スキル獲得、【反撃】
集中することによって、確認したいスキルが頭に浮かぶ。
「【反撃】? こんなスキル知らないぞ」
前回、十レベル到達で得たスキルは【防殻】だったはず。
「もしかしてスキル取得はランダムなのか?」
もしくは、レベル上昇までに行った戦闘経験なのかもしれない。
前回は、常に守ってばかりだった。そのせいで、それ中心のスキルばかり発現した可能性もあるだろう。
「少し魔王戦の時を考えた方がいいかも知れないな」
かつて俺は、レベル六十ほどで魔王へと挑んだ。他の連中は八十近くあったようだが、盾である俺は他の連中ほど効率よくレベルを上げられなかった。
それでも魔王の攻撃を無効化できたのは、単にスキルが全て防御効果で噛み合っていたというのが大きい。
しかし、一人で戦うのであれば、これ以降も防御に関係のないスキルを得るのだろう。
……悩んでいても仕方がない、今は、少しでも多く宝を集め、レベルをあげる事に注視しよう。
「とりあえず、何処かで使う機会があれば使用してみるか」
敵に効果を発揮するスキルは、一度対象に向かって発動しないと効果がわからないからだ。
「まずい、日が明ける」
無事ダンジョンから抜け出し、明るくなり始めている空に顔を顰めた。
「もう一つは確か、墓場に眠る、ネクロマンサーの審美眼」
今日中に取っておきたい、もう一つの宝。
「あれがあるだけで、隠された通路や隠しアイテムを見つけることができるんだよな」
実はこれも前回、同じように終盤に見つけたものだ。
「勇者はそれをいらないと言って売り飛ばしていたが」
既に回ったダンジョンを、もう一度巡り直す意味はない。そう言っていたのを思い出す。
「初めからダンジョンを探索するなら、あれほど便利な道具もないだろう」
しかし、そのアイテムには夜にであること、という獲得上限がある。
急がないとならない。
そう考え、俺は重い足を引きずって、更に夜の街を駆ける。
♢
「なんとか間に合ったな」
朝、俺はホクホクとした表情で街の中を歩いていた。
今俺の手には、人差し指に輝く指輪と、片目用のモノクル。
「指輪と審美眼。これがあるだけで、序盤のレベル上げとダンジョン探索がずいぶん楽になる」
これからのダンジョン探索を思い、少しだけ顔を綻ばせた。
そんな時。
「あれ、お前」
今、一番聞きたくない声が、俺の背後から降りかかる。
「……勇者達か」
「お前まだこの街にいたのかよ。現実を受け入れられずにさっさと死んでるのかと思ったぜ」
勇者は後ろに魔法使い、回復師、弓術士を引き連れて、街を散策していたようだ。
「猫被りは、やめたんだな」
一人称は僕から俺へと戻っている。
こいつは確か、王の前でだけ好青年を演じていたはずだ。
「あ? ああ、あんなの王の前だからやってただけだ。それに、こいつらもこっちの方が良いって言ってたしな」
嬉しそうに笑い、背後の女三人に振り返る。
「まあ、僕って言うよりはね」「そーそー」
女二人も勇者へと寄り添うように歩いていた。
……こいつ、もう手を出したのか?
「……くだらない」
その中で一人、弓術士だけが興味なさげに三人を冷ややかな視線で流し見ていた。
「武闘家は、いないようだな」
そう言えば、姿が見えない。
「あいつは、俺たちの邪魔しちゃ悪いからって一人でどっか行ったよ。お前とは違って気が使える奴でよかったぜ」
ヘラヘラと、笑っている。
こいつは一体何がそんなに楽しいんだ?
「そうか、用がないならもう行くぞ」
これ以上、こいつらの顔を見ていたくない。
「おい待てよ! なんだその態度」
俺の態度がよほど気に食わなかったのか、わざわざ俺を引き止める。
「昨日王から聞いたぜー? タンクってのは、防御だけは一丁前だが、一人じゃネズミ一匹殺せねぇゴミだってよ!」
嘲笑うかのような視線を、俺へと向けた。
分かってはいたが、既に俺への侮蔑は始まっていたらしい。
「だっさ」「まあ、私もネズミなんか触りたくないけどねー」
背後に侍る女達も、クスクスと笑いながらこちらを見ていた。
「それだけか?」
「あ?」
「わざわざ呼び止めてまで伝えたかったのは、そんなくだらない事だったのか?」
もういい加減にして欲しい。
こいつらの顔も声も、ほんの僅かな仕草でさえも、俺の神経を逆撫でる。
「こいつ!」
勇者は馬鹿にしている俺にそんな事を言われたことが余程腹が立ったのか、顔を真っ赤に染め、スキルを使い殴りかかってきた。
「そのまま死んでろ! 【筋力強化】!」
全身の筋力を強化する、勇者の初期スキル。
だが、昨日までと違い俺は既に十レベルに到達している。
様々なスキルを揃えた高レベル時ならともかく、勇者とは言え初期値のステータスでは今の俺の防御を貫けない。
……ああ、そうだ。せっかくだからあのスキルをこいつで試してみよう。
「【反撃】」
恐らく、相手の攻撃をそのまま返すものだろう。そう思っていたが。
ガキィンッ!
「ぶべらっ!?」
鈍い音と共に、予想外のダメージが、勇者の身を襲った。
「……え?」




