いつまで、”なろう”は、著作権侵害無法地帯でいられるのか?
2021年6月23日。YouTubeにファスト映画を投稿していた人達が逮捕されるという事件が起こりました。
ファスト映画というのは、商業映画作品の内容を字幕やナレーションを付けた上で10分程にまとめて編集した動画作品の事で、無断で行われているので当然ながら著作権を侵害しています。
この事件はテレビのニュース番組でも大きく取り上げられ、世の中にインパクトを与えました。これはシンプルにファスト映画だけをターゲットにした事件と捉えるべきではなく、今まで野放しになって来た著作権法に違反するネット上の創作物全般への警鐘と受け止めるべきものだと思います。
だからでしょう。
この事件を受けて、ファスト映画以外の作品投稿者の中にも対応を行った人が多くいたようです。ほとんど気にかけずに投稿活動を行っていた人達はもちろん、これまでも充分に著作権法に配慮して活動していた人達の多くがその活動内容を多少なりとも変化させたようなのですね。
著作権侵害は、放置し続ければ動画配信サイトなどのプラットフォームを運営する企業にも責任が及びますから、当然、YouTubeなどもそれに応じた対応を執るものと思われます。
投稿者達が著作権法に配慮した理由の一つには、そういったプラットフォーム側の動きへの対策の意味もあるのでしょう。
反論している人もいるようですが、このファスト映画に対する実質“禁止”の処置は「当然だろう。今まで許されて来たのが不思議なくらいだ」という意見が大半だと思います。著作権法を完全に無視しちゃっていますからね。法律を知っている人なら誰が見ても法律違反だと分かるはずです。
ところで、こう考えると、ファスト映画の投稿者達はかなり図太い神経をしているとは思いませんか? だって、彼らは証拠が残りまくっている形で犯罪を行っている訳で、しかも広告収入を受け取ろうと思ったなら逃げ切る事だって難しいでしょう。いえ、仮に逃げ切れたとしても、プラットフォーム側が収益化を潰してしまえば利益にはなりません。
ちょっと、リスクとリターンのバランスが合わないですよね。
ですが、或いは彼らにはそれほど“悪い事を行っている”という自覚はなかったのかもしれない、とも僕は思うのです。
実は彼らは、著作権という概念をあまり理解できていなかったのではないでしょうか?
もちろん、知識としては理解しているでしょう。ですが、抽象概念としてそれを“自分のもの”にするとなるとそれはまたちょっと違う話なのです。
随分前に何かの記事で「所有権を理解している人は意外に少ないのかもしれない」という主張を読んだ事があります。
例えば、“図書館から借りてきた本”があったとしましょう。この場合、その本の所有権は図書館が持っています。実際にその本を持っているのが自分であったとしても、だから当然それは図書館の所有物です。
ですが、所有権という抽象概念を持っていない人はそれを理解できず、“自分が持っているのだから、自分の物だ”と把握してしまいます。知識としては、それが間違っていると知っているかもしれませんが、概念にまでは至っていないのですね。結果、図書館の所有物であるにも拘らず、自分の物だと錯覚してしまって、その本にメモ書きなどをしてしまったりする……。
所有権という抽象概念を理解できている人は、このような人を“倫理観が欠如している”と思ってしまうかもしれませんが、実は欠如しているのは“所有権”という抽象概念の方なのかもしれないのですね。
本人に罪悪感はないのかもしれないのです。
或いは、“著作権”もこれと同じなのではないでしょうか?
