38話 アダルベルト目覚める
咲夜君が起きたのは、あの人の言葉の通り翌日だった。
燈子さんが男の人と消えた後、ウルティモに教えてもらって狼煙を上げた。自分の内から溢れる魔力は私に自信をくれた。
アダル様に回復魔法を掛けながら待っていると、聖騎士団と聖魔法師団の人達が来てくれて、無事に咲夜君と城に戻ることができた。
城に戻った私を待っていたのは王様とエヴァのお父さん。二人には全ての出来事を話した。
アダルベルト様は男の人に負けたこと。
エヴァは戦利品として連れて行かれたこと。
私も誘われたけど断ったこと。
エヴァの事と男の人の事は、その日の内に公式発表された。男の人には『魔王』と言う名称が与えられた。
理由としては2つある。アダルベルト様が戦っている姿を、多くの国民が見ていたから。そしてもう一つは、黒い城が姿を現したから。黒い城の登場は『魔王』の登場と同時期だったので『魔王城』と言う名称で正式発表された。
魔王城は大陸の中央アウローラ山に顕現した。アウローラ山は昔から不可侵の山だったらしい。
なぜなら山を登ろうとすると、気が付いたら裾野に戻るから。いつしか信仰の対象となり誰も近づかなくなった。
人の目に多く映ってしまった為、隠しておくことができず、早々での発表となった。
世の中が騒がしくなってきた様に感じる。落ち着かない。早く咲夜君に起きて欲しい。元気になって欲しい。と神様に祈っていたら、咲夜君の目が覚めた。
優しい神様はいつも私のお願いを聞いてくれる。
「あ、麗……。ここは?」
「咲夜君⁉︎王妃様!咲夜君が‼︎」
アダル様の部屋のソファで休んでいた王妃様が駆け寄ってくる。
今この部屋には私と王妃様とアダル様の3人。私は王妃様に前世の話をして、連れてきてもらった。『あなたがウララ様なのね』って言われた。とても綺麗で優しい王妃様。アダル様に良く似ている。
「アダル‼︎目が覚めたのですね」
アダル様はゆっくり起き上がった。片手で何かを探している。ヴィアラッテアだ!
ヴィアラッテアを掴み私を、王妃様を交互で見る。
「俺は、負けたんですね……。やつはセヴェーロはどこへ。この国は…………」
自信なさげに目を伏せるアダル様はヴィアラッテアを握りしめてる。アダル様にとってヴィアラッテアがどんなに大事な存在かが分かる。
「魔王はセヴェーロと言うのですね。彼には『魔王』と言う呼称が与えられました。魔王は戦利品としてエヴァンジェリーナ嬢を連れ去りました。それ以外の被害はありません」
王妃様が凛として声でアダル様に告げた。と同時にアダル様が起き上がる。
(止めなきゃ‼︎)
私は必死にアダル様に縋り付く。
「ダメ。アダル様、まだちゃんと治ってない!」
「離せ!オカンを助けに行かないと!」
「どうやってですか?貴方は負けたのですよ?アダル……」
王妃様の一言で、崩れ落ちるように咲夜君はベッドに座った。私はアダル様の体から離れる。すると辛そうな咲夜君の表情が見えて、心が痛む。
「幸い我が国の被害はエヴァンジェリーナ嬢一人だけです。あなたが負けたことにより、王侯会議は難航しています。このまま静観しろとの発言もあるくらいです。エヴァンジェリーナ嬢一人で済めば、安いものだろうと」
「母上……」
「もちろん、わたくしはそうは思いません。ここで静観してしまえば、国民の信頼を失うでしょう。近隣諸国にも侮られる事になります。幸いな事に議会の大半はこの意見です。ですが、ここから建設的な意見が出ず止まっています。理由は分かりますね?」
「私が……負けたからですね」
悔しそうなアダル様の表情に涙が出そうになる。確かに魔王は、彼は、無傷だった。アダル様と違って……。
「そうですね。次は勝てますか?アダル?」
「俺…いや私では勝てないと思います」
「コスタンツァ様、貴女は魔王に勝てますか?」
王妃様が私を見る。突然の質問に戸惑う。今の私は魔法を使える。だからかな?答えがはっきり分かる。
「私――勝てると思います。たぶん、私のほうが強いです」
「え?麗!なんでそんなあっさり」
「咲夜君、私ね。魔法が使えるようになったの。実は咲夜君の後に魔王とも戦ったの。あの時は錯乱状態だったから、うまく戦えなかったけど。咲夜君が戦い方を教えてくれれば、もっともっと強くなれるよ。魔王なんてコテンパンにやっつけちゃう。咲夜君は私に守られてればいいんだよ」
「嫌だよ!それ!俺が麗を守りたいよ」
「じゃあ一緒に闘おうよ!どっちが先に魔王を倒すか競争だね!」
「では決まりですね!母はこれから今の話を王侯会議でぶちまけて来ます」
王妃様が立ち上がり、私と咲夜君を見て、にっこり笑った。
(かっこいい~)
「ぶちまけるって、母上、いつの間にそんな言葉を……」
「ぶちまけちゃってください!文句いうやつは、私のパンチをお見舞いしちゃいます。私のパンチは強いですよ~。ひと振りでこの城を壊せる自信があります。人間なんてぺっちゃんこです!」
「ぺっちゃんこって……麗――」
「頼もしいわね。それも言ってくるわ。では二人きりになるけど、昔は恋人でも今はまだ他人よ!節度は守りなさいね」
王妃様はそう言いながら、早足で部屋を出て行った。
赤くなる私。咲夜君は、こんなとこまでオカンの影響がってブツブツ言ってる。燈子さんは素敵な人だもの。だからみんな影響されちゃうんだよ!
なんだろう……事態は好転していないのに、咲夜君が起きただけで、それだけでうまくいく気がして来た。
私はきっと愛する人達のためなら、なんでもできる。できちゃう!怖い者はない!




