表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/46

17話 強い母

 扉が閉まり、俺はソファに腰掛ける。


 後悔ばかりが押し寄せる。

 もっと良いやり方が、あったんじゃないか。

 慰めてあげれば、良かったんじゃないか。

 一旦要求を受け入れれば、オカンは満足だったんじゃないか……。

 

 でも、無理だった。オヤジを捨てると言うオカンは嫌いだ。俺のためにって言うのが、なお嫌だ。冗談ばかりで、本心を隠すところも嫌いだ。本当はオヤジが好きなくせに!オヤジ以外受け入れないくせに!


 俺のために、犠牲になろうとしてる。


 涙が止めなく溢れる。

 こんな時に話せる人もいない。

 導いてくれるオヤジがいない。

 慰めてくれる麗がいない。

  

 セピア色だった記憶の意味が今、分かる。

 アダルベルトは誰にも心を寄せなかった。誰にも頼らなかった。誰にも興味がなかった。


 強大な力を持つが故に、自分以外の人間は繊細なガラス細工の様に見えていた。だから、最大の注意を払い接する。壊してしまわないように。傷つけない様に。

 超越した力を持ってしまったが故に、勘違いする。一人で生きていけると。人は一人では生きていけないのに。

 

 結果、誰にも頼れないでいる。この持て余した感情を吐き出す術もなく。

 ただ、一人で泣く事しかできないなんて……。

 

 気配を感じ、咄嗟に涙を拭う。

 ノックがして母上が入ってきた。心配顔だ。心配させちゃいけない。


「母上、どうしたんですか?」

「それはこちらの台詞ですよ。アダル。エヴァ嬢は帰ってしまわれたし」

「ああ、私がちょっと疲たので帰って頂いたんです。なんでもありません。大丈夫ですよ」

 笑って見せる。心配かけたくないから。


「……。泣いていながら、大丈夫と言うのですか?」

 怪訝な顔を見せる母上。その言葉を聞き、手を目に当てる。止まっていなかったらしい。情けない。


 扉が閉まる音。部屋に残った母上が防音結界を張る。妙な緊張感に背筋が凍る。


「あなたはいつもそう。思えば小さい事からそうでした。いつも同じ顔で、なんでもありません、大丈夫です、わたくしには、いつも同じ台詞ばかり。神託を受けてうなされて、辛い顔をしていても、わたくしが尋ねると、大丈夫。真っ青な顔色であなたは、いつもそう言ってたわ。怪我をしても、病気をしても、いつでもあなたの答えは、大丈夫。わたくしも悪かったのだと思います。聞けば良かったのに。本当に大丈夫かと」

「いえ、母上が悪いことなど何も……。全て私の不徳の致すところです」


(そう、母上は悪くない。悪いのは全て俺)


「そう。そうやって、いつまでもわたくしには、本心をお話しして下さらないのね。わたくしはそんなに頼りがいがないかしら?あなたの母として、あなたに寄り添う事もできないのかしら」

「そんな、そんな事は……」


 いつも口数の少ない、儚げな印象の母が今日に限って俺に詰め寄る。

 今の俺には余裕がない。この感情の全てを吐き出したくなる。でも吐き出したくない。心配かけたくない。困らせたくない。失望されたくない。


「今、泣いているあなたを慰めるすべもない無能な母ですものね」

「そんなことは!」

 言葉が続かない、何を言えば良いのか。何を言えば傷つかないのかが、もう分からない。


「アダル。わたくし達は話さなければ、分かり合うことはできないわ。あなたの不安な気持ちを、わたくしにお話しして?そうしてもらえないと、母はあなたを慰める事ができないわ」

 頑として譲らない。

 どうして?いつもならすぐ引いてくれるのに!放っておいてくれ!