――著作権という抽象概念を理解するのは意外に高度で、だから罪悪感を持たずに違反してしまう人がたくさんいる。
実際、充分に文化が醸成されないと著作権という概念は、社会の中でもなかなか機能し難いものであるようです。
例えば、漫画文化ですが、戦後しばらくは盗作が普通に行われていたようです。ヒットした作品とよく似たコピー作品が直ぐに作られていたらしいのですね。有名どころでは『巨人の星』は『ちかいの魔球』の盗作だという指摘があります。恐らく今だったなら、著作権侵害で問題になっていたか、そうでなくてもネット上で叩かれまくっていた事でしょう。
コンピュータゲームの世界でもこれは同様です。
“インベーダーゲーム”って聞いた事がありませんか? これは実は一つのゲームの呼称ではなく、株式会社タイトーが販売した『スペースインベーダー』というゲームを嚆矢とする様々な会社の類似ゲームの総称です。つまり、著作権を無視して、様々な会社が『スペースインベーダー』を盗作したって事です。
ゲーム業界で有名な株式会社カプコンが、著作権や肖像権などの知的財産権に対する意識が緩いと最近問題になりましたが、それはこの時代の影響だとも言われています。
悪癖が直らなかった…… って事なのでしょうかね?
因みに著作権侵害には当たりませんが、実は文学作品なども過去の作品を元に作成されているケースが少なくありません。シェイクスピアの多くの作品には元ネタがありますし、芥川龍之介も古典から材を多く取っています。
ネット文化では、まだまだ著作権が充分に浸透していないようですが、高度な概念であり、文化の醸成が必要な点を鑑みるのなら、致し方ない部分もあるのかもしれません。個人が情報を発信できてしまえるので、かなり規制が難しいですしね。
ただ、それでも今回のファスト映画禁止などによって、少しずつ著作権の概念は浸透していくのではないかと思われます。
いえ、そうなるべきでしょう。著作権には社会的役割があり、機能しなければ社会的損失を招いてしまいますから。
ところで、“小説家になろう”は、一部の人達からとても嫌われているのをご存知ですか? 実はその大きな理由の一つに“盗作・盗用”が多いという点があるのです。
もちろん、盗作が明るみになって咎められている作品・作家も多いのですが、何故かそのまま高ランクをキープし、書籍化までしてしまっている作品もあったりします。
実際、月間ランキングトップ10入りしているような作品でも、感想欄やレビュー欄などで“盗作・盗用”が指摘されている作品を度々見かけますし、YouTubeなどの“なろう系ツッコミ動画”の類でも、商業作品に対しての“盗作・盗用”疑惑の指摘がよくされています。
ただし、それではそれら作品が全て著作権侵害に当たるのかと言えば、必ずしもそうとは限らないのですが……
ここで一点、断っておきます。
今回、このエッセイを書くに当たって、僕は『著作権とは何か 福井健策 集英社新書』という本を主に参考にさせていただきました。普段は一つのテーマに対して、複数冊本を読むように心がけているのですが、今回は時間の都合でこれ一冊とネットから得られる知識だけで書いています。
なので、少しばかり内容が偏っている可能性がある点は留意してください。
(因みに、この本を買った後で、改訂版が出ているのを知りました。こんちくしょーめ!)
盗作・パクリと言うと、全て犯罪だと思っている人もいるかもしれませんが、実は一部の盗作や盗用は法律では認められています。作品の表現ではなく、アイデアであるのなら、他の作品から借用しても法律上は問題にならないらしいのですね。アイデアは共有できた方が社会全体の利益になるという考えが、その根底にはあります。
これを「アイデア自由の原則」と呼ぶのだそうです。
例えば、小説家になろうには、“悪役令嬢”というジャンルがあります。ゲームのキャラである(必ずしもゲームのキャラとは限らないようなのですが)悪役令嬢に転生(これも必ずしも転生するとは限らないようなのですが)し、活躍するという設定の作品です。
この話の設定自体はいくら真似しても著作権侵害には当たりません。
同じ様に、人気のジャンルに“追放系”という主人公が追放されて、そこからリベンジを果たすといった構成の話がありますが、これもいくら真似をしても著作権侵害にはなりません。
