(3)
魔法学園からの討伐隊参加は、教師7名と、生徒25名…
最上級生から12名、3年生から8名、2年生から5名が選ばれた。
5班に分かれ、それぞれに教師1、2名が付く。
班により向かう地域も難易度も別である。
能力により班分けされたが、教師が考慮してくれたのか、
ユーリー、サイラス、エリザベスが同じ班、
わたしもカイルと同じ班になる事が出来た。
エリザベスたちと別れてしまったのは残念だったが、
カイルと一緒というのは心強かった。
わたしたちの班は、教師1名、4年生のジェフ、
3年生からは、わたしとカイル、そしてチャーリー、2年生のビリーの6名だ。
わたしたちの班が向かう地域は、結界にほど近い小さな町で、
魔獣が出現し、棲みかも出来てしまい、
町に居られ無くなり困っているという話だ。
町へ向かう荷馬車に揺られながら、教師から討伐の作戦や注意を聞いた。
「棲みかとしている場所は、岩場の洞窟です、
これは実戦を兼ねるので、私の事は補佐だと思って下さい。
先陣はジェフ、カイル。
チャーリー、ビリーは入り口を張り、後方のセシリアは待機」
わたしは後方支援で志願していたが、
やはり自分一人だけ安全な場所で待機というのは、居心地が悪かった。
罪悪感からか、皆から重い空気が発せられている…
そんな気がしてきてしまう。
「町人の証言から、魔獣は二頭、動きが素早く、
殺傷能力が高いので、くれぐれも油断はせずに___」
荷馬車が町に着く、町は荒らされ、人気も無く寂れていた。
対応する人も無く、直接棲みかのある岩場へ向かった。
少し離れた場所で荷馬車を降り、歩いて岩場に向かう。
「セシリアはここで待機、入り口の見張りはチャーリー、ビリー頼みましたよ」
教師の指示で、わたしたちは洞窟の入り口前で止まった。
「カイル…」
わたしが不安でついその袖を掴むと、カイルは「大丈夫です」と笑みを返し、
わたしの手をそっと包むと、離させた。
「姉さんも気を付けて下さいね、何が起こるか分かりませんので…」
カイルを困らせてはいけない…わたしは頷き、笑顔を作った。
大丈夫、カイルはいつも通り、落ち着いている。
カイルが失敗した所なんて見た事無いですから!
大丈夫___
そう思ってみても、やはり心配で、
わたしは洞窟に消えて行くカイルの姿を、ずっと見つめていた。
三人が洞窟に消えた途端、チャーリーとビリーはその場に腰を降ろした。
「あーあ、クソつまんねー!」
「何で俺らが待機なんだよ」
「そもそも、この班外れだろ、女居るしよー」
「教師1人、4年が1人、役に立たない女だもんな、俺らを舐めてるぜ」
「どうせ、ショボイ魔獣がいんだろーなら、俺らを行かせろっつーの!」
「こんなんじゃ、加点何処ろじゃねーよ、ハズレハズレ!」
悪態を吐き出した二人を見ない様に、わたしは足元に視線を落とした。
カイル…どうか無事で…
わたしは洞窟の異変を感じないか、神経を集中させていた。
その時、何か聞こえた気がした。
顔を上げたわたしは、岩場の上に、その姿を見た。
「!?上___!!」
咄嗟に叫んだのと、岩場の上の黒い影が飛び降りて来たのは、
ほぼ同時だった。
それはビリーの頭に着地し、そのままビリーを押し倒し覆い被さった。
「ギャーーーー!!助けてくれーーー!!」
ビリーは悲鳴を上げたが、チャーリーは驚愕しただ見ているだけだ。
わたしはビリーを助けようと、咄嗟に氷の剣を放った。
グサッ!!
それは魔獣の体に突き刺さり、魔獣はぬっとわたしの方を見た。
大きさは狼程、でも狼ではない、四肢はとても短いし、体も長い…
毛に覆われた尻尾は細く鞭の様で、
耳は小さく、クリっとした目の付き方も…イタチかフェレットの様な…
ビリーから飛び降りたそれは「クックック」と声を出しながら、
ゆっくりと歩いて来る。氷の剣は効いてはいない、弾き返したらしい。
外部からの攻撃に耐性があるのか、それとも皮膚が頑丈なのか…
お願い…
フェレットであって欲しいです…!!
わたしはそれを願って、新たな魔法を放った。
「___!!」
魔獣はその歩みを止め、雷に打たれたかの様に、体を震わせた。
そして、その場に突っ伏した。
やったのでしょうか?
