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第八話 契約完遂

リアルが忙しく執筆が少し遅れました、申し訳ないです⋯⋯

「僕が将棋部部長を務めさせてもらっている、三年の月村灰兎(つきむらはいと)だよ。どうぞよろしくね、部長くん?」

「あー。よろしくと言いたいところではあるんすけど⋯⋯残念ながら部長は俺じゃなくてコイツなんですよね」

「オタ部⋯⋯じゃなかった。趣味研究部部長、夜椿です!」


 午後。昼飯を食べ終えた俺は、部長である夜椿の補佐として将棋部との会合に出席していた。

 するとどうだろう。びっくりするほどに夜椿が部長だと思われなかった。


「おっと⋯⋯それは失礼したね。まあどちらにしても、よろしくお願いするよ」


 この月村と名乗る男子生徒の言葉遣いは丁寧で少し天羽っぽさがある。

 しかし雰囲気はかなり違い。天羽は貴公子然とした天然の言葉遣いであるのに対して、この人はいい意味で社会人っぽさがある礼儀正しさを感じる。

 ⋯⋯それに比べると俺らって、とも思うがスルーして欲しいところだ。


「有ノ宮道安、ただの部員です。⋯⋯が、交渉は俺が一応することになってます」

「全然大丈夫だよ。じゃあ相談を始めようか」


 話の通じる人でよかった。

 流石に無いとは思うが、部長同士で内容は決めるとか言い出したら危うく交渉を蹴らざるを得ないところだった。

 夜椿を信頼していないわけではない⋯⋯と多分思うが、この初戦は負けれないだけに何よりも慎重に行う必要がある。

 つまるところ、夜椿よりも俺か足袋川先輩が適任なわけだが。残念ながら足袋川先輩は部室で資料を整頓しているところだ。


「それで、天羽くんから話は聞いたよ。やけに気に入られてるみたいじゃないか」

「お、マジですか。それは嬉しいっすね」


 初めて出来た同性かつタメの友人だ。是非ともこの縁は大切にしたい。


「その天羽から聞いた内容をまとめると。そっちには賭けられる物がほとんど無い代わりに、ルールが僕達に有利な状態で始めるとのことだけど⋯⋯」

「大体その認識で大丈夫です。その条件を諸々決めるための話し合いをお願いしに来ました」


 月村先輩はふむとひとつ頷き、少し考えた素振りをする。

 部活戦争の契約を、わざわざ故意的にアンフェアな方向性で取り決めることは珍しい事例。

 いくら最上級生と言えどすんなりと内容を決めれることは無いらしい。


「とりあえず一つ確認してもいいかな?」

「どうぞ」

「君達が賭けられるのは、しばらくの間の労働力。そしてなけなしの部費だけと言うことだけど。自分達が不利なルールになると分かってまでして欲しいものは何なのかな?」


 あまりに直接的な質問だった。

 だがそれを問う月村先輩の表情は至って真剣だ。


「⋯⋯そうですね。生々しい感じになってしまいますが、ひとまず俺らには部費が必要です。元手が無ければそもそもフェアな部活戦争を始めることすら難しいので」


 つまり、俺達があちら側に対して要求しなければならないのは部活動をする上での資金。

 俗に言う部費のようなもの。部活動を活性化させるために毎月学校が補填する支給金を、今の俺達は必要としている。


 腹の探り合いなどせず、真っ直ぐにこちらも条件を突き付けた。

 資金を賭けさせるには基本的にこちらも同じく資金を賭ける、またはそれと同等レベルの価値を持つ何かを賭ける必要がある。

 少なくとも数週間の雑用係程度では賭けさせることは出来ないのがこの学校での常識だ。


「なるほどね。じゃあそれでいいよ、はい契約書」

「⋯⋯え? それだけですか?」

「うん」