具体的な表現まで真似をしないと、著作権侵害にはならないのです。
ですから、小説家になろうで盗作・盗用が多いと言っても、アイデアレベルならば著作権侵害にはなりません。
僕の知っている範囲で言うのなら、ほぼ確実に著作権侵害が“黒”だと言えるのは、「誤字脱字や、後書きまでコピペ」という某有名な作家の方の作品くらいではないかと思われます。
もし裁判所に訴えられたら、著作権侵害が認められるでしょう。
因みに、著作権侵害が認められた場合“不当利得の返還請求権”も発生します。しかも故意であったとされた場合は利息付きで本来の著作権者にそれを支払わなくてはならないらしいので、もし時間が経ってから訴えられたなら、この作家の方は盗作で稼いだ額よりも多くの金額を支払う事になるのかもしれません(まぁ、どの程度の支払いが命じられるかは分かりませんし、時効もあるみたいなのですが)。
その他、なろう関連で言えば、他人の作品を勝手に電子書籍として販売していたって事件もあるらしいのですが、これはなろう自体の事例とは言えないでしょう。
さて。
少し話が逸れましたが、著作権侵害だと素人でも判断できるのは、これくらいはっきりとしたケースだけです。アイデアの借用までなら認められている訳ですからね。
ただ、ならば、「なろう系作品は著作権的に何の問題もない」となるのかと言えば、実はそうでもありません。
何故なら、アイデアと表現の境界線って非常に曖昧だからです。一体、どこまでがアイデアでどこまでが表現なのか、これは裁判所にしか決められません。
つまり、それが著作権侵害になるか否かは、「実際に裁判を行って判決が出るまで分からない」って事です。
ですから“小説家になろう”に投稿されている作品が、どれだけ著作権的に問題があるのかを考えるのには、過去の裁判の判例を参考にするのが一番って事になります。裁判の判決って過去の判例の影響を思いっきり受けるからですが。
――そんな訳で、実際の判例を先ほど挙げた『著作権とは何か 福井健策 集英社新書』で探してみました。
著作権訴訟の小説の事例では『チーズはどこへ消えた?』という作品のパロディである『バターはどこへ溶けた?』という作品に対してのものがあるようです。この裁判では著作権侵害に当たるという判決が出ています。
具体的な内容は割愛しますが(それこそ、著作権侵害になってしまうかもしれないし)、パロディは法律で認められているので、これはとても厳しい判決内容と言えるでしょう。どうやら日本の裁判所は、パロディ作品に対してあまり寛容ではないようです(一話で打ち切りが決まった、なろう作品を叩いたパロ漫画がありますが、もし裁判が開かれていたら、著作権侵害となっていたかもしれません)。
また、写真では『みずみずしいスイカ事件』と呼ばれる訴訟、音楽でも『記念樹事件』と呼ばれる訴訟(二つとも検索をかけると詳しい内容がヒットします)で、著作権侵害が認められていますが、業界関係者が首を傾げるような判決内容だったようです。音楽に関してはよく分かりませんでしたが、写真の方は素人の僕でも「え? これがダメなの?」と驚いてしまうような内容でした。
つまり、著作権侵害って日本の裁判所では、意外に簡単に認められてしまうものであるようなのですね。
(ただし、探してみると、逆に「こんなに似ているのに、著作権侵害が認められないの?」という事例もあるようなので、結局は裁判をやってみないと分からないという事なのかもしれません)
これらの事例を考えると、多くのなろう作品は…… ランキングが上位になればなるほど、似たような作品が多くなっていく傾向があるようですが…… 著作権侵害が成立してしまう可能性があると言わざるを得ません。
あるなろう系ツッコミ動画で、ファンタジー作品の上位作品の序盤が“ほぼ、同じ内容だった”と指摘されてありました。それがもし仮に本当だとしたなら、著作権侵害となる可能性のある作品を除外すると、なろうの上位ランキング作品がほぼ消えてしまうなんて事態になってしまうかもしれません。
いえ、もしそれが誇張であったとしても、前述したように盗作が指摘されている作品は数多くあり、それが野放しなってもいるんです。“小説家になろう”は、著作権侵害無法地帯と言ってしまっても過言ではない状況だと言えるのでないでしょうか?
