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魔法学園 一年生(1)



今年、15歳を迎える。


この世界は、わたしが知る『オーリアナの聖女』の物語とは、

少し違ってきていた。


わたしはカイルと仲良くなったが、

わたしたちは使用人を虐待したりはしなかった。

寧ろ、現在、使用人たちとの関係は良好だ。

カイルは毒薬よりも解毒剤に興味を持ったし、勉強や魔法の他、

剣術で体も鍛えている。

何より彼は、優しく親切で思いやりのある子だった。


傲慢で我儘でサディストの子供たちは、何処にもいない___


わたしは運命から逃れられると思っていた。

だが、そんなに簡単なものでは無かった。

何処までも絡み付いてくる、逃れられないものだと。


彼女の存在がそう告げた___



◇◇



魔法学園の入学に合わせ、わたしとカイルは王都の屋敷に向かった。

わたしは屋敷から通うが、カイルは学園寮から通う事になった。

カイル曰く「勉強に集中したいから」という事だった。

少し寂しいが仕方ない、それに週末は屋敷で過ごすと言ってくれている。


三日間の馬車移動の後、屋敷に着いた。

わたしとわたしの分の荷物を降ろし、

カイルはそのまま学園寮へ向かうのだが、

カイルは荷物運びを手伝った後、わたしを誘ってくれた。


「姉さん、王都見物に行ってみますか?良ければ、明日迎えに来ます」


今までは両親の手前、許可無く屋敷から出る事は出来なかった。

それに、小心者のわたしには、「知らない場所を一人で出掛ける」事には

抵抗があり、とても考えられなかった。

ここでは両親は居ないし、それにカイルが一緒に行ってくれる…

考える必要は無かった。


「はい!是非!」


わたしは屋敷の門を出て行く馬車を、手を振り見送った。





カイルは昼前に迎えに来てくれ、わたしたちは馬車で王都見物に向かった。

カイルは何度も来ていて、かなり詳しい様子だった。


店が並ぶ大通りで馬車を降り、

前世の喫茶店を思わせる店構えの店で、食事をする事にした。


前世では一人暮らしをしていたし、それなりに買い物や散歩にも

行っていたが、セシリア・モーティマーとしては、

「ほぼ初体験」だというのを、わたしはすっかり忘れていた。


「素敵なお店ですね!」


貴族のパーティや茶会とは違い、馴染みのある雰囲気がうれしく、

すっかり気が緩んでいた。

カイルがメニュー表を取ったのを見て、わたしも側のメニュー表を手にした。


「メニューも沢山ありますね!どれにしようか迷います!」


メニュー表に並ぶ料理名も何処か庶民的な雰囲気があり、

わたしは興味を引かれそれを読んだ。


「あ、ランチセットもあるんですね!…ふむふむ」


ランチセットなど見たのは前世ぶりだ。

ランチセットには、パンとスープが付いている。

サラダも欲しい所ですが…

ああ!パスタがある!トマトのパスタ!!久しぶりです~


「うわぁ、懐かしいです!」


言った処で、わたしをじっと見つめるカイルに気付いた。

あ、あれ??


「姉さんはこういう場所は初めてだと思っていましたが…」

「あ、はい、まぁ、その…なんと申しますか…」

「来た事あったんですね」


カイルが二コリと笑う。

何故だろう、わたしの背中に冷たいものが流れた気がした。


「突然、賑やかな王都に来る事になって、さぞ不安だろうと

心配していましたが、この様子でしたら、大丈夫そうですね、

義弟は安心しました」


『安心』ですか?

なにやら含みを感じますが…


「あの、それは、想像というか、妄想と申しますか…

街の様子は本などで見ては、色々想像を巡らせていました…

実際に来るのは初めてです…それに、独りであれば、勿論不安です」


カイルは息を吐いた。


「そうですか、邪推をしてしまい、すみませんでした」

「いえいえ、どういたしまして…」


ああ、罪悪感が…

でも、『前世の記憶があります』なんて言ったら、正気を疑われます!


「選びましょうか、姉さんはどれにしますか?」

「それでは、トマトのパスタとサラダを」

「飲み物は何を?」


水…は、サービスでは無いのですね?


