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37話 監禁ルート(2)

「君は、フォルトゥーナ王国の重鎮達の企みを知っているかな?君の父上が中心だ。王も知らない」


 話を変えるかのようにセヴェーロが言った質問に表情が歪む。

 なんだろう、知らない。その前に我が国の情報が漏れている事実に驚愕する。いや、この男の嘘かも知れない。


「君の組織も知らない事だ。確か組織名は、エントラッセンだったね。中々に大きい組織だ」

 父も知らない事を平気で言う。


 彼に手を取られ、そっと引かれながら、ソファにかける。鋭い赤い瞳に射抜かれるようだ。頭がふわふわして答えられない。


「知らない様だね。それはそうだ。君は疑問に思わなかったのかい?アダルベルト王太子は唯一の後継者だ。彼が死んだら、誰がフォルトゥーナ王国を継ぐ?金の瞳を持つ者は他にいないのに。それなのに、君の父上の一派は出征するのを止めない。君の父上の派閥は大きい。その影響力は計り知れない。今やアダルベルト王太子が出征するのを止めるものは、少なくなってきている」


「それは、アダルベルト王太子の意思を尊重してるからですわ。彼が負けるとは思っていないからです」


 そう言いつつも、疑問が生じる。なぜならこの世界は現実だから。私はずる賢い大人だから。


「それが君の本心だとは思っていないよ。君はアダルベルトより大人だ。残念ながら」


 つまり答えは1つだ。分かっている。


「お父様はわたくしに、アダルベルト様の子を?」

「その通り。妊娠は魔法でできる。君が世間に発表したね?君が組織で売ってる媚薬の効果は抜群だ。世話になってる貴族も多い」


「アダル様は状態異常にならないわ」

「なるさ。ヴィアラッテアがなければ。自ら暴露したアダルベルト王太子は愚かだね」


「――――!」

「時期を見計らい君達が二人きりの時に、薬を盛れば終わりだ。アダルベルト王太子が死んでも後継者は君の腹にいる」


 男が指差す先に目をやる。私のお腹。もしかしたら合ったかも知れない未来。


「だが君の父上もそして、王達ですら知らない事実がある。アダルベルトは本能で知っていた。だからラウラを選ぼうとした。エヴァンジェリーナより、魔力量が大きい女を」

「どう言う意味?」

 もう何が真実か分からない。咲夜を助けようとしたのに、追い込んでるだけ……。


「アダルベルトの母親は、彼を産む時に赤ん坊の魔力に耐えきれず死ぬ所だった。助かったのは、前王と魔法師団の加護と、奇跡。そして生き残った代わりに次の子は望めなくなった」


「そんな話、知らない」

「クリスタルドームに行ったね?前王がアダルベルトの母親に送った物。あれは完全に守る事ができなかった謝罪を込めた、前王からのプレゼントだ」


「アダルベルト様の出産の祝いって‼︎」


「それにしては大袈裟だ。王太子妃でありながら、子供を一人しか持てないなんて、離婚の原因としては十分だ。あのクリスタルドームは手切金代わりでもあったのだよ。前王から王太子妃にあてた・ね」


「嘘だわ、お二人は離婚していらっしゃらないもの!」


「前王の企みを知った現王が、クリスタルドームを中庭に移したのさ。本当は実家に建る予定だったのだよ。あのクリスタルドームは。大人の汚さを君は知っているんだろう、エヴァンジェリーナ」


 確かに心の片隅でおかしいとは思ってた。現王には父を含め、兄弟が4人いる。しかし金眼は現王しかいなかった。今までの歴代王の系譜を見ると、兄弟は最低でも4人だ。フォルトゥーナは出生率は多い方ではない。一組の夫婦に対しての子供の数は多くて2人。何故、王族だけが!