或いはこれを読んで、「“小説家になろう”は、似たような作品が数多くあり、テンプレートと化しているから、著作権侵害は認められないのではないか?」と考える人もいるかもしれませんが、その考えは甘いです。
先程例に挙げた『みずみずしいスイカ事件』、『記念樹事件』には、共にそのような“ありふれた類似性がある”という指摘がされていますが、それでも著作権侵害が認められています。
「テンプレートだと、盗作であったとしても咎められ難い」
という免罪符は、ネット界隈(と言うよりも、小説家になろう内だけ?)では、通用するかもしれませんが、司法の場では通用しません。
いいえ、それどころか、反対により厳しい判決を裁判所が下す可能性すらあると僕は考えています。
裁判所…… 司法側から考えるのなら、今のなろうの状態は法治が成立していません。著作権法が無視されてしまっているのですからね。
法の支配が及ばない場所が存在する事実を、司法側が認めるはずがないのは想像に難しくありません。絶対に快くは思わないはずです。ま、裁判所の偉い人達は、そもそも小説家になろうの存在自体を知らない可能性もありますが、もし知ったなら“見せしめ”の意味も込めて厳しい判決を下すのではないかと思われます。
え? 裁判官が、そんな理由で判決内容を決めてしまって良いのか?って?
良いか悪いかは別問題として、裁判官の主観的なプライドなどで判決が歪められたとされる判例は実は存在しています。
それに、小説家になろうユーザー達の著作権法違反については感情論でどうこうって話でもありませんしね。
ただし、著作権は一部の例外を除き、親告罪です。誰かが訴えなければ、そもそも裁判自体が行われませんから、今のところは大きな心配はいらないかもしれません。
小説家になろう界隈からデビューしている人達って、多かれ少なかれテンプレートに頼っている人達が多いですから、“同じ穴の貉”です。仮に自分の作品が著作権侵害されていたって黙っているでしょう。訴訟を起こせば、身元バレしちゃいそうですしね。多分、「お前が言うな!」って、ネットで叩かれまくっちゃうのではないでしょうか?
――がしかし、小説家になろうが、ゲーム産業に参入したのなら、著作権侵害の訴訟を起こされる現実味はあるのではないかと僕は考えています。
何故なら、訴える相手が個人ではなく、法人になると、一気に著作権侵害と認められた場合に支払われる金額が上がるからです。
ゲーム業界で有名な株式会社カプコンが著作権などで問題になったと前述しましたが、この件で同社は訴訟を起こされています。損害賠償額は、なんと約13億円。もっとも、これは日本ではなくアメリカでの訴訟です。更に1点ではなく、80点の写真作品に対してのもので、しかもこの金額全てが認められるという話でもありません。
ただ、それでも、法人の場合は損害賠償金額などが跳ね上がるのは確実です。相手が個人では裁判で勝っても得られる金額は高が知れていますが(一部の人が思っている程、なろう作家って稼いではいないと思います)、法人ならば充分にリターンがあるのですね。
前述した『記念樹事件』では、三社に対して合計2338万9710円の損害賠償が命じられたそうです。この規模の金額なら、リスクとコストに対して、充分なリターンがあるとは思いませんか?
仮になろう作家が、著作権侵害をしてしまっていて、それを知らないでその作家のその原作をそのままゲームに使ってしまったなら、大きな訴訟リスクを負う事になるのではないかと僕は考えています。著作権をゲーム会社が持つ形にしたなら、更にリスクは大きくなるでしょう。
また、現在の日本のゲーム産業は、今までよりも著作権を含めた知的財産の価値が高くなっています。
原因は主に“中国のゲーム産業”です。日本のゲーム企業よりも資金力で遥かに上回る中国のゲーム企業に対抗する為に、日本企業はアイデアや発想力などの知的財産を活かさなくてはいけないと言われているのですね。
しかし、今まで説明して来た通り、小説家になろうは著作権の概念が希薄と言わざるを得ないのです。
