(2)
式の後は、クラス分けの為の試験が行われた。
基礎学力、魔力量、面接とあり、
総合順位が出され、その順位順でクラスが決まる。
物語では、第二王子、ヒロイン、カイル、セシリア、
共にAクラスだった。
カイルは絶対にAクラスだろうから、わたしもAクラスが良い。
でも、ヒロインもAクラスだとしたら…
一緒ではない方がいいだろうか?
彼女に会うのは怖い、だけど、知らない子たちの中で、
カイルと離れてやっていける自信も無かった。
でも…わたしなんかが、Aクラスになれるのでしょうか?
Aクラスといえば、学年上位という事だ。
物語のセシリアは、自信に満ち溢れた優秀な令嬢だったが、
自分はというと、引き籠り令嬢だ。
ここに自分が居る事事態、場違いに思えてきた。
ああ、どうしよう…!!
急に沸き上がった不安と焦りで、神経が張り詰めていく。
意識がグルグルと渦を巻き始めた時だ、
誰かに肩を支えられ、我に返った。
「っ!!」
「姉さん、大丈夫ですか?」
大丈夫じゃありません…駄目です…帰りたいです!
縋るように見てしまったわたしを、カイルは何と思ったのか…
カイルは「失礼します」と断りを入れると、さっと、わたしを抱え上げた。
「ひゃぁっ!??」
突然のお姫様抱っこに、当然だけど、わたしはパニックだ。
「保健室に行きましょう」
「か、カイル!降ろして下さい!!大丈夫ですから!!」
お姫様抱っこだなんて!お姫様抱っこだなんて!
恥ずかし過ぎますーーー!!
わたしがジタバタ暴れると、カイルはすんなりと降ろしてくれた。
「元気出ましたか?」
緑色の目を丸くし、わたしを覗き見てくるカイルが、悪戯っ子に見える。
うう…意地悪です…
「それじゃ、頑張りましょうね、姉上」
「は、はい…」
「余計な事は考えず、いつも通りで大丈夫ですよ」
「は、はい…」
余計な事は考えずに…
自分に言い聞かせる様に、胸の中で繰り返した。
学力テストの教室は4カ所に別れていた。
テストが終了し、一人づつ名前を呼ばれ、教室を出て行く。
指定された部屋に入ると、長机の真ん中に水晶球が置かれ、
教師が一人席に着いていた。
側には、二人の教師がボードの様なものを手に、立っている。
「セシリア・モーティマー、どうぞお掛けなさい、水晶に手を翳して」
「は、はい…」
わたしは言われるまま、長机の前の椅子に座り、
手を水晶球の方へ伸ばした。
水晶の中心が揺れたかと思うと、突如パアア!と強い光を放った。
「きゃ…!」
わたしは驚き、溢れる光に目を閉じた。
「もういいですよ、手をお放しなさい」
「は、はい!」
わたしは慌てて手を引っ込めた。
まるで何事も無かったかの様に、光は消えた。
「今まで魔法を使った事はありますか?」
「はい、あの、独学ですが…」
「どの様な魔法を?」
「水を出したり、氷を出したり、温風を出したり、温めたり…」
「今、温風を出せますか?」
「は、はい…」
部屋の中だから、緩い方がいいだろう、暖房30度、風力中…
わたしは指を振った。
温かい風が緩やかに流れる。
「もう少し、温かくは出来ますか?」
「はい…」
わたしは言われるまま、調整した。
「セシリア、結構ですよ。
クラス分けの結果は明日の朝、掲示板に貼り出されます。
今日はこのまま帰って結構です、お疲れ様でした」
「は、はい、失礼致します」
思ったよりもあっけなく終わり、安堵するも、
あまりの手応えの無さに、結果が不安になった。
先生方は何もおっしゃっていませんでしたが…
やっぱりわたし、場違いでしたよね…
田舎者ですし、引き籠りですし…
「心が折れてしまいました…」つい、零してしまったわたしに、
カイルは笑って「大丈夫ですよ」と言った。
今日一日、最初から最後まで、カイルに不安の色は見えなかった。
この、年齢よりも遙かに大人びている義弟は、
「緊張」というものを知らないのではないでしょうか?
あやかりたいものです…
◇
翌朝、魔法学園の掲示板には、生徒たちが群がっていた。
クラス分けを兼ねた順位発表を見る為に___
わたしは待っていてくれたカイルと一緒に、掲示板に向かった。
ああ、ドキドキします…
こんな思いをするのは、前世の合格発表の時以来で…
「わ、わたしの名前、あるでしょうか?
