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レジーナとドリーは予選敗退していた。

わたしが決勝トーナメントに勝ち残った事は知っていたらしく、

「不戦勝じゃないの!戦って無いんだから、実力じゃないわ!」

「みっともない勝ち方しないで頂きたいわ!」等、また色々言われてしまった。



二日目、女子の決勝トーナメントと同時に、男子の予選1日目が始まる。

男子の部は参加者も多いので、ブロックも多く、日程も長い。

カイルの予選は今日なので、わたしは気が気では無かった。


わたしが試合をしている間に、カイルの予選が終わりませんように…



『セシリア・モーティマー』


名前を呼ばれ、わたしは立ち位置に立った。

昨日、経験した事で、わたしは少し冷静になれた。


相手の攻撃が何かで防御を考えよう、無駄に力を出さない方が良い。

攻撃が何か分からない時は、兎に角シールドにして…と考える。

いつも省エネなカイルの気持ちが、少しだけ分かる気がした。


場所によっては派手に力を使うと、被害が大きくなってしまうだろうし、

場合によっては魔法切れしてしまう。

わたしの脳裏には、結界の綻びの件があった。

魔獣が侵入してきたら…魔獣が凶暴化したら…

今、目の前にいるのは、一人の敵、なるべく一発必中、低コスパで…、

この場をその訓練だと思おう。



『礼!』


『開始!』


わたしは直ぐに防御を張れるよう構えつつ、相手の出方を伺う。

相手選手は両手を上に掲げた。

そこから、水球が膨らみ始める…段々大きくなっていくが…

何処まで膨らませるつもりなのか?

彼女はかなりの体力を使い、水を集めている様子だった。

大波でわたしを押し出すつもりかしら??

確かに、大量の水を一気に喰らったら、流されてしまうだろう。


それでは…


わたしは、風を彼女の上の水球目掛けて放った。

それは水球に当たり…振動でふらついた彼女は、耐えようとしていたが、

結局その場に倒れた。

そして、水球の水を被ったのだった。


「な…卑怯よ!攻撃の準備をしていた途中だったのに!」


「駄目でしたか…すみません…」


『そこまで!』

『勝者、セシリア・モーティマー!』


審判がわたしの勝ちを宣言し、わたしは「ほっ」と胸を撫で下ろした。

相手選手からは睨まれてしまいましたが…



次の対戦相手は、風を操り、それは龍のようにうねり、強風となって

襲ってきた。

わたしはその場にしゃがみ、カプセル型のシールドを張った。

前世の台風が頭に浮かんだのだ。低姿勢の方が風圧を受け難いし、

球体だと尚良い気がした。

相手選手は思ったよりも効果が見られなかった所為か、焦り出した。

風の威力は強くなったが、それを5分続けるとなるとかなりの魔力を

消耗するだろう。

途中、彼女が息切れをし、風が止んだ所を狙い、わたしは彼女の足元に

風を放った。彼女の足元を掬い取るように…

消耗状態の彼女は簡単に足を取られ、転んだのだった。


『そこまで!』

『勝者、セシリア・モーティマー!』



「勝ってしまった…」


次はとうとう、決勝戦だ___

自分でも信じられない。


ぼうっと、自分の席に戻った時だ、レジーナとドリーが現れた。


「凄いじゃないですの!」

「決勝戦頑張ってくださいませね!」


彼女は祝福をしに来てくれた…分けでは無かった。

わたしを励ましながら、耳元で言ったのだ。


『次は負けるのよ、聖女様のご命令よ』


彼女たちは笑って手を振り、観客席に戻っていった。



「勝てるなんて、思っていませんし…」


わたしはぼんやりと目の前で行われている試合を眺めた。

次の相手はどちらの方だろう?

