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「セシリア嬢、少しいいか?」


放課後、ユーリーに声を掛けられ、

わたしはユーリーに付いて空き教室に入った。

護衛のサイラスも一緒だが、わたしたちから遠く距離を置いていた。

何事でしょうか…?

少し不安に思いながら、ユーリーの言葉を待った。


「呼び出してすまなかったな、カイルには許可を得た。

あいつは真綿で首を絞めてくるタイプだからな、セシリア嬢も苦労するな」


真綿…

時々見せる、あの、内心は怒っているのに、

笑顔を見せている時の事でしょうか?

確かに、いっそ怒って欲しいと思ってしまいますね…


「それでだ…」と、ユーリーは暫し言い淀んだ後、それを口にした。


「神託の事なんだが…」


「はい」


「僕は聖女と婚約する事になっていたか?」


意外な事を聞かれ、わたしは小さく息を飲むも、それを答えた。


「はい、でも、それはお二人が望んだからです、

今のユーリー様とパトリシア様はその様な関係ではありませんよね?」


「ああ…だが、パトリシアが僕との結婚を望んでいる」


ユーリーが苦々しく眉を顰めた。


「それは…本当なのですか?」


「残念ながら、本当だ、そして、王もそれを望んでいる」


「!?」


わたしは何も言えなかった。

ユーリーもわたしの言葉を必要としている分けでは無いだろう。


「パトリシア様は、ユーリー様と婚約をしたら、

力が手に入ると思われているのでしょうか…」


わたしに考えられるのは、それ位だった。

だが、ユーリーは頭を振った。


「いや、彼女が言うには、僕を苦しませたいそうだ」


え?


「今まで、彼女の邪魔をしてきた事が気に入らないらしい、罰だと。

僕を跪かせ、一生傅かせてやると言っていた」


「そんな!」


わたしは思わず声を上げていた。


「その様な結婚に意味はありません!」

「ああ、僕も同感だ、だから出来る限りは抵抗してやるつもりだ」


ユーリーはニヤリと笑ったが、

そう上手くいかない事は、お互いに分かっていた。

もどかしいが、自分はどうする事も出来無い。

相手は聖女で、わたしは悪役令嬢だ。


「すまなかったな、セシリア嬢に話を聞いて貰ったら、少し気が晴れた」

「いえ、あの…今、聖女の力は、どの程度のものなのでしょうか?」


結界を張れるのだろか…


「徐々に力は強くなってきていると聞いている。

近い内に、結界の強化を行って貰う事になるだろう」


「そう、ですか…」


「おまえの神託が当たらなければいいがな」


ユーリーが苦笑する。



【聖女の純真な愛が浄化する】


もしも、聖女に『純真な愛』が持て無かったら…

一体、この世界はどうなってしまうのでしょう?


とてもユーリーには言えなかった。




◆パトリシア◆



オーリアナ国の結界は、各地で綻びを見せ始めていた。

各地から、魔獣や魔物が出現し町を襲うという事例も聞こえてきていて、

魔術師団や私設討伐隊等だけでは、人手不足になりつつあった。


そこに登場したのが、『聖女』だ。


聖女の力はまだ若く、魔物や魔獣を浄化する事は叶わなかったが、

結界の綻びを治す事が出来た。


魔物や魔獣の討伐は魔術師団に任せ、結界のみを強化していく。

パトリシア自身、結界を強化する度に、

力が強くなっていくのを感じていた。


最強の聖女に近付いているという分けね?

もう直ぐ、私はこの世界で一番優れた聖女になるのよ!!


そうなれば、この世界は私の思うがまま!!


その為にも、もっと結界を治さなきゃ…


「もっともっともっともっと壊れなさいよ!!」


そういえば、あの王子と結婚したら、力は強くなるかしら?

あんな男、今の私には、どうだっていい存在だけど…

物語では、王子と婚約してから、更に力が増したわよね?

試してみてもいいわね…使えなければ、捨ててしまえばいいんだし?


ああ、それに、婚約式の直前のパーティで、あの女が破滅を迎えたんだ!

