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魔法学園からの討伐隊参加は、教師7名と、生徒25名…

最上級生から12名、3年生から8名、2年生から5名が選ばれた。

5班に分かれ、それぞれに教師1、2名が付く。

班により向かう地域も難易度も別である。


能力により班分けされたが、教師が考慮してくれたのか、

ユーリー、サイラス、エリザベスが同じ班、

わたしもカイルと同じ班になる事が出来た。

エリザベスたちと別れてしまったのは残念だったが、

カイルと一緒というのは心強かった。


わたしたちの班は、教師1名、4年生のジェフ、

3年生からは、わたしとカイル、そしてチャーリー、2年生のビリーの6名だ。

わたしたちの班が向かう地域は、結界にほど近い小さな町で、

魔獣が出現し、棲みかも出来てしまい、

町に居られ無くなり困っているという話だ。



町へ向かう荷馬車に揺られながら、教師から討伐の作戦や注意を聞いた。


「棲みかとしている場所は、岩場の洞窟です、

これは実戦を兼ねるので、私の事は補佐だと思って下さい。

先陣はジェフ、カイル。

チャーリー、ビリーは入り口を張り、後方のセシリアは待機」


わたしは後方支援で志願していたが、

やはり自分一人だけ安全な場所で待機というのは、居心地が悪かった。

罪悪感からか、皆から重い空気が発せられている…

そんな気がしてきてしまう。


「町人の証言から、魔獣は二頭、動きが素早く、

殺傷能力が高いので、くれぐれも油断はせずに___」



荷馬車が町に着く、町は荒らされ、人気も無く寂れていた。

対応する人も無く、直接棲みかのある岩場へ向かった。


少し離れた場所で荷馬車を降り、歩いて岩場に向かう。


「セシリアはここで待機、入り口の見張りはチャーリー、ビリー頼みましたよ」


教師の指示で、わたしたちは洞窟の入り口前で止まった。


「カイル…」


わたしが不安でついその袖を掴むと、カイルは「大丈夫です」と笑みを返し、

わたしの手をそっと包むと、離させた。


「姉さんも気を付けて下さいね、何が起こるか分かりませんので…」


カイルを困らせてはいけない…わたしは頷き、笑顔を作った。


大丈夫、カイルはいつも通り、落ち着いている。

カイルが失敗した所なんて見た事無いですから!

大丈夫___


そう思ってみても、やはり心配で、

わたしは洞窟に消えて行くカイルの姿を、ずっと見つめていた。



三人が洞窟に消えた途端、チャーリーとビリーはその場に腰を降ろした。


「あーあ、クソつまんねー!」

「何で俺らが待機なんだよ」

「そもそも、この班外れだろ、女居るしよー」

「教師1人、4年が1人、役に立たない女だもんな、俺らを舐めてるぜ」

「どうせ、ショボイ魔獣がいんだろーなら、俺らを行かせろっつーの!」

「こんなんじゃ、加点何処ろじゃねーよ、ハズレハズレ!」


悪態を吐き出した二人を見ない様に、わたしは足元に視線を落とした。


カイル…どうか無事で…


わたしは洞窟の異変を感じないか、神経を集中させていた。

その時、何か聞こえた気がした。


顔を上げたわたしは、岩場の上に、その姿を見た。


「!?上___!!」


咄嗟に叫んだのと、岩場の上の黒い影が飛び降りて来たのは、

ほぼ同時だった。

それはビリーの頭に着地し、そのままビリーを押し倒し覆い被さった。


「ギャーーーー!!助けてくれーーー!!」


ビリーは悲鳴を上げたが、チャーリーは驚愕しただ見ているだけだ。

わたしはビリーを助けようと、咄嗟に氷の剣を放った。


グサッ!!


それは魔獣の体に突き刺さり、魔獣はぬっとわたしの方を見た。

大きさは狼程、でも狼ではない、四肢はとても短いし、体も長い…

毛に覆われた尻尾は細く鞭の様で、

耳は小さく、クリっとした目の付き方も…イタチかフェレットの様な…


ビリーから飛び降りたそれは「クックック」と声を出しながら、

ゆっくりと歩いて来る。氷の剣は効いてはいない、弾き返したらしい。

外部からの攻撃に耐性があるのか、それとも皮膚が頑丈なのか…


お願い…

フェレットであって欲しいです…!!


わたしはそれを願って、新たな魔法を放った。


「___!!」


魔獣はその歩みを止め、雷に打たれたかの様に、体を震わせた。

そして、その場に突っ伏した。


やったのでしょうか?