つまり、今の小説家になろうの状態のまま、(どんな形かは分かりませんが)ゲーム産業に参入にしようとすると、著作権法という大きな壁が待っているのではないかと思われるのです。
2021年8月現在、小説家になろうの運営が行っている明確で有効な著作権侵害対策は、音楽の歌詞に対してのもののみではないかと僕は考えています。
いえ、ま、実際に著作権侵害グレーゾーンの作品がたくさん上位にランクインしているみたいですからね。
しかも注意喚起程度の対策では、この問題は解決できないでしょう。何故なら、著作権法に違反する可能性のある作品を書いている人達は前述した通り、“著作権”という概念をそもそも理解し切れていないのかもしれないからです。
ですから、充分な著作権侵害対策効果を出す為には、運営側が何らかの強制力のある力を行使する必要があると考えられますが、これは中々に難しいです。
まず、小説家になろうには、膨大な投稿作品があります。その全てを運営側が人手で監視するのはほぼ不可能と言って良いでしょう。AIを用いるにしても、何度も語って来た通り、著作権侵害に明確な境界線はありませんから、仮に可能だとしてもAIの判定結果は参考程度にしかならないはずです。コストもかかってしまいそうですしね。
一番現実的な方法は、小説家になろう独自のガイドラインを定めて、ユーザー達に著作権侵害疑惑のある作品を通報してもらう方法かもしれませんが、嫌がらせ目的で通報を行うユーザーもいるでしょうから、結局は運営側が精査して著作権侵害に当たるかどうかを判定する事になってしまいそうです。
これだとやはりコストがかかり過ぎるでしょう。
因みに、YouTubeもそれほど確りと著作権侵害判定は行っていないようです。お笑い芸人の“東京03”が、自分達のチャンネルを間違って閉鎖されてしまった事があるそうなんです。どうも、YouTubeの運営がユーザーからの通報をそのまま信じてしまったらしいのですね。
これを考えると、やはり運営側が監視を行うという手段は難しいと言わざるを得ません。
――ただ、ならば、手段がまったくないのかと言えば、そんな事もありません。
厳格に著作権侵害の疑いのある作品を封じるのは難しいかもしれませんが、そういった作品…… つまり、模倣まがいの作品のランキングをあまり上がらないようにするという方法ならばあります。
仮に著作権侵害作品であったとしても、目立っていなければあまり問題にならないでしょう。また、模倣まがいの作品では人気が得られないと作者が判断したなら、そもそもそういった作品を書こうとも思わなくなるかもしれません。少なくとも書き手の数は減るでしょう。
つまり、厳格に著作権侵害作品を禁止にできなくても、模倣まがいの作品の人気を下げられさえすれば、充分に著作権侵害対策になるのですね。
では、具体的にはその為にはどうすれば良いのでしょうか?
元々、「他と似ている作品」を嫌うユーザーは一定層存在しています。盗作疑惑が強い作品の場合はそれが特に顕著で、アマゾンなどでレビューを参考にしてもらえば直ぐに分かりますが、物凄く叩かれています。
何度も説明して来た通り、“小説家になろう”では、そういった作品が上位に入ってしまう場合もあるのですが、その主な原因は“マイナス評価”を付ける機能がないからではないかと思われます。
本来、“目立つこと”にはデメリットが存在します。目立てば、低評価を受けるリスクが産まれ、それによってランキングを下げてしまうかもしれません。
が、小説家になろうでは、作品の評価が加点方式で、仮に最低の2ポイントを付けられたとしても、その作品にとってプラスになってしまうんです。
つまり、「目立ったもの勝ち」のシステムになっているのですね。
ですから、仮に9割のユーザーから「他の作品の真似だ! 著作権を侵害しているじゃないか?!」と批判されていたとしても、残りの1割のユーザーから気に入れられていれば充分に上位にランクインできてしまえる可能性があるのです。
では、このシステムを変えて、「ユーザーの“低評価”がランキングに反映される」システムにしたらどうなるでしょう?
“模倣まがいの作品”は元々嫌われているのです。そのようなシステムになれば、自然とランキングが下がりませんかね?
