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34話 襲撃(3)

「燈子さん!!」

 ゆっくり倒れる燈子さんを見る。大切な人を失ってしまうかも知れない恐怖に体が震える。

 崩れ落ちる燈子さんを受け止め、女が笑う。許さない‼︎


 体の奥深くにある何かを感じる。

 私は愛する者の為なら、家族を守る為なら、なんでもできる。可能にする。その力を持っている!

 そう、知っていた。知っていたのに使っていなかった。


 魔法は知ってる。習った。使えないだけ。使わなかっただけ!

 剣への魔力の込め方も、体へ魔力を行き渡らせる方法も私は本能で知っている!

 それが分かれば、ペンダントになっているウルティモを剣にすることなど簡単だ!

 身体の奥の奥にあるモノ。それは私が自分で閉じたモノ。今使わなくていつ使うのか!


 おへそが熱くなる。お腹にある力が体を巡る。なんて簡単なこと……。こんな簡単なことがなぜできなかったのか!こんな万能な力が、私にあることになぜ気づかなかったのか‼︎


「ウルティモ‼︎」

 力の限り叫ぶ。今のウルティモはペンダントだ。だけど本体は剣だ。私は知っている、(・・・・・・・・)分かってる(・・・・・)

 ペンダントヘッドのウルティモを手のひらで包み、魔力を送る。すると私にちょうど良いサイズになる。その柄を握ると更に効率の良い使い方が分かる。自分に何ができるか、自分が何をすべきか!


[コス様!ダメです‼︎]

 ウルティモの声は、聞こえない。聞かない!


「ふざけてるわ……。なんなのあんた‼︎」

 女の叫ぶ声も、聞こえない。私は目の前の敵を倒すだけ。


 魔法は想像する力。私はできる。この力は素晴らしい!


 想像すると、眼前に広がる無数の数の水の鞭。TVで見た。鋭い水は鉄をも切れる……ちぎれてしまえ!


 女の張る結界を突き破る。そんなシャボン玉の様な弱い結界で何が守れるというのか!頭を貫いてやる!避けられた。では代わりに腕をいただく!


「きゃあ――――――!!!」

 うるさい悲鳴だ、次は息の根を止めてやる。この力がある私にできないことはない!


(女の近くに倒れいているモノ達が邪魔だ。一緒に殺そう)

(でも、さっき助けようとしていた。だから敵じゃないヨ)

(エヴァのために、助ケなきゃいケないヨ……)


「……タ・スケル?」


 そこで気付いた。巨大な力に翻弄される自分がいる。私の意識が呑まれそうなる。呑まれていく。人など簡単に殺せると、殺してしまえと、獣の様な意志が私を飲み込む。


 それではダメだと首を振る。


 そう…あれはエヴァのお父さん!助けなきゃ、いけない!助けるには、回復させなければいけない。回復魔法で回復させ、そのまま力を送り廊下に送り出す。


 これでラウラと私とエヴァだけ!ラウラの片手は切ったけど、そこから血は出てない。回復魔法を使っているみたい。

 しかも悔しい事に、こんな状態でもエヴァを離そうとしない。


「エヴァを返して!返してくれれば見逃してあげる」

 私の方が絶対に強い。だからエヴァを返して逃げて!頭の中の凶悪な意識に飲み込まれそう!血が見たくて心が疼く!


「あんたみたいなのと相手をしてる暇はないわ」


 ラウラが魔法陣を展開する。空間に切れ目が入る。逃がさない‼︎


「付いて来てんじゃないわよ‼︎」


[無茶です!おやめください]

