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(6)



久しぶりに『散歩道』に行くと、ラナが喜んでくれた。


「も~、やっと来てくれましたね!待っていたんですよ~」

「あ、あの、すみません、ご無沙汰しておりました…」

「謝らないで下さいよぉ、お姉さんが来てくれてうれしいんですから!」


ラナはハンバーガーのアレンジや売上状況を嬉々として喋っていたが、

一緒に来ていたエリザベスに気付いた瞬間、声を失った。

エリザベスは『平民に変装する』というのを、どう考えたのか、シャツにベスト、

ズボンといった、カイルたちと同じ様な服装だったので、

ラナは男性だと思った様だ。


「うわ~!これはまた、格好良いお友達ですねぇ!」

頬を赤らめ、目を輝かせるラナに、

「馬鹿者、エリザベスは女性だぞ」と、答えたのはユーリーだった。


「ええ!?そうなんですかぁ!?ますます格好良いですよ~♪

その辺の男より余程」

「おい、ラナ、今僕を見無かったか?」

「男はこの位鍛えている方が格好良いですからね~♪」

「だから、エリザベスは女性だと言っただろう!」


ユーリーとラナはすっかり仲良くなっている様だ。

まるで漫才のような二人のやり取りを、わたしは微笑ましく眺めたのだった。



「皆さんは魔法学園の生徒さんなんでしょう?」


平民では無い事は最初からバレているし、年齢もあってそう考えたのだろう、

ラナが言った。


「ええ、ですが、この場だけの秘密にして下さい」


カイルは肯定はしたものの、しっかり口止めしていた。


「言いませんよ、ただ、皆さんを見てたら、学校楽しそうだなーって

思ったんです」


ラナは羨ましいのか、拗ねたように口を尖らせた。


「楽しい事ばかりでは無いぞ、勉強しに行っているのだからな。

将来国の役に立つ人物にならねばならん、その責任がある___」


「うわ、小煩いですね!でも、皆さんご立派なんですね、失礼致しました!」

「分かれば良いのだ」

「あなたには言ってませんよーだ☆」


誰か、ユーリー様を王子だと、ラナに教えてあげた方が良いのでは??


「どうしたら魔法学園に入れるんですか?」


ラナがユーリーに背を向け、わたしたちに聞いてきた。

本当は一番詳しいのはユーリーだと思うのだけど…


説明が上手とは言えないエリザベスとわたしは、カイルに目を向けた。

サイラスに頼まないのは、サイラスが生徒目線で説明出来ると思って

いないからだ。学園生にして王子の警護、王宮にお勤めの方ですからね…


カイルはすんなり引き受け、説明してくれた。


「一般的に入学時の年齢は14、15歳ですが、希望があれば

理由にもよりますが、考慮されます。

平民ですと、基準値以上の『魔力量』が入学条件となります。

教会等で魔力量を測定し、推薦状を貰い、学園に提出した後、

入学が許可されれば、翌年度入学する事が出来ます。

平民の方には学費、生活費等が国から援助されますが、

卒業後三年間は国の為に働く事が義務付けられています。

能力にもよりますが、希望されれば、その後は正式な契約の元で

働く事が出来ます___」


ユーリーが満足そうに頷いている。


「ラナは魔力量を測った事はありますか?」

「10歳の時に一度、普通だと言われました」

「それなら、もう一度測ってみてもいいだろう、

年齢と共に魔力量は変る事もある」

「ん~~、でも、魔力が無かったらガッカリなので、止めておきます!」

「ふん、臆病者め」


ユーリーに言われ、ラナは赤い顔をし目を吊り上げたが、顔を背けた。


「あなたの様な方に、繊細な人間の気持ちは分かりませんよーだ!」


ユーリーは「ガーン」という表情をし固まった。

「おまえも落ち込む事があるのだな」と、エリザベスが余計な事を言っても、

ユーリーは固まったままだった。


「それはそうと、最近のこの辺の治安はいかがですか?」


カイルがラナに声を掛ける。

話を反らそうとしたのかと思ったが、どうやら本題はこちらだった様だ。


「王都の外れで魔獣が出たという話は聞いていますか?」


「はい、お客さん皆言ってますから、王都も安全じゃないって、

ここにも出るんですか?」


「この辺は外部との境に近いですからね、外から入ってくる可能性も

ありますし…」


「でも、魔獣が出てもこの辺は大丈夫ですよ!魔術師が何人か

住んでますからね!ご安心下さい」


「そうですか、何かあった時には教えて下さい」


ユーリーたちは密かに魔獣の動向を調査していたんだ…と、

わたしはこの時漸く気付いた。


「はい!教えてあげますから、皆さんまた来て下さいね☆」


しっかり者の看板娘に、わたしたちは一様に感心したのだった。



◇◇



魔術による闘技大会が、5日間に渡り行われる。

攻撃魔法と防御魔法を使った1対1の攻防戦。

女子と男子で別れていて、自由参加である。


勿論、わたしは参加するつもりは無く、

カイルとユーリーの応援に行くのを楽しみにしていた。


それが、どういう理由なのか、知らぬ間にエントリーされていた様だ。

それを知ったのは、大会当日___


「当然ですわ、セシリア様、私達Aクラスの女子は参加必須ですのよ!」


レジーナとドリーに腕を組まれ、闘技場となるグランドに連れて行かれながら、

それを教えられた。

Aクラス女子は参加必須と言うが、エリザベスとパトリシアは参加していない。


「パトリシア様は聖女様ですもの!

