11話 消えた令嬢
「ラウラ男爵令嬢が消えたんですか?」
朝食が終わったら、父の私室に来る様に言われた。そこで父から開口一番に聞かされた言葉を復唱する。
「ああ、昨日の夜に報告があった。きれいさっぱり消えたそうだ」
パンケーキを頬張る王こと、父。
小さい頃から朝食は別だった理由が分かった気がする。自室で甘い朝ごはん食べてたんだ。
俺の治療が終わった翌日。同じ様に洗脳されていた、攻略対象達にも薬が投与された。全員があっという間に正気に戻ったらしい。
オカンの薬すげーな。
そしてその日の夜。ラウラ男爵令嬢が消えたと言う。
「アイマーロ男爵にはラウラ嬢の事を聞いたんですか?」
「覚えてない……いや、あれは知らないだな。記憶がすっぽり抜けている様だ」
「記憶が?」
「そうだ。そもそも、アイマーロ男爵の息子は死んでいなかった。確かに駆け落ちはしたそうだが、隣国で商売を営んでいた。経営は順調だ。アイマーロ男爵も、孫の姿を見て2人の仲を許したそうだ」
父が報告書に目を通す。
「孫の年齢は10歳と7歳。両方とも男の子だ」
どうなっているのか分からない。そもそも、今まで王家の諜報機関を持ってしても発見されなかった事が、どうして今さら分かったのか。俺と同じ様に皆が狂わされていたのか。
心の奥が冷たくなる様な感覚に襲われ、聖剣ヴィアラッテアを握りしめる。
「ラウラ男爵令嬢がいなくなったと同時に、もたらされた情報だ。おかしな話だ。小娘1人に国中が踊らされるとは」
父が深いため息を吐く。
彼女は何者だったのだろう。
俺達5人の男を手玉に取り、誰にも気付かれず消える等、1人でできる事とは思えない。
裏に何か組織があるのか……。
「まぁ、情報の少ない事件の事を今考えても仕方ない事だ。もう少し情報を待とう。アダルもこれからは王侯会議に出るが良い」
「あ、ありがとうございます。精進いたします」
フォルトゥーナ王国の政策全てを、そこで決定すると言っても差し支えないのが、王侯会議だ。国の重鎮が集まっての会議。
今までは出る事を許可されていなかったが、これからはそれに出ることが叶う。本格的に国の政策に関わる事が出来るのは、とても嬉しい。
「あの小娘のした事は煩わしいが、一つだけ良い事があったな」
「良い事、ですか?私にはそうは思えません」
「確かにお前は被害者であろう。だがな、あの小娘に関わるまでのお前は、生きていながら生きていなかった。私も王妃も心配していたのだ。大きくなるに連れ、人間味がなくなっていくお前を」
「私が、ですか?そう、でしょうか」
どう言うことだろう。記憶が戻る前も俺は王太子として必死に頑張っていたはずだ。
だが、思い当たる節もある。セピア色の記憶。
父が深いため息をつく。
「アダル、あの小娘に会う前のお前に、好きな人はいたか?もしくは嫌いな人間。関わりたくない人間」
その目は王の目ではない。父親の目。俺の事を心から心配している瞳だ。
「嫌い、とは考えた事もありません。私にとっては全ての人々が、守るべき民であり、慈しむべき存在です」
「それがおかしいのだ」
「しかし、王太子教育では!」
「もちろん!臣下や国民の前ではそうあるべきだ。だが、我々も人間だ。反対意見を言われれば腹も立つ。生理的に受け付けない人間もいる。気が効く人材を重用したくもなる。王として、それらの気持ちを隠しながら政をしていくのだ」
「私は……」
声が出ない。好きとか嫌いとか、俺は思った事があっただろうか。両親も誰も彼も同じに見えていた気がする。婚約者であるエヴァ嬢ですら、なんとも思ってなかった。美人だと気付いたのも、最近だ。セピア色の記憶の原因は、俺自身なのか?
「私は、たぶん何も考えてませんでした。エヴァ嬢が美人だと思ったのも、つい最近です」
「私の甘い物好きを気持ち悪いと思ったのも、ついこの間だな」
ニヤっ笑う父。ヤバい。顔に出てた?
「あ、その」
「良い良い。ちょっと前までのお前は、私が甘い物をどれだけ頬張ろうと、気にしていなかった。目の前にいても、心がここになかった。頑張って食べてたのにな」
「父上は、実は甘いものは苦手なのですか?」
「好きだぞ?」
(えー?どう言うことですか……)
「そうやって顔に出るようになって、嬉しいと思う時がくるとは。人生分からないものだ。ただ、髭に生クリームが付いていたら教えてくれ。この間、とても恥をかいた!」
「ああ、それは失礼しました。言うタイミングを逃してしまって」
噛み殺しながら笑う。そう言えば、父の前で笑ったのは何年振りだろうか。
「では、申し上げますね!甘い物の食べすぎですよ。腹が出てきてますよ」
「それは王妃にも言われておる!」
ふくれる父。かわいいな。
今度、街で評判のケーキを買って来てあげよう。
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