなかった種族である人間は増えたり減ったりを繰り返しながらある時何かしらの達成条件をクリアした。
知り合いの長命種が言うには、「おそらくこの星のある基準を超えた大きさの陸の全てに一定数の個体が生息すること」とかの可能性が高いらしいが、とにかく星の創造主かなんかが設定したそれをクリアした報酬として島や大陸ごとに人間のための新たな摂理が実装された。
この星で一番大きい陸である(最近世界地図が作られて初めて判明した)通称魔法大陸では、その名の通り大陸に生息していた人間が魔法と呼ばれる力を手に入れた。
原初の魔法は一人一種類ずつ決まった事象を起こせる陣を体に彫り込んで、魔力と呼ばれる体内に流れるエネルギーをそれに込めることで発動、生涯にわたって極めるといった形だったようだ。
それが何百年か経った頃には生存競争や使用頻度の問題で便利な魔法や殺傷能力の高い魔法ばかりが残ってしまったようで、近代の魔法学者達は火をどうにかする方法や水をどうにかする方法を道具の補助や詠唱によって魔法陣抜きで再現することに成功したが、空間の転移や液体の凍結と言った種類の魔法は失伝してしまったか、僅かな魔法陣だけが保管されている状態にあるためデータがなく、技術体系を解明することはできなかった。(前者は長距離の移動を必要としていなかったためで、後者は魔法大陸が年中寒冷な気候であるため。逆に解凍の魔法は存在する)
こういった歴史から、現在市井の者が扱う魔法の特徴は
1 火、水、土、風といった身の回りのものを杖と魔力操作によって高い自由度で成形したり操作したりできる。
2 多少の才能は必要だが、幼少期から訓練すれば複数の属性を扱えるようになり、戦い方に多様性を加えることができる。
3 体内のエネルギーを利用する都合上、平均的な魔力量だと他の大陸の異能より火力が低くなりがち。
などが挙げられる。例外として昔ながらの魔法陣の受け継ぎを行っている継承魔法使い達はたった一つの異能しか持たないため1や2のようなメリットはないが、自分で戦う必要のない身分であることがほとんどであるため問題ないらしい。
3つ目の火力が低いという問題は比べる対象が対象なためそういう表現になってしまうだけで、一般的な攻撃魔法は十分に殺傷力のある術であり、攻撃系のものなら一つ残らずリーサル・ウェポンになりうるものだ。そして使える魔法のバリエーションの多さはそのまま殺し合いにおいて大きなアドバンテージとなる。
この国ではそんな魔法の脅威から街の治安を守るために数十年前からとある首輪が開発、導入されていたらしい。一度に体外に放出できる魔力の制限を行う装置、正式名称は "市民権"というらしいが、ちょっとアレなので首輪と呼ばれることが多いという。個人的には首輪という名前もどうかと思う。
大体5歳頃に魔力テストを受けることによってどんな身分の者でも強制的に嵌められるらしい。職業や立場によって首輪の許容範囲は多少前後するようだが…と言った事が長々と書いてある。正直そこら辺はどうでもいい。早く魔法を習わせてくれ。
そういえば強奪村の連中もほとんどが首輪がついていた。あんな奴らでも魔法を使えるなんて、ここらへんの上位存在はどれだけ寛容だったのだろう。人間の学問に落とし込む力が優れていたのかもしれないが。
マフラーは…どうだったかな?なにしろマフラーが太すぎて首輪をつけていたかなんて印象に残らない。あの威力の魔法を連発できるんだから多分ついてないんだろうが、ああいうのを野放しにできてしまうならやはりこの市民権というシステムの欠陥だ。ヒントにはなるだろうがやはりこれは俺の目的には足り得ない。
教科書の最後はこう締めくくられている。
―――風の噂だが、世界には魔法以外にも多くの神秘が存在しているらしい。海を割り、山を砕き、星を落とす術も、脳を溶かし、心臓を破り、心を折る術も現在の魔法には存在しない。しかし我々は貧しい者も病める者も女子供に至るまで皆、尽きぬ矢と鈍らぬ剣を手にしている。我々には団結が必要だ。民の数と質の高さこそを我らガンドヘイムの武器とすべきなのだ。我々が互いに背中を任せることができたならば、魔法の国に敵はもはや存在しないだろう―――国立魔法研究所
背中を任せられるように。その答えが銃の口径を狭めることだというのなら些か残念だと思う。どんなに威力が弱くても安全装置のついていない銃を懐に忍ばせるのは自殺行為だ。
それらを野放しにするのならば講じるべきは弱体化ではなく、友軍攻撃の無力化であるべきだ。
魔法陣の解明はルーン文字の解読のイメージです。起こる事象と照らし合わせてルールを読み解いていくので、サンプル数が少ない文字や失われてしまった文字は解読できず、魔法陣を受け継いでそのまま使うことはできても詠唱などにして一般の魔法使いが使えるようにはできません。これらの魔法を継承魔法と呼び、そのうちのいくつかは魔法にしては莫大な効果をもたらすものも存在します。主人公の靴の裏についてはまたいつか。