王都最後のダンジョン
「時間を無駄にしたな」
勇者達のせいで、浪費をしてしまったが、逆に、あいつらのお陰で希望も見えた。
「この街に残る宝は一つ」
それは三つある宝の中で、俺が最も欲しいと願っていたものだ。
「あれは、戦えない俺ではどうしようもないかと諦めていたんだが」
ここの最奥に待つのは、魔獣型【自動人形】。通称ゴーレムと呼ばれるモンスターだ。
こいつは、攻撃力が低く防御、体力が高いという、タンクには千日手になってしまう最悪の敵。
だが。
「【反撃】があれば話は別だ」
このスキルなら、攻撃力が低い相手は、どれだけレベルやその他ステータスが高くても関係ない。
「これがあれば、ゴーレムも倒す事ができる」
拳を握りしめ、目的の宝が眠る、とある屋敷へと歩を進める。
「行くぞ!」
♢
「こ、これは……思った以上に凄いな」
今俺の前では、凄まじい光景が広がっている。
骨が丸出しのコウモリのような魔獣、スカルバット。迷宮でも見たマウスラット。その他細々とした雑魚モンスターが、勝手に飛び散っていくその光景。
「初期スキルの【鉄壁】で防御をあげて【挑発】で強制ターゲット」
そうするとモンスター達は、目の色を変えてこちらへ襲いかかってくる。
「そこから【反撃】で返り討ち」
また一匹、スカルバットが弾け飛んだ。
「何もしなくても勝手に魔物が死んでいく」
元々雑魚モンスターだ、どれだけ倒しても、そこまで経験値にはなってないだろう。
それでも、目の前の光景は……なんかこう、哀しくあるものがある。
「前回の俺の苦労はなんだったんだ……」
あの時の世界で、【反撃】を手に入れていたら、もっと楽が出来ていたに違いない。
そう考えて、前回の自分の境遇に軽く眩暈がする。
「お、早速審美眼の効果が出たぞ」
そうやって屋敷内を散策していると、とある壁で、左目につけていたモノクルが反応した。
「これは、隠し通路だな」
ただ歩いていたのでは決して見つからないであろう、ただの壁。
しかし、モノクルはそんな壁にレンズを赤く色づける事で反応している。
壁を押し込むと、ズ……ズズ……。と奥へ引っ込んでいった。
「下に続いている……」
そこには、人一人がやっと通れるかであろうスペースに、地下へと続く階段があった。
「ここより下の空間なんか知らないが」
そもそもここは三階建ての豪邸だ。今は魔獣の住処となり、誰も住んではいないが。
「前回では見つけられなかったアイテムがあるかも知れない」
そのために、審美眼をわざわざ手に入れたのだ。ここで行かない手はない。
「下りてみよう……」
暗く、足元すらおぼつかない階段を、俺は慎重に降りて行った。
「ここは、倉庫か?」
階段を降りた先には、様々な機械や道具が、雑多に置かれている。
倉庫というよりは物置とでも言った方が良いかもしれない。
「これは……」
その中で、一際目を引く物体があった。
椅子に座り込み、首をカクンと、落としている女の子。
その体からは、いくつものケーブルが天井へと繋がっている。
「まさか、人型【自動人形】?」
聞いたことがある。ゴーレムなどより遥かに作成は難しく、かつて様々な錬金術師が作成を試み、匙を投げた高難度の【自動人形】
「こんなのが街の中のダンジョンにあるなんて……」
そもそも作り上げていた人物がいることにも驚きだ。
「どうやってスイッチを入れるんだろう」
動くのか、壊れているのかわからないが、それでも興味が勝り、オートマタを調べていく。
「ここか?」
首筋に、小さなボタンのようなものが見えた。
「お、動いた」
それを押すと、オートマタから、良く聞き慣れたパソコンの起動音のような響きが起きる。
その起動音が収まると、オートマタはゆっくりと、顔を上げた。