入学を取り消されていたりはしないでしょうか?」
「相変わらず面白い方ですね、姉さんは___ほら、向こうですよ」
カイルがわたしを促し向かったのは、左端…Aクラスの表だった。
ひえぇぇぇ…
まずは、下位のクラスから見て行きたいのですがぁぁぁ…
「カイル、カイル!ここは場違いでございます!直ぐに去らなくては…」
「何言ってるんですか?ほら、姉さんは5番ですよ」
「ふええ??」
カイルの指を辿り、見ると、そこには自分の名前が書かれてあった。
5番、セシリア・モーティマー
「あ!ありました!わたしの名前です!」
「姉上、おめでとうございます、僕のも見て下さい」
そうだった、わたしは目を擦り、表を見た。
上から二番目にその名前はあった___
「カイル!ありました!!2番ですよ!?ええ!?2番!??
凄いです!!」
カイルははしゃぐわたしを、ニコニコと見ていた。
「ほっ」とし落ち着くと、周囲がわたしたちを引いて見ている事に気がついた。
「ああ!わたし、大騒ぎをしてしまいましたよね?
ど、ど、どうしたら良いのでしょうか…」
「姉さんのは大騒ぎという程ではありませんよ、かわいいものです」
それは身内の欲目というものではないでしょうか??
ああ…なんだか、視線が冷たく感じます。
その時、ざっと、モーセの海割りの如く、
生徒たちが二手に別れ、道が開けた。
そこに、颯爽と歩いて来たのは、第二王子のユーリーだった。
キラキラオーラを放ち、周囲を凌駕、圧倒している___
その神々しい姿に、
わたしは息をするのも忘れ、魅入ってしまっていた。
王子、降臨です…!!
ユーリーは足を止め、表を見上げた。
ユーリーの名は1番上に書かれていた。
それを見てもユーリーは表情一つ変えず、踵を返すと去って行った。
女子生徒たちは皆、崇める様にユーリーの後姿を眺めていた。
「流石王子…1番が似合いますわね」
「ユーリー様は魔法も剣術も、兄弟の中でも飛び抜けて優秀だって
言われてますものね」
「私たちとは格が違いますわ…」
「当たり前よ、王族だもの!」
「ああ、なんて素敵なの、ユーリー様!」
「ああ、私もAクラスになりたかった!」
「ユーリー様と一緒に授業を受けられるんですものね!」
凄い人気だ。
ユーリーは美形だし、スマートだし、キラキラだし、カリスマだし…
これで首席とくれば、完全に理想の王子様だ。
流石、物語のヒーローです…!
あまりに凄過ぎて、お近付きにはなりたくないですけど…
やはり、ヒーローにはこうあって欲しいといいますか…
「姉上、見惚れてないで、教室に行きますよ」
カイルに腕を引かれ、わたしは現実に戻された。
「み、見惚れてません!」
「授業中に見惚れないで下さいね、恥ずかしいので」
本当に恥ずかしいのか、カイルの声はどこか冷たい。
カイルに恥ずかしい思いをさせてはいけない、
気を付けなくては…
「ああ!カイル、待って下さい、他の方のお名前も見たいので!」
わたしは足を止め、Aクラスの表に、目を通した。
ヒロイン、パトリシア・クラークの名前を探したが…
「ヒロインの名前が、無い…?」
物語ではAクラスの女子生徒は5人だったが、表には4人の名前しかない。
Aクラスの女性は、わたしと、エリザベス・マーゴット、
レジーナ・エイジャー、ドリー・ハーパー。
この内、物語でセシリアと共謀していたのは、
レジーナ・エイジャー侯爵令嬢と、ドリー・ハーパー侯爵令嬢だ。
セシリアと共謀していた令嬢の名前はあるのに、ヒロインが居ない。
どういう事なのでしょう?
その時だ、高い声が響いた。
「なんで、私の名前が無いの!?」
茫然と表を見上げていたわたしは、その声に「はっ」とし、目を移した。
前方に、豊かな赤毛の髪の女子生徒が居た。
「『悪役令嬢』の名前はあるのに…おかしいじゃない!」
その言葉にギクリとした。
彼女は物語を知っているんだわ…
きっと、自分が『ヒロイン』だという事も知っている。
彼女は、わたしと同じ…転生者___?
「ヒロインのわたしが、Bクラスですって?こんなの、絶対許さない!」
彼女は憎々しく吐き捨てると、周囲の生徒たちを押し退け、
その場から去って行った。
わたしは茫然とそれを見ていた。
 