全員が見てる中で罪を暴かれて!皆から暴言を吐かれて!詰られて!

あの女がみっともなく連行されて行く姿を見られる!


「…うふふ、あはははは!!」


ああ、なんて愉快なの!何故忘れていたのかしら?


ああ、早く時が来ればいいのに___



◆◆◆

◇◇◇



パトリシアは、今までも学園に来ない日は多かったが、

今年度に入ってからは、全く顔を見せていなかった。

だが、王宮で聖女の訓練をしているという分けでは無く、

結界の綻びを強化したり…その方で忙しくしているらしい。


「パトリシアは『学園に来たい』という風にはとても見えないのだが、

何故、魔法学園の生徒でいる事に拘るのか…」


ユーリーは不思議がっていた。


パトリシアが学園の生徒でいるのは、多分…

聖女毒殺未遂事件の会場となるからだろう___

勿論、そんな事は言えないので、わたしは話を反らした。


「でも、パトリシアは結界を治せるのですね!

それに、危険な区域へ自ら出向き、熱心に働かれているなんて…

尊敬します!」


話を聞いて、パトリシアに抱いていた印象が変った。

やはり、『聖女』となるべき人だったのだと。


だが、ユーリーは視線を遠くにやった。


「そうか…僕には、何か別の…前兆のように思えるのだが…

あの女の顔は、時々禍々しいものに見える…」





結界の件で魔術師団や討伐隊が出払い、それに伴い、

近隣地域から、魔法学園に魔獣討伐の要請が来た。


学生といえど、卒業後は魔術師団に入団する者も多く、

実地訓練も兼ね、能力に応じて参加が許される事になった。

危険も伴うが、働き次第では、

魔術師団入団試験時の加点となるという利点もあり、

最上級生の間では、多くの参加希望の声が上がっていた。


ユーリーは勿論、護衛であるサイラス、エリザベスも参加を決めている。

そして、カイルも…


「カイルも、討伐隊に参加されるのですか?」


「はい、こういう時勢ですからね、出来る限りは協力したいと…

ああ、大丈夫ですよ、無理はしません」


カイルは笑顔で請け負う。

カイルはいつも冷静だし、低コスパな人だ。

魔獣や魔物を見ても、怯えてパニックを起こしたりはしないだろう。


だけど…絶対に大丈夫!という保証は何処にも無いのだ。

それが怖い。

きっと、心配して精神が参ってしまいます…


「ならば、わたしも参加致します!」


決死の思いで言ったわたしを、カイルは二コリと笑みを浮かべ…


「駄目です」


切り捨てた。


「ど、ど、どうしてですか!?わたしも皆様のお役に立ちたいのです!

わたしなんて…とも思いますが、何かしら出来る事があると思うのです…

だから、お願いです!わたしも参加を…」


「駄目です」


取りつく島も無いではないですか…

恨めしく見つめていると、カイルが「はぁっ」と息を吐いた。


「別に、姉上の能力を疑っている分けではありません。

ですが、討伐隊ともなると、自由に動く事は出来ないでしょう?

僕の目の届かない処に行って欲しく無いんです。

心配で僕の方に支障が出ます、

姉上は僕に死んで欲しくは無いでしょう?」


「あ、当たり前です!!カイルを失ったら、わたしは生きていけません!!」


思わず力が入ってしまったわたしを、カイルは目を丸くして見た。

ああ、大袈裟だったでしょうか??でも、でも、本当の事です!!

わたしは想いを訴えるようと、

カイルのその綺麗な青緑色の目をみつめ返した。


カイルは小さく笑みを零すと、「それなら、絶対に死ねませんね…」と呟いた。



その後も、カイルに交わされつつも、わたしは一心に粘り強く説得を試みた。

そして、漸くカイルから許可を貰った。

「後方支援なら、という条件付きですよ」と。


わたしは治癒魔法が使えるので、

怪我人の手当てや体力回復…という事だ。

わたし自身、魔獣や魔族と闘うよりも、

その方が向いているかも…と、条件を飲んだ。



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