■ 四.午後八時五十九分
■ 四.午後八時五十九分
あー。変な夢見た。
なんだかわけわかんねーとこに行ったらいきなり爆弾落ちてくるわ、
知ってるけど知らないトコロばっか出てくるわ。
「気分はどう?」
「・・・最悪・・・」
ひたいにぬれタオルがあてられている。
「母さん・・・聞いてよ。なんか変な夢見て・・・」
「どんな?」
「なんかいきなり、昔住んでたトコに行ったら・・・全然知らない
トコになってて、爆弾とか落ちてきて・・・」
「仕方ないやん。だってそういうときなんやもん」
「・・・は」
がばっと起き上がる。そこは見知らぬ部屋だった。
「・・・え」
「大丈夫?・・・近くに焼夷弾が落ちたんみたいなんよ」
「し・・・しょうい?」
「でも大丈夫。ケガもしてないし。気を失っただけ」
「・・・」
なんなんだ・・・夢の続き?
昼間のあの女が浴衣を着ている。
「ここは・・・」
「宮司さんの家」
「・・・」
古い掛け時計がボン、ボン、と時を告げていた。・・・9時?
「あの・・・ここは・・・」
「はい?」
「・・・ここは、どこ?」
「・・・どこって辰宮八幡宮」
「・・・だよな」
でも、俺の知ってる神社じゃない・・・どうしてなんだ?
「今日の空襲はひどかったみたい・・・こんなに爆弾が落ちたんもはじめて
じゃないんかな」
「く、くうしゅう?」
何ソレ・・・
「空襲・・・って、アレ?イラクとかでやってた・・・」
いやあれは空爆とかだっけ?・・・わけわからん。イラク、という言葉に
「・・・それは、どこのことなん?外国?」
「・・・どこって・・・う。そーいやイラクってどこなんやろうか」
名前はわかるけど場所はどこにあるのか俺にはわからない・・・
「・・・不思議なひとやね、あんたは」
「え」
「まるでどこか違う世界からきたみたい」
「・・・」
「でも、エマおばちゃんの親戚の方なんちね。・・・ドイツからきたん?」
「あ・・・ああ?」
「宮司さんがそういいよったけど・・・」
「・・・」
宮司・・・辰宮・・・
「あの・・・辰宮さんは?」
「寄り合いにいっちょるみたい」
「寄り合い・・・」
「もう戻ってくる頃やと思うけど。・・・今日の空襲はひどかったけ
被災された人だとかを助けに」
「・・・」
意味不明
つーか空襲ってナニ?なんでそんなもんがあるわけ?いきなり爆弾が
ドカドカ落ちてきて・・・
「え、映画のロケ?」
「は?」
「いや・・・」
この時代がかった家にしてもなんにしても俺の知らないものばかり。
俺は一体、どうしてしまったんだろうか。長い夢を見てるとか?
「いま、戻った。・・・具合はどうだ?」
「宮司さん。お帰りなさい」
「気がついたようだな」
「・・・あの」
わけわからん。じゃあこれで、と女は家を出て行った。さて、と宮司は
「古閑・・・くんとかいったかな。古閑くん」
「は、はい」
「・・・君は一体どこからきたん?」
「・・・どこ、といわれても」
じゃあここは『どこ』なのだろうか?・・・わからない。
「住所は、北九州市紅葉台で・・・」
「・・・『キタキュウシュウ市』とはどこのことだ?九州にあるのか?」
「・・・どこって・・・ここのことだと思うけど・・・」
「・・・キタキュウシュウ市・・・?」
首をかしげて辰宮のおっちゃんが考え込む。
なんでわからないんだろう。逆に俺は質問する。
「あの、ここは一体、どこなんですか」
「ここ?・・・ここは小倉市栄村だ」
「む、むら?」
おいどこだそれ・・・
「えーと・・・北九州市小倉南区とか北区とかじゃなかったですかね?」
「キタキュウシュウ市?なにをいってる。ここは『小倉市』だ」
「・・・」
俺の知ってる場所じゃないってことかな・・・ところで、と
「この・・・数馬が渡してくれ、といった手紙だが」
「あ、はあ」
「・・・これは軍事機密なんか?」
「へ」
「・・・空襲のあった場所、被災者数・・・こういったもんがこのように
まとめちょる、とは・・・数馬は一体、何をしよったんや?それに・・・
ミッドウェーなどの戦闘・・・あの『不沈艦』といわれた『武蔵』が
沈んだなんて、デタラメを」
「・・・」
俺もそのレポートを見る。日本各地の空襲状況のほかに
海戦・・・よくわからんが、沈んだ船の名前や死亡した人間の数が
あった。
「・・・一体、数馬は何を・・・」
「・・・俺にもわかりません・・・」
というか。辰ちゃん、あんたパッパラパーにみえてこんな難しいレポート
書いてんのかよ!?・・・歴史に弱い俺とかはわからない・・・
・・・歴史?
「あの・・・今、って平成でいうとどのくらいっすかね?」
「へいせい?」
「・・・じゃあ西暦とかー」
「・・・昭和20年7月15日だが。・・・何か?」
「・・・し、昭和・・・?」
って俺が生まれた昭和64年のことを言ってるんすかこのオッサン?
今は平成17年・・・なんですが?
「・・・ちょっと俺寝ます。アタマ痛いです」
「・・・そうか」
・・・夢だ
夢に決まってる。こんなわけわからんこと・・・
きっと朝になったら、いつもどおり・・・