前世と転生、狭間の時間
『九条由香里』
名前を呼ばれ顔を上げると、そこには白い布の様な装いをした女性が立っていた。
白く整った顔立ちはまるで彫刻を思わせる。
これだけでも現実のものとは思えないのに、全身には金のオーラを纏っていた。
こんなの、まるで天使か女神様だ。
夢かしら?
周囲を見回すものの、どこを向いても真っ白で、膝から下はドライアイスの煙の様なものが漂っている。
うん、きっと夢だわ。
『あなたは何を望みますか?』
『愛』
『財産』
『名誉』
『それとも、復讐?』
『望みのものを答えなさい』
望めば貰えるというのだろうか?
そんなに簡単に?
それに、どうしてわたしなんかに?
「あの…どうして、なんでしょうか?」
『九条由香里の生は、不当に奪われました』
ふっと、気配を感じ見ると、隣に同じ年頃の女性が一人、目を閉じ立っていた。
見覚えがあるような気がしたが、思い出せない。
『村瀬杏奈』
隣の女性の目が開いた。
「な、なに、ここ何処よ!?あ___!!」
彼女は周囲を見回し喚いたかと思うと、わたしを見て驚愕の色を浮かべた。
わたしは『知り合いだっただろうか?』と記憶を辿りつつ、会釈をしたが、彼女はフイと顔を反らした。
「これ、なんなのよ!?私、まさか、死んだの?嘘でしょ!?なんで私が死ななきゃいけないよ!!」
『村瀬杏奈は交通事故で先の生を終えました、ここは新しく生を始める為の場所』
『村瀬杏奈、あなたは九条由香里の生を奪いましたね』
言葉の意味する事に驚き、わたしは咄嗟に彼女の方を見た。
彼女は顔を背ける。
「知らないわ」
『欺く事は出来ません、その魂に刻まれている事___』
「だ、だったら、なんなのよ!もう時効でしょ!私だって死んだんだから!」
『時効はありません、魂は永遠なのだから』
『あなたの穢れた魂を浄化するには、次の生にて、九条由香里を助けなくてはいけません』
『あなた方は同じ世界に生を受けるでしょう』
『もし、村瀬杏奈が九条由香里を救うなら、あなたの魂は浄化されるでしょう』
『もし、九条由香里を貶めるなら、あなたの魂は穢れ、その生は尽きるでしょう』
彼女は顔を歪め、歯ぎしりをした。
わたしは彼女に嫌われているらしい、どうしてなのかは分からないけど…
でも、不思議ではない、わたしを苦手に思う人は多かったから。
口下手で内気で、面白い冗談も言えない、流行に乗れない地味女子…
寧ろ、好意を持たれる方が稀だ。
『九条由香里、あなたが望むものは?』
「わたしは…愛を」
愛されてみたい。
誰でもいいから、わたしを愛してくれたら…
自分に何も無いから、命を不当に奪われたと聞いても、何の感情も浮かばないのだろう。
死んだのならそれでもいい、と思ってしまう。
隣の彼女の様に喚き散らす程、生に執着してみたい。
『村瀬杏奈、あなたが望むものは?』
彼女は暫し考えている様だった。
そして、出した答えは…
「彼女を助けなきゃいけないんだから、財産、魅力、能力、全てを彼女以上にして!」
確かに…と、わたしは彼女の冷静さと頭の良さに感心した。
彼女の様な人が助けてくれるなら心強い。
『九条由香里、あなたには純真な愛を』
女神がわたしの方を指差す。
わたしの左手に、米粒程の大きさの青色にも緑色にも見える、キラキラと輝く宝石があった。
『導かれるままに』
「は、はい!ありがとうございます…」
喜びに胸がいっぱいになる。
わたしは大切に、失くさないようにと、両手で握り締めた。
『村瀬杏奈』
名前を呼ばれ、彼女は胸を張り顔を上げる。
『あなたの望むものは、あなたの魂が浄化された時、完結するでしょう』
「なっ!話が違うわ!!」
白い光が爆発し、あまりの眩しさに目を閉じる。
わたしは光に飲まれながら、両手を握りしめていた。
わたしの愛___