わたしは確かめる勇気は無かった。
ビリーが岩場でのた打ち回っているのに気付き、慌てて掛け寄った。
ビリーの体には深い斬り傷が数本あり…赤い血に染まる、
それは命に関わる程の傷だ。
「直ぐ、治します!大丈夫ですから、気を確かに!」
わたしはビリーに治癒魔法を掛けた。
傷は治したものの、先の恐怖から、ビリーはすっかり正体を無くしていた。
「うわあああああ!!」叫びを上げるビリーに、
ヒーリングの魔法を掛けると、漸く口を閉じた。
「ほっ」と息を吐く。
気が抜けると、急に洞窟の方が気になってきた。
皆は、大丈夫でしょうか…
怪我をして、動けなくなっていないだろうか?
そう思った時だ、岩場がゴゴゴ…と、大きく揺れ出した。
洞窟で魔法を使ったのだろう。
だが、洞窟では大きな魔法は使えない筈…
「ああ…カイル!」
どうか無事でいて!!
揺れが引き、それから幾らか経ち、
三人が一頭の魔獣を抱え、戻って来た。
わたしはカイルに走り寄った。
「無事ですか!?怪我はしていませんか!?」
「はい、全員無事です、そちらは…派手にやった様ですね?」
カイルが面白そうな顔で見ている方には、
岩場に横たわる魔獣の姿があった。
「一頭は外に出ていましたか…洞窟の奥まで探したんですが、
見つからなかったのでそんな気はしたのですが…
姉上、大丈夫でしたか?」
「いえ、その…ビリーが襲われてしまいまして…治癒はしたのですが」
ビリーは岩場に座り込んだまま、膝を抱えていたが、
教師の姿を見ると、縋りついていた。
「魔獣に殺されるー!先生、助けて下さい!うわあああ!」
教師はビリーに何か魔法を掛け、ビリーはその場に倒れた。
眠らされた様だ。
そして、チャーリーはそれを見て、漸くノロノロと立ち上がった。
教師はチャーリーを見て、魔獣を見て、わたしを見る。
「誰か説明をして下さい」
「入り口を張っていたら、突然そいつが上から降って来て、
ビリーを襲ったんです!」
チャーリーが堰を切った様に言った。
「ビリーは血だらけで…」
「魔獣は誰が倒したのです?」
「あの…彼女が…」
チャーリーが気まずそうに、わたしをチラリと見る。
教師がわたしに向かう。
「魔法は何を?」
「ビリーが襲われた時は、氷の剣で攻撃したのですが、効きませんでした。
皮膚に弾かれた様に思えたので、魔獣の体温を内から上げました…」
「そう、熱に弱いという分けですね、良く機転を利かせましたね、
よくやりました、セシリア」
「あ、あの、ビリーは魔獣の爪で切り裂かれて…危なかったんです!
もう少し治癒が遅ければ…」
死んでいた___
「それは仕方の無い事です、突然襲われれば防御魔法も使えません。
目の前に魔獣がいるなら、治癒よりも相手を先に倒さねば、全滅でしょう。
ビリーもチャーリーも、あなたを恨む権利はありません。
私の采配が甘かった様です、チャーリーとビリーには荷が重かったですね」
教師はわたしが倒した魔獣を抱え上げ、荷馬車に向かった。
「やっぱり許可なんてするのでは無かったと、後悔していますよ…姉上」
隣でカイルに顔を顰められたが、わたしは何も言い返せなかった。
襲われたビリーを見て、わたしも自分が甘かった事に気付いたからだ。
魔獣は洞窟に居ると思い込んでいて、入り口を張るのは、
洞窟から逃げ出して来た魔獣を捕まえる為だと思い込んでいた。
わたしも、チャーリーも、ビリーも。
「ご心配をお掛けしてすみませんでした…」
「おや、姉上にしては愁傷な事を言いますね?」
「茶化さないで下さい、わたしだって、怖かったのですから…」
緊張が解けると、急に恐怖に襲われる。
「すみません、僕にはヒーリングは使えないんですよ…」
カイルは言うと、わたしの体にそっと腕を回し、抱きしめてくれた。
怖かったです…
あんなに怖いものだとは思っていませんでした…
だけど、泣きません…
どんなに怖い思いをしても、カイルに置いていかれたくないから___
「ありがとうございます、もう、大丈夫です!」
「まだ、続ける気ですか?」
カイルはわたしの気持ちが良く分かるのですね…
わたしは二コリと笑って見せた。
「はい!」
カイルが続けるなら、わたしも付いて行きます。
そうしないと、きっと、もっと、怖いから…
 