わたしは確かめる勇気は無かった。

ビリーが岩場でのた打ち回っているのに気付き、慌てて掛け寄った。

ビリーの体には深い斬り傷が数本あり…赤い血に染まる、

それは命に関わる程の傷だ。


「直ぐ、治します!大丈夫ですから、気を確かに!」


わたしはビリーに治癒魔法を掛けた。


傷は治したものの、先の恐怖から、ビリーはすっかり正体を無くしていた。

「うわあああああ!!」叫びを上げるビリーに、

ヒーリングの魔法を掛けると、漸く口を閉じた。


「ほっ」と息を吐く。

気が抜けると、急に洞窟の方が気になってきた。


皆は、大丈夫でしょうか…

怪我をして、動けなくなっていないだろうか?


そう思った時だ、岩場がゴゴゴ…と、大きく揺れ出した。

洞窟で魔法を使ったのだろう。

だが、洞窟では大きな魔法は使えない筈…


「ああ…カイル!」


どうか無事でいて!!


揺れが引き、それから幾らか経ち、

三人が一頭の魔獣を抱え、戻って来た。

わたしはカイルに走り寄った。


「無事ですか!?怪我はしていませんか!?」

「はい、全員無事です、そちらは…派手にやった様ですね?」


カイルが面白そうな顔で見ている方には、

岩場に横たわる魔獣の姿があった。


「一頭は外に出ていましたか…洞窟の奥まで探したんですが、

見つからなかったのでそんな気はしたのですが…

姉上、大丈夫でしたか?」


「いえ、その…ビリーが襲われてしまいまして…治癒はしたのですが」


ビリーは岩場に座り込んだまま、膝を抱えていたが、

教師の姿を見ると、縋りついていた。


「魔獣に殺されるー!先生、助けて下さい!うわあああ!」


教師はビリーに何か魔法を掛け、ビリーはその場に倒れた。

眠らされた様だ。

そして、チャーリーはそれを見て、漸くノロノロと立ち上がった。

教師はチャーリーを見て、魔獣を見て、わたしを見る。


「誰か説明をして下さい」


「入り口を張っていたら、突然そいつが上から降って来て、

ビリーを襲ったんです!」


チャーリーが堰を切った様に言った。


「ビリーは血だらけで…」

「魔獣は誰が倒したのです?」

「あの…彼女が…」


チャーリーが気まずそうに、わたしをチラリと見る。

教師がわたしに向かう。


「魔法は何を?」


「ビリーが襲われた時は、氷の剣で攻撃したのですが、効きませんでした。

皮膚に弾かれた様に思えたので、魔獣の体温を内から上げました…」


「そう、熱に弱いという分けですね、良く機転を利かせましたね、

よくやりました、セシリア」


「あ、あの、ビリーは魔獣の爪で切り裂かれて…危なかったんです!

もう少し治癒が遅ければ…」


死んでいた___


「それは仕方の無い事です、突然襲われれば防御魔法も使えません。

目の前に魔獣がいるなら、治癒よりも相手を先に倒さねば、全滅でしょう。

ビリーもチャーリーも、あなたを恨む権利はありません。

私の采配が甘かった様です、チャーリーとビリーには荷が重かったですね」


教師はわたしが倒した魔獣を抱え上げ、荷馬車に向かった。


「やっぱり許可なんてするのでは無かったと、後悔していますよ…姉上」


隣でカイルに顔を顰められたが、わたしは何も言い返せなかった。

襲われたビリーを見て、わたしも自分が甘かった事に気付いたからだ。

魔獣は洞窟に居ると思い込んでいて、入り口を張るのは、

洞窟から逃げ出して来た魔獣を捕まえる為だと思い込んでいた。

わたしも、チャーリーも、ビリーも。


「ご心配をお掛けしてすみませんでした…」

「おや、姉上にしては愁傷な事を言いますね?」

「茶化さないで下さい、わたしだって、怖かったのですから…」


緊張が解けると、急に恐怖に襲われる。


「すみません、僕にはヒーリングは使えないんですよ…」


カイルは言うと、わたしの体にそっと腕を回し、抱きしめてくれた。


怖かったです…

あんなに怖いものだとは思っていませんでした…


だけど、泣きません…


どんなに怖い思いをしても、カイルに置いていかれたくないから___


「ありがとうございます、もう、大丈夫です!」

「まだ、続ける気ですか?」


カイルはわたしの気持ちが良く分かるのですね…


わたしは二コリと笑って見せた。


「はい!」


カイルが続けるなら、わたしも付いて行きます。

そうしないと、きっと、もっと、怖いから…



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