 ……それは後継者を残すため。金眼の。


「……話が逸れたね。アダルベルトがラウラを選ぼうとした理由を、身をもって知ってもらおう。君は実体験しないと信じない」

「え?…………」


 顔を上げたのも束の間。男に強引に口付けされる。侵入して来た舌を思いっきり噛んでやった。男が離れる。口の中に血の味が広がる。気持ち悪い。


「ある意味丁度良いが、苦しむよ?」

 血を拭いながら、男が愉悦に満ちた笑を漏らす。


「なにを――――!!」

 突然に体から力が抜ける。小刻みに体が震え始める。息ができない‼︎


「アダルベルトを始め、聖剣に選ばれた者の魔力は大きい。そして魔力は体液にも宿る。大きすぎる魔力は相手の体を蝕む。今の君の様に」


 心の臓が潰れる様な感覚。胃が逆流する。呼吸が足りなくて肺が酸素を欲する。


「君の魔力は封じているが、それは外だけ。内では回復魔法は発動しているよ?でも足りない」


 男の手に魔法陣が展開し私を癒す。酷薄な見た目と違い繊細な優しい魔法に癒される。


「苦し.……喉が、」

 ぜいぜいと息をする私に彼は水を差し出した。構わず一気に水を飲み干す。


「分かったかな?相手が相応の魔力を持たねば死んでしまう。君では役不足だ。無意識のうちにアダルベルトは気付いてた。だからより魔力の強いラウラを選んだ。今はコスタンツァか。子孫を残す事に貪欲だね。彼は」


 違うとも言い切れなくなってきてる。思い出す。アダルベルトは、良き王になる事のみを目標に生きていた。

 でも、今のアダルベルトは咲夜だ。だから違う!


「つまりわたくしの命の恩人と言いたい訳ね。ありがとう、とでも言って欲しいの?セヴェーロ・ヴェリタ・デルヴェッキオ国王様‼︎」

「中々に気が強い。あの苦痛を味わった直後に嫌味を言えるとは」


 嫌な男だ!からかう様に笑う!

 泣くな!エヴァンジェリーナ‼︎

 新たな事実がなんであろうとも、私は咲夜の母!雅也さんの妻だ!


「今日はここまでにしよう。落ち着くには時間が必要だ」


 男が部屋を出たのを見て、泣き崩れる。唇をこすりながら…………。


 死の恐怖に怯える。体の震えが止まらない。それほどの苦痛だった。少しの唾液と血液。これだけで死にそうになるなんて!なんて世界なの‼︎


 冷静になるために思考を巡らす。気持ちを切り替えなければ、耐えられない。


「そうか……ゲームにヒントは落ちていたわね」

 ひとりごちる。ヒロインが義弟を選んだとき、エヴァンジェリーナとアダルベルトは結婚する。結婚後夫婦の営みがないと、義弟に相談する…………。


「キスだけでこれでしょ。耐えられないわ。確かにね」

 自然と笑いがこぼれる。


「そして、アスが魔法を使えない理由は……」

 おそらく、お腹にいる時にもう一人の存在に気付いて自ら魔力を封じたのだろう。妹を守るために。母を守るために。


「皮肉ね。守ろうとした者に殺されそうになるなんて……」


 ため息混じりに立ち上がる。

 思考を止めてはいけない。ネガティブになると停滞する。だからポジティブな事を考える。

「次の手を考えましょう。きっと迎えに来てくれるわ。咲夜が」


 だから寝よう。逃亡に必要なのは体力だから。

 また、死ぬのは怖いから……。嫌だから。




◇◇◇◇◇◇◇◇




「王、首尾は?」

 エヴァンジェリーナの部屋を出た僕に、ラウラが駆け寄ってきた


「そうだね。鍵は解いた。だが思ったより良くないな」

「そうですか」

 落ち込むラウラを見る。一生懸命頑張ってくれている。僕のために。


「君のせいじゃない。彼女が頑固なんだ」

 ふと笑いが漏れる。

 彼女は頑張って隠しているようだが、感情が全て顔に出ている。相変わらずだ。


 ただ少し驚いた。キスだけであんな事になるとは思わなかった。恐ろしい力だ。

 まだまだ時間がかかりそうだ。


「あとは、君次第だよ」


 応援しているよ。咲夜。

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