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「わたしは知っているのです、彼女が『聖女』だと…

彼女を疑わないで下さい、彼女に逆らわないで下さい!

お願いです…お願いします…彼女だけなのです…

この世界を救えるのは!」


わたしは感情が昂ぶり、必死に頭を下げていた。

ややあって、カイルがわたしの肩に手を添え聞いた。


「それは…どういう事ですか?姉上が何故、その様な事を…」

「神託…ですか?」

「神憑きか?ならば、セシリーも王宮に連れて行かれるのでは無いか?」


わたしは頭を振った。


「違います!そんな大それた事では無く…

その…神託らしき事で、聖女に関する事だけですが、わたしの内に

あって…彼女とこの学園で会った時に、彼女が『聖女』だと分かりました。

それでも、本当にそうだという自信は無かったのですが…

今日、彼女が『聖女』だと認められて…

このまま、本当になるんじゃないかと思ったら…!」


「姉さん、落ち着いて下さい、大丈夫ですから…」


カイルが落ち着けようと、わたしの背中を擦る。

サイラスはぐっと、わたしの方へ体を寄せた。


「『本当になる』とは、どの様な事ですか?」


その目は鋭く真剣だった。


「この国の結界に綻びが出始め、魔獣や魔物に襲われる…

聖女は結界を張り、浄化する…

その為に、彼女は力を得なくてはいけないんです…」


「力を得る?今の彼女の力では不足だと?」



【聖女の純真な愛が浄化する】


それがどんなものなのか、わたしにも良くは分かっていない。

物語のパトリシアは、ユーリーとしっかりとした愛で結ばれていて、

溢れる愛の力で世界を浄化した。

今のパトリシアとユーリーがそんな関係になるとは、とても考えられない。

だけど、パトリシアは『それ』を手に入れなければ、浄化出来ないのでは…



「分かりません…もしかしたら、という話なので…わたしも自信が無くて…」

「その事を、パトリシア嬢はご存じなのですか?」

「分かりません…」


彼女が物語を知っているのは確かだし、ユーリーの愛を手に入れようと必死

だった事を思うと、知っていてもおかしくは無い。

だけど、彼女はユーリーを愛していないし、愛そうとしている風にも見えない。

彼女はただ、自分を愛して欲しいのではないか…

ユーリーの愛を手に入れさえすれば、

目的が達成されると思っていないだろうか?

それでは物語とは違う…


「彼女は…」


わたしの事が嫌いなので…とは言えない。わたしは言葉を選んだ。


「これは不確かな事です、話を聞いては貰えないでしょう」


「参考なまでに、『力を得る方法』を教えて頂けないでしょうか?」


え…


サイラスにじっと見つめられ、改めて聞かれると…


「そ、そ、それは、本当に不確かでして!決して聞いて良いものでは…」


「構いません、あくまで参考として、ですので、

あなたの思う事を話して下さい」


「いえ…でも…きっと…お笑いになりますよ?」


「益々興味があります」


サイラスは諦めてくれそうになく…


わたしは意を決して、それを口にした。



「『聖女の純真な愛が浄化する』、というものです…」



わたしが想像していた通り、カイルもサイラスもエリザベスも、

ぽかんとしていた。


「それはまた…不確かですね」

「神託だと、他に意味が含まれているのではないですか?」


ああ、分かっていましたが…現実主義者ですよね、お二人共。


「あの女と『純真』というのは、真逆ではないか?」


ああ、何気に辛辣ですよ、ベス。


「今のは気になさらないで下さい…今の彼女の力で大丈夫なのでしたら、

それで良いのですし…余計な事を申しました」


頭が冷めると急に恥ずかしくなってきた。

しかし、三人の話はまだ続いていた。


「彼女がユーリーの周りをうろついていたのは、その事で、でしょうか?」

「十分に考えられます」

「しかし、ユーリーにその気は無いのであろう?迷惑していたぞ?」

「片方だけでも、『愛』は『愛』なのでは?」

「成程、それもそうですね…」


結局の処、『愛』とか『恋』とか…ロマンスには無縁に思われる三人は、

難しい宿題に真剣に取り組む学生の様でした。





わたしの『神託』の件は、ユーリー以外には秘密にして貰う事にした。

『神託』などと言い出すと、大事になる。

すんなり信じる者もいれば、疑う者もいるだろう。

疑われ、隣国のスパイだと思われでもしたら、そのまま断罪される。

『神託』が当たらなかった場合も、行く着く先は断罪だ。


そんな事もあり、わたしが今まで黙っていた事は、

皆には「懸命」と捉えて貰えた。


今までのわたしとパトリシアの間にあったものにも、彼らなりに納得出来た

様だった。やはり、彼らは、わたしの周囲で起きている事を探っていて…

パトリシアに辿り着いていた。


「彼女に逆らえないのではなく、『聖女』に逆らえなかったのですね」

「今までの事も、聖女の力に目覚めさせようとしていたのですか?」

「よく分からないのだが、操られているのは分かっていたぞ」

「それにしても、何がしたかったのかは謎です…」


ユーリーとパトリシアの橋渡し…とは、とても言えません。


「わたしが話したという事は、パトリシアに気付かせないで下さい…

彼女を刺激して、『この国を守らない』と言い出されたら困りますので…」


「これまでも、そういう事があったのですね」


カイルに言い当てられ、わたしは何も言えず俯いた。


「___分かりました、出来るだけ協力します」

「そうですね、国を守って頂かなくてはなりませんので」

「私も協力するぞ」

「それなら、エリザベス様は思った事を口にする前に、一度百程数える事を

お勧めします」

「サイラス…貴様、私の剣の餌食になりたいか?」


エリザベスの威圧は、サイラスには効かない様で、サイラスはすんなりと

スルーした。


「べスとサイラス様は、仲がよろしいのですか?」


わたしが聞くと、エリザベスは珍しく顔を赤くし、激高した。


「わ、私とこいつが、仲が良い筈があるまい!!

サイラスには物申さねばならぬ事がある位だ」


「はぁ、まだ根に持たれているのですか?」


「こいつはな!剣の闘いで、足を使ったのだ!!

忘れられるか、この卑怯者!!」


ユーリーがエリザベスに池に落とされた茶会の翌年の茶会で、

サイラスが敵討ちとエリザベスに挑み、隙をつき、足払いを掛けて

エリザベスを池に落とした…という話だった。


「足払い禁止とは言っておられませんでしたよ?」

「常識だ!馬鹿者!!」

「そもそも、現実の実践において、足払いをして来ないなど、

そんな親切な敵がいましょうか?」

「ぐぬぬ…屁理屈ばかり言いおって…」

「あなたが魔術師団志望だというので、親切に教えてあげているのです。

相手に騎士団精神を求めるのは浅はかかと、相手は魔獣くらいに

思っていた方がいいですよ」


ああ…言い負かしちゃいましたよ。


「サイラス様は、べスの事を気に入っておられるのですね」

「はいぃ?」

「やはり、ユーリー様と似ていらっしゃるからでしょうか?とても気に掛けて

おいでなのですね」

「いいえ、まったく、セシリア様の気の所為です」

「そ、そうだぞ、こいつは私を言い負かすのが趣味なだけの偏屈じじいだ!」


中々良いコンビに見えますが…


「それは失礼致しました…わたしも喋る前に百数えます」


わたしは大人しく引き下がったのだった。



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