巻貝の記憶
私の友達には、海が好きなM子という女の子がいました。
ある日M子は、巻貝のキーホルダーを買って来ました。白っぽくて可愛らしい形の小さなキーホルダーです。本人は中古で安くて、可愛かったから買ったとか言ってましたっけ。
M子はそれからというもの、常に鍵に小さな巻貝のキーホルダーを付けていました。小さいって言っても、耳を当てて音を聞けるくらいの大きさです。
普通巻貝って、耳を当てたら波の音がしますよね。こう、ざあぁ……って。
ところが。M子のは違ったんです。耳を当てると、何かが落ちたような音が繰り返し聞こえるんですよ。
そうですね。言葉で表すなら「どすっ」って音が。
私とM子はそれを不思議に思いながらも、特に実害は無かったので放置していました。その妙な音だって、巻貝に耳を付けなければ聞こえませんからね。
それがしばらくして、M子は殺されました。警察によると、現場はM子が住んでいたアパートの自室前で、後頭部をナイフでひと突き。それが致命傷となってうつ伏せで倒れていたそうです。
そしてM子の緩く握られた右手からは、巻貝のキーホルダーの付いた鍵が飛び出ていたと言うのです。
警察の見解は、M子が自室前で通り魔に襲われ、鍵で扉を開けようとしていたところを殺されたとのことでした。通り魔の動機は金で、M子の持っていたバッグからは財布が抜き取られていました。
もちろん犯人は捕まりましたよ。その犯人は、M子の隣の部屋の住人でした。なぜか衝動的に殺してしまったと言って自首したのです。
……今はその巻貝のキーホルダー、私が持っているんです。もちろん身につけはせず、家の金庫に入れて……。
でももう巻貝からは、あの「どすっ」って音は聞こえなくなりました。その代わりに、耳を当てると「ざしゅっ」って音が繰り返し繰り返し聞こえるんです……。