以前、僕は『だから、“なろう”は嫌われる ~ビジネス戦略としてのなろうランキングの問題点と改善案』というエッセイを投稿しました。
これは一部のなろう系作品がある読者層からとても嫌われている現状を鑑み、それを是正する為に「ユーザーの“低評価”がランキングに反映される」システムを提案したものです。
提案した方法は大きく二つあります。軽くざっと説明すると、
一つはマイナスポイントを導入するという案。これにより「読者の低評価」がランキングに反映されるようになります。ただ、これだけだと“嫌がらせ”で、マイナスポイントを付ける行為を抑制できません。ですから、マイナスの符号を入れ替えて加算する“賛否両論ランキング”を新たに設けます。
普通のランキングではマイナスポイントが付くとポイントが下がりますが、賛否両論ランキングでは逆に上がるのですね。つまり、マイナスポイントにメリットを与える事で、“嫌がらせ”を抑制しようという発想です。
もう一つは、“レビュー”にポイントを付けられる機能を設け、更にそこに“同意ボタン”と“非同意ボタン”を付ける案です。そして、高評価のレビューポイント×(同意ボタンの数-非同意ボタンの数)で決定される“レビュアーおすすめ作品ランキング”を新たに設けます。
仮に嫌われている作品に高ポイントのレビューが付いてしまったとしたなら、“非同意ボタン”が多く押されるでしょうから、このランキングからは外される事になります。
また、レビュー内容で“模倣まがいの作品”である旨が説明されれば、それを見たユーザーも同調するようになり、その作品を高くは評価しなくなるでしょう。
この二つの案は、いずれも著作権侵害対策の為に考えたものではありませんが、それでも確りとその機能を果たします。
特に面白いのは、レビューポイントの方かもしれません。
レビュアーの多くはオリジナリティや斬新さを高く評価しますから、これまでにないような発想の作品が発掘されるようになる可能性だってあります。
因みに、“小説家になろう”のジャンル・エッセイで、ワクチン接種に関する間違った知識を載せた作品が上位にランクインしていたと警鐘を発している人がいましたが、そのような世の中に悪影響を与えかねない作品が上位にランクインする事もこれで抑えられます。
このレビューポイントに懸念点があるとするのなら、ユーザーによっては“作品の類似性”に厳し過ぎる人がいる点でしょうか。ほんの少し似通っているだけで、「あの作品に似ている」とその作品を糾弾している人を時折見かけるように思います。
これについては僕も少しだけ経験があります。責められた訳ではなく、むしろその人は僕の作品を褒めてくれていたのですが、悪魔から特殊能力を授かる話を書いた時に、「設定がデスノートのようだ」という感想をいたたいだ事があるのです。
“人外の何かから、特殊な力を授かる”という話はかなり古くからあります。例えば、ゲーテの“ファウスト”だとか(更に言うと、このファウストにも元ネタがあるようです)。
その設定にオリジナリティがないのは認めますが、別にデスノートを真似した訳ではありません。“有り触れてあるアイデア”を活かしたに過ぎないのです。
(アイデアの活かし方については、オリジナリティがあると自負していたりもするのですが)
前述しましたが、仮に小説家になろうが、ゲーム産業に進出すると考えているのなら、このような著作権侵害対策は重要になって来るのではないかと思われます。
余談ですが、現在のゲーム産業はプロモーションが重要で、しかもコストが非常にかかるようになっているのだそうです。そして、インフルエンサーがプロモーションの手段として注目されてもいます。
ですから、もし仮に(例えば、VTuberだとか)インフルエンサーが、レビュアーになったとしたなら、低コストで効果的なプロモーション手段となるかもしれません。そういった意味でも、“レビューポイント”は面白いのではないかと思います。
さて。
著作権侵害について、色々と語って来ましたが、ここで根本的な問いかけをしたいと思います。
「果たして、“著作権”とは、どうして必要なのか?」
“法律”或いは、“風習”、“マナー”、“儀式”何でも良いのですが、こういった社会科学的な事柄を考える上での基本は、“機能面”に注目する事です。
宗教的な儀式など、自然科学的には意味がないように思える行為でも、社会科学的に分析すると人間関係を調整するなど意味がある場合が少なくありません。
当然ながら、“著作権法”について求められるのもその機能性です。果たして、著作権にはどのような機能があるのでしょうか?