 もうウルティモの声も届かない。私はラウラが作った空間の切れ目に飛び込む。


 せっかく逃してあげようと思ったのニ。そんなに死にタいのか……。だったら逃がサない。……コロシテヤル。


 ワタシのエモのダ‼︎




◇◇◇




 剣と剣が重なり合う音が上空に響き渡る。


「いい反応だ。謝罪しよう。思ったより経験はあるようだ。井の中の蛙であることは、撤回しないけどね」

「それは、ありがとうと言うべきかな?」


 腕に力を入れて、上から重圧を与える剣を振り払う。セヴェーロはその勢いのまま後ろへ飛ぶ。

 王都に追加で張った結界は氷柱を防ぎ切ったようだ。

 あとはこの男を排除するだけ。


「セヴェーロ、貴方は随分と卑劣な戦い方を好むのだな。貴方は私を井の中の蛙というが、人質ばかり攻撃して私と一騎打ちできない貴様は、腑抜けのようだな」

「安い挑発だ。だが、乗ってあげよう」


 空を飛ぶセヴェーロが中段から真一文字に剣を払う。俺は向かい来る剣より生じた衝撃波を、上に弾き飛ばす。と同時に迫ってくるセヴェーロの上段からの剣を、下から受け止める。セヴェーロの背後に無数のかまいたちが生じる。俺の背後には鋭い光を放つ氷の塊を作る。同時に放った魔法は相殺された。その間にも剣での攻防は続く。


(ヴィアラッテアが俺を回復してくれている。時間を稼げば俺の勝ちだ)


「やはり剣の腕は大したものだ。魔法も淀みなく使えるようだね。繰り出す種類も多い」

「お褒めに預かり光栄だな。貴様もなかなかのものだ」


 攻防を繰り返しながら徐々に場所を移していく。うまく誘導できたようだ。人気のない荒野まで来れた。でもそれだけだ。

 何合打ち合ったか分からない剣での攻防、魔法の相殺。致命的な傷はないものの、裂傷は負う。だが対するセヴェーロは傷一つない。余裕の笑みも変わらない。自分との力量の差に歯噛みする。

 こんな自分が最強だと思っていたなんて!思い上がりも甚だしい‼︎


 セヴェーロが地面に降り立つ。俺も地面に足をつける。と同時にセヴェーロに迫り、切りかかる。時間を開けてはダメだ。次々に攻撃を繰り出さなければ負けてしまう!

 剣を打ち合わせる!左右上下と攻めていくが、やつの余裕の笑みは崩れない!


 なぜ息切れもせずに、笑みを湛えたまま戦い続ける事ができるのか!俺は魔力もかなり削られている!体力もだ!ヴィアラッテアが回復していれているのに!

 焦りは混乱を呼び、無駄に体力を削り、憔悴していく。ヴィアラッテアの声の聞こえない……。


「焦っているね。やはり経験不足だね」

 更にセヴェーロの上から目線の言葉に苛立ちを感じる。自分で自分が押さえられない!まるで子供ようだ。王太子教育では何があっても冷静でいろと教わった。

 だけど、この状況で!この心境で!いったいどうすれば冷静でいられるのか!


 剣を一旦引き、後ろに飛び、息を整える。

 焦るなと言い聞かせる。自分には帰りを待つ人達がいる。そう――例えば撤退も戦略の一つだ。


「遅まきながら気づいたのかな?そう……君は逃げる事もできた。だが逃げなかった、初めて自分と戦う事ができる相手と戦うのは楽しかったかい?」

 やはり全てを分かっているかのように憫笑する。

 その思いがないとは言えない。全力で戦える相手……そんな相手は今までいなかった。


「さあ?もう貴様に興味が失せただけかも知れないぞ?」

 どんな時でも強気である事は大事だ。自分の心の内が読まれている事を気付かれては、いけない。冷静になれと、ヴィアラッテアの柄をぎゅっと握りしめる。ヴィアラッテアが応えてくれるように温かくなる。


「そうか……でも残念だね。時間だ」

 セヴェーロから笑みが消える。冷酷な赤い目が光る。


 咄嗟に身構える。

(何かくる!)


 上空に雷鳴が轟き、黒い稲妻が落ちる。防ごうと張った障壁が稲妻に吸収されるように消える。

(そんな、馬鹿な‼︎)


そして、稲妻は無数の剣となり俺の体に降り注ぐ。激痛が身体に走り、体内まで焼ける。その余りにもの痛みで、声を上げることしかできない‼︎


「まだまだ、だな」

 セヴェーロが呟いた言葉は、俺には届かなかった。

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