2.ディケニア第一高校
次の日の朝。
俺は目覚ましの音で目を覚ます。
「はぁ……」
誰もいない質素な部屋で朝からため息が出てしまう。
国の建国記念日が終わり、今日から新しい年度が始まる。
そして、俺は今日から高等学校に通わなければならない。
俺は重い体を動かして新品の制服を着る。
この国では十六歳になる年に多くの人が高等学校に入学する。
俺は国で一番優秀な剣士学校であるディケニア第一高校への入学が数年前から決まっている。
剣士学校とは国に仕える剣士を目指すための学校で、普通の高等学校とは違いディケニアの平和を守るための剣術と知識を徹底的に学ぶ。
その中でも俺が通うディケニア第一高校はとても優秀な者しか入学することができない。
幼少期から剣士になることを志して、一日も休むことなく剣術の訓練をしてきた者だけが何とか合格できるような一流校だ。
しかし、俺はそんなすごい高校に入学できる実力は一切ない。
それでもディケニア第一高校に通っている事実だけで箔がつくので、四剣神になる予定がある者はみんな通ってきている。
なので俺も実力で合格したということになっており、サボることなくしっかりと通わなければならない。
「はぁ……本当に嫌だな……」
またもため息が出てしまう。
第一高校で周りの生徒についていける自信は全くない。
それに、俺に実力がないことが周りにバレてしまったらダメだ。
ある程度は四剣神の仕事を理由に欠席してもいいと言われているが、それでも全て休むわけにはいかない。
俺は荷物を持って立ち上がり、四剣神の証とも言える聖剣を持ち上げる。
聖剣は一メートルほどの長剣で千年以上も使われているものだが、刃は一つも傷がついておらずピカピカだ。
その聖剣を背負い家を出ようとすると、部屋に飾っていた写真がふと目に入る。
それは七年前の写真で父さんと俺が二人で写っている。
俺は父さんから受け継いでいるはずの力を全く使うことができず、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「ごめん……父さん……」
小さく謝罪をして家を出る。
俺は第一高校に向けて歩いていく。
この街はディケニア国の中心だ。
どこを見てもビルや家屋が立ち並んでおり道も多くの人々で溢れている。
この国にはスキルという剣術があるが、生活を便利にする魔法や魔術なんてものはないので、人の力でここまで発展してきた。
俺は街を歩いているだけで行き交う人たちにチラチラと見られてしまう。
俺たち四剣神は国で一番の有名人に違いないので仕方のないことだ。
しかし、俺に直接話をかけてくるものは一人もいない。
国民は四剣神のことを特別視しており、気軽に声をかけてく者は滅多にない。
さらに、四剣神については国の決まりが多くあり、四剣神に向けて失礼な態度をとってはダメだというものもある。
そのおかげで決闘を申し込んでくる人などはおらず、俺も平和に過ごせている。
もしも、戦いを挑まれてしまったらあっさりと負けてしまい、俺が弱いことが一瞬でバレてしまう。
国民たちは離れた場所から小型の端末を俺に向けるだけだ。
小型端末は写真を撮ることもできる便利なもので、他にもディケニア国のインターネットを使い離れた場所にいる人と会話をしたり情報を集めたりすることができる。
俺は写真を撮られたりすることは慣れているので、気にすることなく街を歩いていくが、剣を背負った人とすれ違う度に気が動揺してしまい、誰にも声をかけられないようにと内心ではビクビクしている。
四剣神になってからずっとこの調子で、体と心が休まる空間はほとんどない。
何とか誰にも声をかけられることなくディケニア第一高校にたどり着くことができた。
学校に到着すると緊張に襲われてしまう。
以前も中等学校に席をおいていたが、四剣神とのことでほとんど通っていなかった。
それに、中等学校では剣術の練習などはないので、授業を受けたときもそんなに苦労はしなかった。
しかし、名誉あるディケニア第一高校にはしっかり通学しろという国の指示がある。
俺はビクビクとしながら学校の中へと入る。
第一高校は国が多額のお金をかけて広い敷地で豪華な施設を作っていて、さらに生徒たちの学費は全て無償で、学内にある食堂も全て無料で食べることができる。
ディケニア国は優秀な剣士を集めるためにかなりの力を入れているようだ。
第一高校の門を潜ると、もうすでに多くの生徒たちが集まっていた。
彼らはそれぞれ自分の武器を持っており、誰もが剣術に長けているのだろう。
俺はそんな彼らにチラチラと見られてしまうが、できるだけ気にすることなく集合場所に指定されたホールへと向かう。
今日はこのホールで入学式が行われる予定で、辺りには新入生らしき生徒が多くいる。
聞いた話によれば、今年度の第一高校入学者は二百人程のようだ。
大勢の人が離れた場所で俺のことをコソコソと噂をしているみたいだが、やはり誰も声をかけてくるものはいない。
避けられているようで少し悲しいが、話しかけられて俺の秘密を知られてしまうよりかはよっぽどマシだ。
このままずっと周りが俺のことを避けてくれたら安心して学校生活を送ることができる。
そう思ったが、俺に向かって急に声がかけられる。
「あ! トリアード様!」
その声に俺の心臓が一気に跳ねてしまう。
呼びかけられた方を振り返ると二人の女子生徒がいた。
そして、そのうちの一人が俺に向かって駆け寄ってくる。
ショートカットの髪をした少女で背中には二メートルほどの槍が背負われている。