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42話 オヤジと真実と台本(2)

 目が自然と彷徨う。そして、バクバクとなる心臓。

 怖い。え?オヤジってこんな怖かった?どうだったけ?なんでこんな事を覚えていないのか。とりあえず説得を試みよう!オヤジは優しくて穏やかだったはずだ!たぶん‼︎


「イヤ……待って、だってPTSDだってあるよ?トラウマになったらどうすんの?」


「試練の神の神託は過酷だ。あの神託を受け続けて、トラウマがない君にそれを与えるのは私には無理だ。それに君はついこの間、私に殺されかけた。だけどまるでなかったかの様に、僕の目の前にいる。どうやったらPTSDを発症するのか逆に知りたい」


「だって――オヤジだし?」

「では、何をしても平気だな。安心した。君が息子で良かった、咲夜」

 あれ?なんか。昔からその言葉を聞いてたけど、なんか違う?気がする。


 混乱する俺を無視して、オヤジは何もなかったかの様に続ける。


「まぁ、とりあえず僕の1回目の策は失敗した。次の策がこの間の戦いだよ。概略としては

①アダルベルト王太子を半死半生にする。

②その状態で燈子さんに会わせる(人目のない場所限定)

③燈子さんの目の前で、更にアダルベルト王太子を痛めつける。

④燈子さんが神に祈る」


 頷く俺と麗。

「僕は咲夜を良い感じにこんがり焼い――致命傷を与えたので、燈子さんを拐ったラウラと合流した」


 オヤジ……今良い感じに焼いたって言うつもりだったよね⁉︎この世界に来て倫理観崩れてない?確かにこの世界はケガとはすぐ治るけどさ。


「そこで計算外な事が起った。麗ちゃんだ」

「私ですか?だってあの戦いは、あっさり雅也さんが勝ったじゃないですか」


「僕には勝利の神が付いてるからね。1対1ならある程度は負けないよ。特にあの時の麗ちゃんは、暴走してたしね」


「でしたね。でも今なら勝てる気がします!」

 自信満々に語る麗。

 なんで?その自信はどこから来るの?


「君の神は慈愛だ。愛は奇跡を起こす力。計算では追いつかない。麗ちゃんは4人の中では最強だ。おそらく勝てない」

 オヤジが俺を見る。


「気をつけるんだよ。咲夜」

 俺は思いっきり頷いた。


「じゃあ、麗がいたから作戦が失敗だったて事?」


「そうだよ、咲夜。麗ちゃんの攻撃は規格外だったよ。荒野にあった枯れ木に力を与えて成長させ、増殖させ、その枝を伸ばして攻撃してきて……」


「え!麗。それって魔法の系統は何?どの魔方陣を組み合わせてるの?」


「系統?組み合わせ?魔法だから、想像すれば良いんでしょ?」


「魔法は、化学と数学だよ。公式を組み込んで魔力を乗せて発動するんだ」

「分かんない」


 えへへ~って笑ってるけど、麗。そう言う問題じゃないんだけど。

 どう説明するか悩んでる俺を横目に、オヤジは組んだ手の甲で額を支え、肩肘付いた状態で深いため息をつく。


「しかもね――」

「まだあんの⁉︎」

 そのままの姿勢で大きく頷くオヤジ。


「麗ちゃんは、地下のマグマを呼び出そうとしたよ」


「どうすれば、そんな事できるの⁉︎」

「できないの?」


「できないの?じゃないよ、麗!それは何の系統なの。どうすればできるの⁉︎」


「ん~勘?だって、漫画とかアニメとかだと、そんな感じでできてたし?」


 麗はほんわかした雰囲気で、ケーキ食べながら話してるけど、多分、そういう問題じゃない!かわいかった彼女が、段々化け物のように見えてきた。


「実際、味わった僕はものすごく焦ったよ。襲い来る木々のせいか、プレートの歪みせいか分からないほど、強烈に地面も揺れてるしね。王都まで被害が出るのではと、内心は冷や汗だらけだ。勝利の神も、お手上げ状態だったよ。愛の奇跡は恐ろしいよ」


「あいのきせき………………」


 呟きながら思った。俺とオヤジにないものは漫画やアニメの知識。麗にあるのは、その知識。それの違いかも知れない。世の中は勉強だけではダメだったかも……。


「えっと、と言う事は、本来だったら、オヤジは致命傷を負った俺をオカンに見せて、オカンが俺を助けるために神に祈るように仕向けたかった……けど、麗が強かったから諦めた。で良い?」


「そうだよ」

 散々失敗してる戦略の反省でもしているかの様に遠い目をしながら、オヤジは返事をした。でも失敗したのは規格外の女性陣のせいのような気がする。


「僕もそこで疲れきってしまったから3つ目の作戦を実行することにした。つまり咲夜に魔王と名乗る僕のところに来てもらい、燈子さんの前で戦う作戦だ。本当は麗ちゃんもこちらに取り込んで、有利に運ぼうと思ったのだけど、そこは上手く誘導できなかった」


「どちらにしろ、俺がやられるんだね?」

「一応、連れてきた日に燈子さんを誘惑してみたけど、全く僕の事は気付かなかったよ。キスまでしたけど、だめだったね」


「そう――なんだ、ね」


 ごめん……オヤジ。親のそんな話は聞きたくない。そしてオカンの勘は何の役にも立たない。

 しかしそんな俺の戸惑いを無視して、オヤジは話を続ける。


「しかもまだ魔力が戻ってなかったから、拒絶反応もすごかったし……僕は心底焦ったよ」


「拒絶反応ってなんですか?」


「僕達4人の魔力は強い。その魔力の強さは体液にも宿る。燈子さんにキスした時に、噛みつかれた。僕の血を飲んだ燈子さんは苦しんで死にそうになった。ショックだったよ。このままでは僕は燈子さんとキスもできないと……」


 落ち込むオヤジ……。ああ、なんだろう。大事な情報が出てるんだけど、最後の言葉で台無しになっている。突っ込みたいけど、我慢しよう。


「前に聖魔法師団の副団長に魔力を流した時と同じかな?でも俺の尿検査をしたオカンは無事だったけど?あれは試験管に入ってたから大丈夫だったって事?」


「魔力はすぐに霧散するからね。直接的に体内にいれなければ平気だよ。まぁ、君達程度のキスじゃあ、まだ大丈夫だよ」


 にっこり笑うオヤジ!俺と麗は真っ赤になる!どこまで知ってるんだ!怖い!

 俺はコホンと咳をする。頑張れ!俺!王太子教育を思い出せ!


「オカンは俺たちが来たことに気付いてないんだね?」


「気付いてないよ。幽閉しているし、魔力は封印した。心も多少は折っておいた。だから、これから台本の打ち合わせだ」


 オヤジが俺と麗に厚い本を渡してきた。受け取って、捲る。


「『役:アダルベルト:セリフ:エヴァンジェリーナ嬢を返せ?』って、本当にこれ台本だよ?つまりこれを、俺達でやるって事?」


「助かったよ。ウルティモとヴィアラッテアが過去のことを話さなければ、僕が一人でやらなきゃいけなかったからね」


 にっこり笑うオヤジを見ながら、前の戦いを思い出す。随分芝居がかった言い回しをすると思ってたけど、これが原因か!


「楽しそう~。あ、私の役って回復役なんですね。あんまり得意じゃないけど、頑張りますよ!」


 麗はすっかりやる気だ。なんだか先行き不安になってきた。

 あの猪突猛進、暴走列車のオカンに、シミュレーションが通じるかな? 

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