こんな野蛮な催しなど出場される分け無いでしょう?」


「エリザベス様は、ほら、剣術の方で総合優勝されておりますから、

ご遠慮願いたいわ」


納得してしまう説明だった。

元々、魔法学園の女子は男子の半数程度だ、

参加人数もそう多く無いので、教師たちは参加人数確保に積極的だった。

結果次第では成績に加点される…という餌付きである。

そして、誰でも簡単にエントリー出来るシステムになっていた。


「でも、わたし、攻撃魔法は習っていなくて…」


出来る事は少ない。


「大丈夫ですわ、私達、『令嬢』ですもの」


レジーナとドリーの言う根拠は、わたしには謎だったが、

エントリーしている手前、それを断るなど…出場する方が簡単に思えた。

幸い、使うのは魔法のみで、剣や肉体、物体の攻撃は出来ない事に

なっている。


でも、これは良いチャンスかも…


実は、昨年、魔獣が出現した際に、カイルとサイラスを手伝えなかった事が

なんとも自分的にもどかしく…攻撃魔法を覚えたいと思っていたのだ。

それでも、あまり過激なのはまだ怖くて、自分で少しづつ練習していた。

それを試す良い機会かもしれない。

幸い、防御魔法の方は授業で習っているので、何とか形にはなるのでは…

と思えた。


女子の参加者は、全学年合わせ80人程度だった。

8ブロックに別れての勝ち抜き戦で、二日目に残った8人でトーナメント戦が

行われる。


勝ち抜き戦なので、一度負けると終わりだ。

その事もあり、少し気が楽だった。


せめて1勝出来たら良いのですが…


わたしは振り分けられたブロックで、試合を眺めながらそっと願った。



『次!セシリア・モーティマー』


名前を呼ばれ、わたしは「はい」と長椅子から立ち上がった。

ああ、とうとう自分の番が来てしまった…


制限時間5分、直径10M程の円形に線が引かれ、

そこから出たら失格となる。

身を交わして攻撃を避けるのはOK、攻撃を受け膝を付くと失格。

時間切れの場合は判定だ。

危険だと判断された場合は、監督官である教師が魔力を無力化し

止めてくれるらしい。


わたしは線の内側に入り、先程三人抜きをした選手に向かった。

彼女はキリっと怖い程に真剣な顔でわたしを見た。

ああ…既に、気迫負けしている気がします…


『礼!』


号令が掛かり、わたしは慌てて頭を下げた。


『開始!』


開始と同時に、彼女が腕を振り上げ、赤い火の球を作り出した。

これは、ファイヤーボール…ですね。

思わず感心してしまい、わたしは防御が遅れ、

飛んできたファイヤーボールに向け、慌ててシールドを張った。


バシュー!!


凄い威力だ。

防いではいるが、圧に押され、耐えるのに必死だった。

彼女はここぞとばかりに、続けて二球目を打ち込んできた。

体力的に自信が無いので、わたしはもっと堅固な氷の壁を張った。


シュ!!


幸い、これは効いたようだ。


シュ!シュ!シュー!


彼女が立て続けに打ってくるファイヤーボールは全て氷の壁に消えた。


「ちょっと!ズルイわよ!ちゃんと対戦しなさいよ!!」


「え…駄目なんですか?」


わたしはおずおずと氷の壁から覗き見る。

監視官の方を見てみると、『セシリア・モーティマー、攻撃して下さい』と

言われた。わたしは氷の壁を消し、彼女に向かって手を伸ばす。

彼女は身構えたが、防御を張る様子は無く、手にはまたファイヤーボールが

浮かんでいた。わたしはまず、そのファイヤーボールを狙い、吹雪を出した。

ファイヤーボールを消し、彼女に向かって…


『攻撃止め!』


声が掛かり、わたしは今まさに攻撃しようとしていたそれを手に握り込み、

消した。


『勝者、セシリア・モーティマー!』


わたしはどうやら勝ち残ったらしい。

でも、ファイヤーボールを吹雪で消しただけなのに…

不思議に思い、対戦者の彼女の方を見ると、彼女の体半分が、

真っ白になっていた。


「きゃーーー!!すみません!すみません!!今溶かしますので!!」


わたしは慌てて彼女の体半分を、魔法の熱で温めたのだった。


彼女の体が無事に溶け、凍傷も治癒で治し…

次の試合を…と、立ち位置に戻ったが、中々次の対戦者が現れない。

結局、残りの方々は棄権してしまったと、数分後に知る事になった。


ああ…やっぱり、手元が狂ったのが良く無かったですよね…。


結局、わたしは1勝しただけで、

翌日の決勝トーナメントに進む事になってしまった。



「姉上、驚きましたよ、大会に参加されるなら言っておいて欲しかったです。

危うく姉上の雄姿を見逃す所でした」


闘技場の隅で見学しようと、移動していた処に、カイルがにこやかな笑みを

浮かべやって来た。


ああ…この感じ、怒ってますね?

事前に出場する事を相談をしていなかったので、怒ったのだろう。


「カイル、仕方ないのです。

わたしも自分が出場する事を、寸前まで知らなかったのですよ?」


わたしはレジーナとドリーに嵌められ…勝手に登録させられていた事を

カイルに話した。


「それは…パトリシアの差し金、という事はありませんか?」


カイルがやや訝しんだのに対し、わたしは「どうでしょうか…」と頭を傾げた。

彼女がわたしをこの大会に出場させる目的が思い浮かばず、

その時は『レジーナとドリーの考え』という事で片付けたのだった。



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