前述した『著作権とは何か 福井健策 集英社新書』でも、この点は言及されていて(111ページ辺りから)、“オリジナルな作品を創作するクリエイターたちにインセンティブを与え、彼らを育んでいこう”などと著作権法の存在意義の一般論を説明してあります。それによって「文化の発展に寄与する」というのですね。
オリジナル作品を創作する意義がなければ、クリエイター達は安易な模倣に走り、新たな作品を産み出そうとはしなくなってしまうかもしれません。それを防ぐのが“著作権法”って事です。
ただし、この本の著者は、著作権法を同時に『壮大な実験』とも評しています。
つまり、本当に著作権法が、「文化の発展に寄与する」かどうかは分からないと暗に訴えているのです。
これは「他人の作品からアイデアなどを吸収することで、様々なクリエイターが新たな作品を産み出して来た」という歴史的事実を踏まえての意見のようです。
確かに過去のある時代においてはそれを認めても良いのかもしれません。情報が少なく、“作品を産み出す切っ掛け”が少なかったでしょうから。
ですが、現在のように多様な“情報”が溢れている時代と、過去の情報不足の時代を同一視するのは誤りではないかと僕は考えています。
僕自身の話なので申し訳ないですが、模倣に頼らなくても、800作品以上もの小説やエッセイを書けています(優秀な作品かどうかは置いておいて)。
そして、著作権法の効果が薄くなると、「クリエイター達が安易な模倣に走り、新たな作品を産み出そうとはしなくなる」という現象は実は既に起こっています。
何度か説明しましたが、“小説家になろう”は、似たような作品で溢れかえっているのです。
つまり、『著作権法の効果が薄くなった』場合の実験は、図らずも“小説家になろう”において既に実施済みだと言えます。
もちろん、ほんの一例に過ぎませんが、社会実験というものは、そもそも充分なケースを行えないのが普通なのでこれは致し方ないでしょう。
要するに、“小説家になろう”のケースを鑑みるに、著作権法の存在意義は充分にあるのではないかと思えるのです。
社会科学的な事柄は“機能面”から判断するのが基本だと説明しました。
様々な意見があるとは思いますが、“なろうランキング”のシステムを改善する意義もこの“機能面”から説明できます。
ランキングを改善すれば、世の中に“良い影響”を与える作品が、多く出るようになるでしょう。これには明らかに社会的価値があります。
それと、“運営”の立場からの話ですが、今現在、なろうランキングと世間で売れる作品には“ズレ”が生じています。
これは恐らく、“低評価をランキングに反映する”システムがないからではないかと思われます。
ですがなろう運営にとってみれば、なろうランキングで上位に入った作品が、世間一般でも大ヒットする状況が望ましいのは言うまでもありません。
その方が“小説投稿サイト”としての価値が上がり、広く世間一般から注目を集めるだろうからです。
時折、「作品を選ぶ出版社が悪い」と主張する人がいます。ランキング上位に入っていたとしても、面白い作品とは限らない。作品をきっちり審査してくれというのですね。
消費者の立場からなら、その意見は正しいと思うのですが、“小説家になろう”の立場から判断するのなら間違っています。
“小説家になろう”にとって、出版社は客のようなものです。少なくとも上位のパートナーだとは言えるでしょう。
そして、より良いサービスを、客に提供する事を目指すのは当然です。
つまり、“信頼できるランキング”を小説家になろうは提供するべきだという事です。
それでは、“小説家になろう”が、世の中にとってより良い場になる事を願って、今回はこの辺りで終わりにしたいと思います。
僕は、へっぽこではありますが、音楽も作っていたりします。今回、著作権侵害問題を取り上げるという事で、まさかとは思ったのですが、一応、自分の音楽が他のサイトに無断で使われていないか調べてみたら、なんとありました。
中国の bilibiliです。
どうも、無断転載するって有名らしいですね。
……僕の音楽なんて転載して何の意味があるのだろう?
そう言えば、なろう原作じゃない、なろう風漫画も増えて来ましたね。
もしかしたら、「なろう風漫画を売るのに、なろうは必要じゃない」って出版社はそろそろ思い始めているのかも。
まぁ、簡単に書けますからね、テンプレ作品って。
本気で、実力勝負のランキングに改善しないと、ジリ貧で衰退していくのじゃないですかねぇ?