 王太子として立派に立っていたいのに。話すことで、あなたの目に失意の色が広がったら、耐えられない。


「アダルの言う事なら、わたくしは信じるわ。今まで歩み寄れずにいた母を許して?そして、わたくしに歩み寄るチャンスをちょうだい。このまま、無能な母でいるのは辛いわ」

 母上の右手が、俺の頬にあたる。指が震えているのが分かる。瞳も潤んでいる。歩み寄ってくれている。拒絶される恐怖と戦いながら。


「あなたに……母上に失望されたくないんです」

 必死に言葉を絞り出す。だからもう引いて欲しい。聞かないで欲しい。


「息子に失望なんてしないわ。むしろ、話してもらえない今が辛いわ。逆に息子を支えられない母に、あなたが失望するのではないかと不安よ」

 母の瞳に俺が映る。母の瞳は潤んでいる。いつもはすぐに泣くのに。


「本当に失望しませんか?」

 観念しよう。母は強いんだ。きっと一生勝てないんだ。

 

 母上は返事の代わりに美しく微笑んだ。


 俺は全てを話した。前世の事、オカンのこと、オヤジの事。そして麗の事も。


 泣きながら話す俺を、母上はずっと抱きしめながら聞いてくれた。


「信じられないですよね?」

 母上に問いかける。俺の目は泣きすぎて真っ赤になってるだろう。それは母上も同じだ。


「信じるわよ。あなたはわたくしの息子アダルベルトでもあるし、スミコさんの息子サクヤでもあるのね」

 一息付き、艶やかに笑う。母は美しく逞しい。


「わたくしの元に来てくれてありがとう。若くして亡くなったサクヤには、本当に気の毒だと思うけれど、わたくしはあなたに会えて、あなたを息子にできて、とても幸せよ」

 泣いて化粧も落ちてしまってる。でもそう言いながら優しく笑う母は綺麗だ。


「信じてもらえないかと思ってました」


「信じると言いより、納得したと言う感じよ。あなたは小さい頃に、ウララ嬢を探していたのよ。時には、いないって大泣きしていたのよ。大変だったわ。覚えていないでしょう?」


 驚愕の事実だ。驚く俺に母が更に続ける。


「ゴールデンのラッキーの話もいっぱい聞いたわ。大きくて、賢くて、ヨーグルトが大好きなのよね」


 懐かしそうに笑う母。子供頃そう言って泣きじゃくる俺を、いつも膝に抱いて抱きしめていたそうだ。

 顔が赤くなるのが分かる。子供の頃は覚えていたのか!


「エヴァンジェリーナ様の事も納得したわ。

彼女があなたを見る目つきは、恋するそれではなかったもの。サヴィーニ公爵は娘を溺愛してるから、政略結婚とも思えなかったから、とても不思議だったのよ」


「そんな風に見えてたんですね」

「それにこの間、神託を受けて倒れたあなたに駆け寄ったエヴァンジェリーナ嬢が、サクヤって叫んだの。わたくしの気のせいかと思ったけど、気のせいではなかったのね」


「オカン、、あれほど気をつけろって言ったのに」

「それ素敵ね!オカン。わたくしもそう呼んで頂きたいわ」

「それは俺が嫌です!」

「あら、残念ね」


 クスクス笑う母上。

 あぁ、母上はこんな感じで笑うんだ。こんな簡単な事に初めて気がついた気がする。


「この事は、あの人にだけ伝えるわ。他には秘密よ」

 母上がウインクするなんて!

 こんな表情もするんだ。これからは色々知っていこう。


「そうそう。わたくしとスミコさんに共通点がないと、アダルは言っていたわね」

「ああ、オカンはガサツなんで」

「あら?わたくしは共通点を見つけましたよ」

「え?どこが?」

「わたくしもあの人に一目惚れしたの。策を練ってライバルを蹴落として、あなたのお父様を手に入れたのよ」

「嘘でしょ⁉︎」

「女はね。愛する人を手に入れるために、何でもできる生き物なのよ。今度ゆっくり、スミコ様とお話しがしたいわ」

 微笑みながら、部屋の扉を開く母。

「仲直りは早くしないとこじれるわ。今日はゆっくり休んで、明日王城へお呼びしなさい。わたくしも同席するわ」


 閉まる扉。

 ベッドに近づき、ヴィアラッテアを探す。

「ヴィアラッテア、びっくりだったよ」

[良かったですね。ご主人様。ご理解頂けるご両親で]

「そうだね」

 神託の事とか、オヤジの事とか、考える事はいっぱいあるけど、今日は寝よう。


 明日は忙しくなりそうだ!

毎朝7時に投稿します。

面白かったらブックマーク、下の評価よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