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彼女に名前を付けてあげよう


 審美眼、モノクルを摘んで問う。

 これがマスター権限を持っていたという事は、これを持たずに彼女を起動していたら大変な事になっていたのではないだろうか。


「恐らく、侵入者排除プログラムにより撃退していたと思われます」


「……」


 嫌な予感は的中する。

 良かった、昨日の夜の内に取っておいて良かった。

 まあこれがなければ、この部屋を見つけることもなかっただろうが、それでも、何か偶然が重なって見つけていたら……。そう考えると恐ろしい。


「……つかぬことを聞くが、君ってレベルで例えたらどれぐらいの強さなんだ?」


 やはり、人型なだけあって、通常のゴーレムよりは弱いのだろうか。

 だとしたらまあ、襲われても平気か。


「そうですね。五十相当、と言ったところでしょうか」


「ゴッ!?」


 魔王の四天王クラスじゃないか!?

 今のレベルでそんなのに襲われたら、小指で月まで吹っ飛ばされるぞ!


「どうかしましたか?」


 彼女が、覗き込んできた。

 き、恐怖で顔を見ることができない……。


「……いや、ついてくるんだよな?」


「はい、当然です」


 諦めよう。もう俺に、拒否権はない。


「……わかった。とりあえず、君を怒らせないようにする」


「仰ってる意味がよくわかりませんが、私がマスターに対して怒りを持つことはないと思われます」


 無表情でこちらを見据える彼女に、油断して、ひどい言葉を、かけてしまう。


「ああ、そうか【自動人形オートマタ】だから」


「いえ、【自動人形オートマタ】にも、感情はありますよ」


 今まで崩さなかった表情に、少しだけ、悲しみが見えたような気がした。


「最低なことを言った。……ごめん」


「マスターが謝ることではありません」


 彼女は首を振り、俺の謝罪を否定する。だけど。


「それでも、俺が謝りたかったんだ」


 ここで謝らなければ、俺は一生、自分自身を許すことができない。


「……そうですか。ではマスターの謝罪、私のメモリーに保存しておきます」


 少しいたずら気味な笑みを、彼女が浮かべる。


「なんかやだなそれ」


 そう言って、俺も笑う。

 なんだか初めて、彼女と『会話』をしたような気がした。



「とりあえず、出るか」


 それからしばらく二人で笑い合い、一息ついて、そう言った。


「はい」


「そう言えば、名前をまだ聞いてなかったな」


「名前……ですか? 私に固有の名詞はありません」


 名前がないだって?


「それじゃ不便じゃないか」


「製造番号で言えばOSN3《オートマタシリーズナンバー》が名称になりますが」


 OSNや3と呼ぶのでは、いくらなんでも味気ない。ここに座る彼女は、人間にしか見えないのだから。


「3って、君の上にまだ二人いるのか?」


「はい姉が二人、妹が一人製造されています」


「そ、そうか。なんか怖いな」


 姉達は、彼女よりも強いのだろうか。いや、製造順で言えば妹か?


「安心してください。戦闘力では私が一番だと自負してます」


 腰に手を当て、得意げに薄い胸を張る。

 ……ネクロマンサーも、もっと盛ってやれば良かろうに……。


「……それって誇るべきことなのか?」


「当然です」


 当然なことらしい。


「まあ、いい。とりあえず、名前だ。……OSN……3OSN、ミ…オン。ミオン、でどうだ?」


「マスターに付けていただいた名前に異議などありません」


 そこには、嬉しそう、嫌そう、そう言った感情が、見えない。


「もう少し自己主張してくれた方がありがたいんだが……」


「気に入っていますので、どうか安心してください」


 本当か?

 表情からは全然読めないが。


「……そう、か。じゃあいい。行こうか、ミオン」


「はいっ」


 だけど、名前を呼んで差し出した手。それを掴むミオンの声は、今日聞いた声の中で一番、輝いていたような気がした。



「さてと、とりあえずここを攻略しないとな」


 倉庫?物置?から、無事出た俺はそう言って屋敷の奥へと目を向ける。

 すっかり忘れていたが、俺はここにアイテムを取りに来たんだった。


「? マスターは、ここの最奥に用事があったのですか?」


「そうだ。ここの奥にある精霊の腕輪、これが必要でな」


 精霊の指輪は、全てのステータスを20%上昇させる、加護の腕輪だ。前回の世界では、手に入れてからというもの、勇者がずっと身につけていた。

 防御偏重のタンクとはいえ、絶対値が上がればその上昇率はバカにならない。

 あの勇者が取る前に、是非ともおさえておきたい代物だ。


「でしたら、ここに」


 そう言ってミオンは、懐から白銀に輝く腕輪を取り出した。

 それはまさしく、精霊の腕輪。


「……なんで持ってるんだ?」


「私物ですので」


 私物、私物か……。なら仕方ない。……仕方ないのか?


「奥にあるのはなんだ?」


「かつての試作品です」


 そう言って渡してきた精霊の腕輪。それを受け取ると、それの効果が、頭の中に走った。

 スキルと同じように、初めてアイテムを触った者に起こる情報の波。


【精霊王の腕輪】装備している間、全てのステータスが50%上昇。


 ……完全に向こうの上位互換じゃないか。


「……そうか」


 なんか、もう、自分の中での常識が、ガラガラと音を立てて崩れ去っていくような気がする。


「その二つは、効果は重複するのか?」


 それなら、まだここ探索する意味がある。


「いえ、残念ながら」


 そして今、無くなった。


「……帰ろうか」


「何か落ちこませてしまうことをしたでしょうか?」


 眉根をよせ、少し、困ったような顔をする。

 気のせいだろうか、少しづつ、表情が豊かになっていってるような。


「いや、なんでもないんだ。ミオンは悪くない」


 そう、彼女は悪くない。悪いのはこれを理解しきれていない俺の頭の方だ。そうに違いない。


「それなら、良かったです」


 ほっと息をつく彼女を横目で見ながら。



 ……凄い子を起こしてしまったのかもしれない。そう、思った。



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[一言] ミオンを見た勇者が絡んできそう
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