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あの夏の最後の日。  作者: 伊呂波 うゐ
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■ 参.午後六時八分

■ 参.午後六時八分


 「数馬が、死んだ・・・」

 「・・・」

 神主のおっちゃんが持っていたのはわら半紙のようなものに印刷されて

いた紙きれで、なんでそんなもんで死亡通知がくるのか俺には

わからなかった。

 「あの・・・交通事故とかですか?」

 「事故?・・・何を言っちょるんか。戦死にきまっちょるやろう」

 「・・・『せんし』?」

 なんかの病気かな・・・せんし。俺を見るなり

 「あんたは数馬に逢ったんやろう?そんときはどんな様子やった?」

 「どんな・・・って」

 「どこで会ったん?南方か?それとも港とかか?なんでもいい。

数馬のことを話しちょくれ。・・・こんなことになるくらいやったら、あの子を

この家から出すんじゃなかったっちゃ。私は反対したんに・・・」

 「・・・」

 わけわからん。だいたい数馬って・・・誰のことだろう。辰ちゃん・・・

辰宮央司のことではないと思うのだが。辰宮のイトコとか?

 「ぐ、宮司さん。数馬さんが死んだ、なんてそんなことあるわけないやん。

だって・・・数馬さんあんなに元気で出征されたんに・・・」

 「しかし・・・」

 「きっと誰か、別の人ですよ。そうじゃないと、私・・・わたし・・・」

 両手で顔を被って女は泣き始めた。夜が近い。

 「・・・とにかく。なんでもいいけ数馬のことを話してくれん?君・・・」

 「・・・はあ?」

 「家に・・・」


 ・・・古い家。神社ってこんな家だったっけ・・・


 5年前のことなので詳しいことはいまいちよく思い出せないが、広い土間をあがり

畳の敷いてある部屋に。居間に通される

 「ず、ずいぶん古い家なんですね?」

 ・・・裸電球に幌をかぶせてある・・・なんかのハヤリなのかな。そーいや

辰宮に買ってもらった雑誌にも『レトロブーム』とかって特集あったけど。

ソレとかか?・・・つーかテレビもDVDもこの家にはないみたいだ。

まあ、そういう家もあるかもだけど・・・

 「君は数馬とはどういう知り合いなん?」

 「どういう・・・っていわれても」

 昔、近所に住んでたヒト=よく遊んでもらった=幼馴染?

 「・・・ちょっと待って。俺の知ってる辰ちゃん・・・辰宮は、辰宮央司って

名前だけど。数馬っていうのは親戚かなんかなんじゃ・・・」

 「なに・・・!?」

 央司、という名前を聞いておっちゃんは驚いていた

 「どうしてその名前を知ってるんだ?あんたは・・・」

 「は?」

 「ヨウジ・・・辰宮央司は、死んだ私の息子の名前だ。・・・でも亡くなって

10年になる」

 「・・・は?」

 「・・・君は央司も知っとるんか?」

 そういって古いセピア色に変色した写真を見せられた。そこには外国人らしい

女と若いころのこのおっちゃん、そして外国人の人の腕に抱かれた赤ちゃんの

写真があった。

 「これが数馬だ」

 「え?」

 学生服を着ている若い男の写真・・・髪は坊主だったがそこに写っていたのは

間違いなく辰ちゃん・・・辰宮央司のようだったが・・・

 「・・・これが、数馬って人?」

 「そうだ」

 「・・・」

 どういうことだろう。実は辰ちゃんって数馬って名前だったとか?でも、確かに

俺の知ってる辰ちゃんの名前は央司・・・だったと思う。ヨウにいちゃん、ヨウにい

ちゃん、って昔は呼んでいたし・・・でもその名前はこの人の死んだ子供の名前だと

かいう。

・・・わけわからん。

 「君はどこで数馬と会ったんだ?」

 「・・・そこの・・・たぶん栄町あたり」

 「栄町?」

 「・・・バイトに行く用ができたとかで・・・辰ちゃんが持ってたレポートを俺が神社

に届けるって・・・それで別れたんだけど」

 「『バイト』?・・・それは何なん?」

 「辰ちゃん、そこのコンビニでバイトしよるやん」

 「・・・『コンビニ』・・・?」

 時計を見た。6時すぎ

 「・・・辰ちゃんとは二時くらいに別れたと思うけど・・・」

 「まさか。数馬が日本にいるわけないやんか。数馬は南方に行った。それも

去年の話っちゃ」

 「南方・・・?」

 「フィリピンやサイパンのほう」

 「・・・フィリピン?サイパン?」

 何しにそんなとこにいくわけ?グアムにでもゴールデンウィークにアソビにいったとかか?

 ・・・ホームステイとか語学留学とかしてたのかな・・・

 「・・・最後の手紙が来たのが3ヶ月前だ。そして死亡通知・・・でも信じん。

数馬の骨がくるまでは私はあの子が死んだなんて・・・思えん」

 「・・・骨・・・」

 「君は数馬の友達やったんか?学校の?それとも同じ部隊やったとか?

なんでもいい。あの子はどんなやった?どんなことを話してた?」

 「・・・といわれても・・・」

 「そうだ、さっきの・・・あんたが数馬から預かってたものは手紙か!?」

慌てておっちゃんはレポートをとりにいった。それを手に取る。

 「・・・なんだこれは?空襲状況?・・・1945年7月14日、呉にて空襲?

・・・ほかにもいろいろ・・・おい、どういうことだ?」

 「は?」

 「こんな・・・でたらめを。しかも今日・・・7月15日に小倉市で空襲だと?

そんなバカな」

 「え」

 「このへんで空襲なんて・・・」

 その時だった。

 「・・・なんだ!?」

 いきなりサイレンが鳴り始めた。・・・火事?

 「な、なに?」

 「・・・まさか・・・」

 慌てておっちゃんが外に出た。なんだか夕方なのに空がやけに赤い。

 夕焼けの赤じゃなくて・・・

 「・・・!?」

 轟音がした。唖然と立ち尽くす俺の前で飛行機が旋回して何かを落としていた。

 「・・・え?なに?なんかのロケ?」

 「こいっ!」

 「え?あ?は?」

 「いいから早く防空壕に入らんか!死にたいんか!?」

 「ぼ・・・ぼうくうごう?」

 手を引っ張られて神社の森の奥にあるあの秘密基地に連れて行かれた。

そこにはすでに近所からきたのか何人もの人たちが不安そうにそこにいた。

 「宮司さん、その人・・・」

 「え、エマの甥だ。横浜からそう・・・疎開してきた。名前は・・・」

 おっちゃんはいった。

 「・・・名前は?」

 「ば、万里」

 「・・・バンリ?」

 「古閑万里・・・」

 「・・・コガ?」

 結構近くに何かが落ちた。ものすごい熱風が襲ってきた。

 マジで

 わけわかんねえ・・・


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