負けるにしても、ダメージは少ない方が良い、痛いのは嫌ですし…



勝ち残ったのは、火魔法を使い、相手を降参に追い込んだ選手だった。


ああ…最悪だわ…


ファイヤーボールをまともに受ければ、ただでは済まない。

どうやって負けたらいいのか…

自然に見える様、シールドを張り、ファイヤーボールを避けようとし、

場外へ出てしまった…となるのが、ダメージも無く良い気がした。


『これより、決勝戦、制限時間は8分___』


改めてルール説明が始まり、わたしは決勝戦ではルールが一部変更と

なる事を思い出した。

制限時間は8分、攻撃を受け膝を付くのは3回までセーフ、

そして…闘技コートは二倍広くなる…


相当の攻撃を受けなければ、場外へ出る事は難しくなる。

無事に済むだろうか…恐怖を感じ、わたしの頭は真っ白になった。


『礼!』


『開始!』


号令と同時に、相手選手は得意のファイヤーボールを掲げた。

わたしはじりじりと後に下がる。


ファイヤーボールが放たれ、わたしはシールドを張った。

ファイヤーボールは凄い勢いでうねりを上げ、襲いかかって来た。

このまま爆風に乗れば、シールド事場外へ出ても自然に見える筈___


狙った通りに、わたしは場外へ押し出された。

シールドは壊されていないので、そのまま地面に落ちてもわたしにダメージは

無かったが、力負けした様に見せる為、ダメージを受けたフリをする事にし、

わたしは地面にうつ伏せ、そこでシールドを消した。


『そこまで!』


終わった…


審判の声にわたしは安堵していた。

だが、「キャー!!」という悲鳴が聞こえ、わたしは顔を上げた。

そこには、ファイヤーボールが迫って来ていた。

その凄まじい熱量に恐怖を感じ、わたしは咄嗟に氷のカプセルを作った__


ジュ…


ファイヤーボールは氷に溶けたらしい。

わたしは一気に気が抜け、地面に突っ伏した。



ゆらゆらと波に揺れる感覚で、わたしは目を覚ました。


「姉さん、大丈夫ですか?」


カイルの声が聞こえる。


「はい…」


「まだ、何処か悪ければ言って下さい」


「わたし…どうしたのですか?」


「少し熱に当たって軽い火傷を、後は疲労でしょう、ゆっくり休んで下さい」


「はい…」


わたしは「ふふ」と笑い、目を閉じた。

カイルの声は安心出来る。

わたしにとって、一番のヒーリングだ…



再び目を覚ました時、カイルでは無く、側に居たのはエリザベスで、

夢を見たのかと思った。

だが、カイルは医務室にわたしを運ぶと、予選があるので会場に戻ったと

いう事だった。

エリザベスが事の詳細を教えてくれた。


決着は付いていたが、頭に血が上っていた相手選手はそれに気付かず、

ファイヤーボールを放った。

わたしは恐怖で思っていた以上に厚い氷のカプセルを作ってしまったらしい。

ファイヤーボールを消す事は出来たが、相当の魔力を使い意識を失った。

この一連の流れを見ていたカイルが、監督官よりも早くに駆け付け、

わたしの作った氷を払い、助け出してくれ…

わたしの怪我を治してくれた…?


「治癒魔法?」


「ああ、カイルが使っているのを初めて見た…」


わたしも知らなかった。

カイルが治癒魔法を使える事…

治癒魔法はいつもわたしが使っていて…

カイルは薔薇の棘を刺した等の小さな傷でも、

「治して下さい」と見せて来ていた。


どうしてなのでしょう?


「決勝戦は残念だったな、でも、最後の氷魔法は凄かったと皆言っている」


エリザベスが慰めてくれた。

だけど、わたしはパトリシアの指示に従って…全力で戦ったとは言えない。

後ろめたさに身動ぎした。


「あ、いえ…いいんです…

あ!そういえば、カイルの予選を見に行かなくては!!」


パッとベッドから体を起こしたわたしを、エリザベスは止めた。


「カイルはヒーリングを掛け無かった、

それはセシリーにゆっくり休めという事だろう?」


「ヒーリングは自分で掛けられます!カイルの予選は見逃せません!

べス!参りましょう!」


わたしが強く言うと、エリザベスは嘆息したが、付き合ってくれた。



カイルは難無く勝ち上がっていた。

駆け付けたわたしとエリザベスをみつけると、笑みを見せ頷いてくれた。





魔術闘技大会最終日。

カイル、ユーリーは共に、決勝トーナメントに勝ち残っていた。


カイルは攻防共、主に氷魔法を使っていた。

鋭い氷の槍先の様なもので攻撃するのだが、しっかり寸止めしていて、

相手は負けを認めていた。

派手さは無いが、容赦の無い素早く鋭い攻撃は、暗殺者を思わせ、

周囲に脅威を与えていた。


闘いを見て、そういう方法もあるのですね…と勉強になった。


ユーリーの方は金の魔法で、それを鞭の様に自在に操り、

それは攻撃と防御を兼ねる。

鞭で翻弄し、ファイヤーボールで止めを刺す___

ユーリーらしく派手で華麗な闘い方だった。


怪我人も出てはいたが、ほとんどの選手が止めは寸止めにしていた。


決勝に勝ち残ったのは、カイルとユーリーだった。

結局、制限時間内に決着は付かず、

判定の結果、ユーリーの優勝が決まった。


ユーリーは優勝したというのに、「もっと悔しがれ!」とカイルに絡んでいた。


「僕が優勝したとしても、あまり意味はありませんからね」と、

カイルはわたしにだけ零した。


カイルは自分が優勝する事に、利点を見出せないらしい。

一方、ユーリーには、優勝する事に大きな意味がある。

王子として箔が付くし、尊敬を集めるだろう。

王子とは皆から尊敬されなければならない存在なのだ。



「カイルは優しいです」


「いえ、ズルイだけです」


「わたしは好きです!」


わたしが言うと、カイルは少し驚いた顔をし、それから苦笑した。



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