「それでは水を」


カイルがさっと店員を呼び、注文をしてくれた。

これは助かります!店員を呼び止めて注文をするなんて、

わたしにはかなりレベルの高い試練だ。

義弟が強心臓で良かったです!


トマトのパスタは、やはり前世の世界のものとは少し違っていた。

これはこれで美味しいのだが、

似ている分、前世の味が懐かしく思えてくる。


ああ、ナポリタンが恋しくなってしまいました。



店を出て、そのまま二人で通りの店を見て歩いた。

衣料、食糧、雑貨、本屋、生活用品等々、

お店が揃っているので、この通りだけで買い物は済みそうだ。


「この辺はまだ治安が良い方ですが、

姉さんは一人では来ないで下さいね?」


カイルが子供に言い聞かせるかのように言う。


「駄目ですか?」

「駄目です、買い物は使用人に頼んで下さい」

「はい」

「絶対に路地には入らないように、危険ですから」

「はい」


これは、『王都見物』とは名ばかりの、『わたしの社会見学』でしょうか??

この会話が周囲に聞こえていたら、見た人はわたしの方が年下だと

思われるだろう。しっかり者の義弟に頭が上がりません。


馬車に乗り、城近くまで行った。

その美しく荘厳なお城に、わたしは圧倒された。


「うわぁ…素敵なお城ですね…シンデレラ城みたいです…」

「何ですか?シンデ…レ?」

「あ、いえ!お気になさらず!そ、想像上のお城ですので!」

「姉上は本当に、時々……感心します」


カイル、今、言葉を選びましたよね??



噴水広場で馬車を降り、

カイルがクレープの様なスイーツを買ってくれた。

果物が瑞々しく、甘くて美味しい。


「とっても美味しいです!」わたしが言うと、

カイルも食べたくなったのか、「一口いいですか?」と顔を寄せてきた。


わたしはこういった事をした事が無く、一瞬戸惑ったが、

相手は『義弟』なのだから…変では無いですよね??


わたしは「どうぞ!」と、笑顔でそれをカイルに向けた。

カイルはわたしの手ごと掴むと、迷い無くそれにかぶり付いた。

やはり普通の事なのだろう。

でも、ちょっと、手を掴まれた時にはドキリとしましたよ!

わたしの手とは全然違っていて…


「本当ですね、美味しいです」


カイルが二コリと笑う。

その緑の目は陽を受け、いつも以上に明るく見えた。


わたしは気恥ずかしさもあり、周囲に目を向けた。

緑が眩しく、水しぶきも綺麗で、街の人たちも楽しそうだ。

これ程、この世界を身近に感じたのは、今日が初めてだった。


「カイル、連れて来て下さって、ありがとうございました!」


「また、一緒に来ましょう」



◇◇



魔法学園の入学式の日、学園に着くとカイルが待っていてくれた。

カイルのお陰で、わたしは難無く手続きを終える事が出来き、

一緒に講堂に入った。席は自由で、わたしたちは並んで座った。


式が始まるのを待ちながら、わたしは小声でカイルにお礼を言った。


「カイル、ありがとうございます、助かりました」


一人ではさぞあたふたしただろうと、簡単に想像出来た。

分からない事があっても、係員に聞いたりは、絶対に無理だし…

カイルは「ふっ」と笑う。


「お構い無く、姉上の面倒を見るのには慣れていますからね」


冗談の様に言ってニヤリと笑う。

わたしは顔を伏せ、緩んでしまう口元を抑えた。



入学式が始まる。

新入生の代表は、第二王子、ユーリー・オーリアナ。


物語と一緒だわ…


金色の髪にスラリとした体躯、

代表の言葉を述べる、堂々としカリスマのある声。

わたしは『それ』を思い出した。


この学園で、この第二王子とヒロインが出会うんだわ…


ヒロインもこの何処かに?


わたしは新入生たちに目を走らせた。

だが生徒は百人近くいる、とても見分けられそうになかった。


「姉さん、どうしたんです?」

「あ、いえ、何でもありません、すみません」


わたしは心ここに在らずで返事をしていた。




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