 いくらなんでもあっさりとしすぎた返答に、俺は思わず狼狽える。

 少し疑うような視線を向けるが。目の前に座る先輩は実ににこやかな表情で頷くだけだ。


「⋯⋯まあ条件を飲んでくれるってんならこっちとしても断る理由は無いんですが⋯⋯本当に良いんですか?」

「気にしないでいいよ。アンフェアなルールでも迷わず戦おうとする、そんな君達への少しばかりの敬意とでも思ってくれればいいさ」

「ならありがたく。⋯⋯ほら夜椿、契約書も問題無さそうだし書いてくれ」

「うえっ、私が書くの!?」

「当たり前だろ部長サマ」


 むむむと悩みながら、契約書の記入欄へとペンを走らせる夜椿。

 書く内容は名前くらいだと言うのに何を悩んでいるのか悩むところだが、夜椿なら仕方ないかと中々に失礼なことを思いながらもスルーする。


「ああ、それと最後に一つだけ」


 俺達のやり取りを傍観していた月村先輩が、先程までとは打って変わって不敵な笑顔を浮かべ。


「僕達は正々堂々と勝負はするけど。負ける気なんて一切無いからね?」

「⋯⋯奇遇ですね。俺らもですよ」

「⋯⋯ふふふっ」

「⋯⋯はははっ」


 自然と互いに行われる宣戦布告に思わず笑い合う。

 不公平なルールの元行われるフェアプレイ、なるほどそれは面白い。


「えっと、多分これで大丈夫なはず⋯⋯って二人ともなんで笑ってるの!? 怖いよお⋯⋯」


 自分の書いた箇所に間違いが無いか念入りにチェックをし終えた夜椿は顔を上げ、ようやく場の雰囲気に気付く。

 目を逸らしていた隙に、一触即発かとも思われる空気が立ち込めているという状況に。


「ふええ⋯⋯」


 ⋯⋯夜椿は固まり怯えるしか無かったのだった。





「というわけで。無事に部活戦争の予定が決まったぞ」

「無事だったのかな⋯⋯?」


 俺の発表に物申す部長サマ。

 まあ相手の気まぐれとは言えこっちの条件を全て飲んで貰えた。つまり大きな問題は無い、モーマンタイってやつだ。


「相手は将棋部で、開催日時は週明けの月曜午後一時から。契約書も正式に学校側に受理されたから後は待つだけってな」

「お疲れ様、有ノ宮くんに夜椿さん。こちらも過去分の資料を既にまとめ終わったわ」

「資料っていうと⋯⋯将棋部が関わった試合のですかね? 流石です足袋川先輩。情報は立派な武器になりますから」


 先んじて対戦相手の情報を得ているのといないのとでは、策略を練る以前にも心構えからしても変わってくる。


「彼を知り己を知れば百戦危うからず。⋯⋯我、鼓ヶ丘、感服致しましたぞっ!!」

「中国の兵法書に綴られた有名な文章ね。⋯⋯確かにその通りではあるわ。有ノ宮くんもそう思うでしょう?」


 だからなんでこの先輩はいつも俺に振るのだろうか。

 ⋯⋯相手と自分の情勢諸々を把握していれば、負けることは無いって意味だったな。確かに有名だ。


「ま、内容が正しくなければ格言とは捉えられないし有名にもならない。間違ってはいないんじゃないすかね?」

「おおー⋯⋯有ノ宮くん達が難しい話してる⋯⋯」


 ⋯⋯夜椿はとりあえず自分の能力を知るところからだな。

 言っちゃ悪いがアホの子だ。だが、だからこそ常人に思いつかないようなアイデアを出すかもしれない。


「⋯⋯期待はしてるぞ、部長サマ」


 多分だが俺はコイツの熱意に惹かれてここに立っている。それは俺だけでなく足袋川先輩もそうだろうし、もしかしたら鼓ヶ丘達もそうである可能性だってある。

 人を惹きつけるほどの熱意を持つことだって立派な才能だ。

 少なくとも、それは俺には無理な芸当だからな。


「声、小さかった」

「お前には聞こえてんのかよ。忘れろ⋯⋯」

「善処する」


 いつも通りというべきか、パイプ椅子の上で器用に体育座りをしている竜胆は相変わらず表情が薄い。

