【反撃】の効果
数メートルは吹っ飛んだ勇者。
拳を振り上げていたせいで、ダメージの殆どが顔に行ったのか、鼻が歪み、前歯も数本折れている。
「これは……」
そして、スキルが初めて発動した時にのみ起こる、効果の詳細が頭の中を走った。
「はっはっはっは!」
【反撃】自身の防御力が相手の攻撃力を上回っている時、その差分をダメージとして与える。
「礼を言う。お前のおかげで、防御を上げる意味を見出せた!」
これは、防御を上げれば上げるほど、相手へのダメージが増すスキル。
通常、相手の攻撃が十であれば、カウンターも同じく相手に十のダメージを与えるだろう。
だが、このスキルなら、自身の防御が百なら、九十を。千なら九百九十のダメージが、相手を襲う。
防御が上がるタンクに、これほど好都合なスキルがあるだろうか!
「……は、はにをいって(なにをいって)」
勇者は、自身の身に起きたことが未だ理解できていないのか、呆然とした様子で座り込んでいた。
「今は、まあ生かしておく。魔王に関する情報だけは、俺も知らないからな」
前回の世界では、魔王は勇者が操る聖剣での攻撃が有効。それしか知らなかった。
最終的な目標は、こいつらに復讐をすることだが、こいつらを殺した後に魔王に滅ぼされてしまっては意味がない。
「じゃあな。せいぜい俺が見てないところで死なないでくれ」
今度こそ勇者達に背を向け、歩きだした。
「は、はてよ(待てよ)!」
なおも俺を引き止めようとする勇者に、慌てた女二人がようやく駆け寄っている。
「ちょ!治すから動かないで!」「やーんカッコいい顔が台無しだよー」
「待って!」
そんな俺に、声をかけてきた人が、一人。
「あんた、何者なの。何を知ってるの」
弓術士。いや、不知火キョウカ。
俺が、前回の世界で救えなかった。殺してしまった人。
「……俺から言えることは一つだけだ」
罪悪感からか、目を合わせる事ができなかった。
「四天王、不死鳥のゲーテには気をつけろ」
それだけを告げ、歩きだす。
「何を……」
もう、振り返る事はしない。
「あ……」
キョウカの、呟きだけが、耳へと残っていた。