 というか、制服で体育座りなんてするものだからスカートの中が見えてしまっている。

 スパッツ的なのを履いているから気にしていないのだろうか? 目に毒すぎる。


「とりあえずお前は椅子に足を乗せるな」


 竜胆の頭に軽くチョップを喰らわせる。この生意気な後輩に遠慮はいらねえ。


「⋯⋯とりあえず。目先の目標を決めたいのだけれど、誰か何か案は無いかしら?」


 弛緩した空気を引き締めるかのように、足袋川先輩が話を切り出す。

 目標ねえ⋯⋯。部活戦争当日までは今日を含めると三日ほどしか無いから難しい話だな。


「あのあの。足袋川先輩、足袋川先輩」

「あら、どうしたの? お腹でも痛いのかしら?」

「違いますっ! ⋯⋯実はちょっと、提案したいことがあって」


 提案という言葉に俺と足袋川先輩は一瞬キョトンとする。


「夜椿が提案? それ、本当にお前が自分で考えた内容だよな?」

「失礼だよっ!? えっとね、まだ私達って軽く自己紹介しただけでしょ。だからよりお互いのことが分かるような何かをした方がいいかなって⋯⋯」

「⋯⋯おお。お前本当に夜椿か?」


 俺の知らない間に変な洗脳でも受けたのでは、と勘ぐってしまう。

 思い立ったが吉日ということわざを体現するかのような行動力は良いのだが、いかんせんこの部長サマは無計画な事が多かった。

 実際にコイツが開いた会議でも現実味を帯びた計画なんてものは頭になかったみたいだし。


「お前も成長するんだなー。偉いぞ」

「えへへー」


 ⋯⋯やっぱ取り消そうかな、今の言葉。

 まあでも純粋さってのはひとつの持ち味かもしれんしな。大目に見るとしよう。


 それはそれとして、夜椿の提案についてはどうすべきか。

 このオタ部という場所は他の部活動と違って人によって行うことが違う。専門分野がそもそも各々違うため、互いのスペックを測りきれていない節はあるだろう。


「つまりはオリエンテーションとして、交流を深める何かを行いたいということね。まだ軽い自己紹介しか出来ていない事からも考えるといい案かと思うわ」


 俺の意見を待つかのような、足袋川先輩による視線が向けられる。


「俺も全然アリとは思うかと。⋯⋯つっても交流ったって何するんだ、夜椿?」

「なんだろ。お泊まり会とか?」

「却下」


 男女でお泊まり会とか胃が持たん。


「残念だけれど私もお泊まり会は厳しいわね。特に男子も居るとなればまず両親が許さないでしょうし」

「うう、残念⋯⋯」


 心底残念そうに項垂れる夜椿。

 どんだけお泊まり会したかったんだコイツ⋯⋯とは思ったものの確かに楽しそうではあるのは否めないというのが本心だったりする。


「当日までには二日分の休日があって交流会も出来るだろうが、他にも当日の競技内容の予測とかもしておくべきだしな。集まったとしても土曜日は忙しいんじゃねえか?」


 一番良いパターンとしては、土曜日のうちに競技内容の方向性をある程度予測を済ませ。日曜日はそれに対する備えをしつつ、試合前日としてのリラックスが出来ること。

 当日に疲れを残してしまっては頭が回らない上に、相手は将棋部。

 ルールが彼らに有利になる⋯⋯つまり、ボードゲームを使う可能性は大いにあるのだ。なるべく頭を使わないようにしてコンディションは保っておきたい。


「じゃあ何かをするとしたら日曜日ってことになるのかな?」

「だな」

「うー、じゃあ⋯⋯」


 一呼吸おいて夜椿はさらに案を出した。


「みんなで一緒にショッピング行きたいなっ」

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