みんなの観光案内『ロロの場合』
俺達は早速、街の中へと繰り出した。のだが。
「それで、どこに行きましょうか?」
「え……?」
ミオンが聞いて来るが、俺は特に目的など決めてはいない。
「いや、みんなが行きたいところがあればそこでいいぞ」
そう言うが、みんなは納得していないようで俺の顔を黙って見つめる。
「なんだ……?」
折角の休日、好きなように遊んでくれたら良いのに。
そんな俺に業を煮やしたのかリーラとミオンがため息をつく。
「今回は、珍しく主が誘ってくれたのだぞ」
「そうです。マスターが決めてください」
なるほど、俺に連れて行って欲しかった訳か。
「うーん」
しかし、困った。俺はこの街の事を殆ど知らない。
今は言わずもがな、前回でもダンジョンに出る以外は宿に引き篭もっていた記憶しかない。
だが、恐らくみんなそれでは納得してくれないだろう。
それなら、方法は一つだけ、か。
「だったら……みんなのお勧めの場所を一つずつ、俺に紹介してくれないか?」
「まあ。それなら」
「及第点、と言ったところですかねぇ」
どうやら、正解だったようだ。
この街を知らない俺では、みんなを満足させるような観光は望めない。むしろただ歩くだけで一日が終わってしまう可能性すらある。
なら、みんなの行きたい所。ではなく俺に紹介すると言う形にすれば良い。
「でも私も旦那様と一緒で殆ど街を知らないので、今回は御三方にお任せしますわ」
そうか、これだと俺と同じで街を知らないニアが参加出来なかった。
「次回までには、是非旦那様好みの場所を探し出して見せますので」
申し訳ない気持ちになりかける俺に、自らの唇を艶やかに舐めそんな事を言うニア。
絶対変な場所に連れて行かれそうだ……。
「……普通の店にしてくれよ」
少なくとも、ロロの教育に悪影響が出そうな場所は近くだけで却下だ。
「わたしから行くー!」
と考えていると、思考の中で話題だったロロが率先して手をあげていた。
「はい。ではロロさんのお勧めに、マスターを案内しましょう」
「うん!」
ミオンが手を繋ぎ、ロロが歩き出す。
「楽しみだな」
……正直、ロロの紹介してくれる店が一番まともなんだろうなって思ってる。
ミオンもリーラも、どんな場所に連れて行かれるか想像もできない。だから、これが最初で最後の希望だ。
先導するロロの後を、黙ってついていく俺たち。
何だか、周りの景色がこう……。ピンクが多くなっていないか?
そう思いながら歩き続け、とうとうロロはとある一つの店舗で足を止めた。
「ここか……?」
目の前には、ピンクの看板ピンクの外装ピンクの暖簾が垂れ下がる、ピンクがゲシュタルト崩壊を起こしてし まいそうな程の、ピンク。
「そうだよ」
嘘であって欲しいと願っていた俺の薄い希望も、ロロの一言で打ち砕かれた。
「ロロは、ここが何か分かっているのか?」
この店は恐らく、俺たちの世界で言うところの大人の休憩所的なアレだ。
「? 面白いのがいっぱいある宿屋さん!」
「そ、そうか」
確かに、こう言った施設は子供には不思議がいっぱいの楽しい空間に映るのも知れない。
「ここは確かに不思議であったのう。ベッドの真上に大きい照明があったり、そのベッドが回転したり」
え、お前達既に入ったの? 女の子だけで? それ以前に入れたの?
「お部屋のお風呂にぬるぬるするのもあったよー」
……それってまさか。
「個別にお風呂があるあんて、珍しいですねぇ」
いや、ニアは絶対に分かっているだろ。
と言うかあれだ。初日、大きいベッドがある宿を探したとミオンが言っていた。あの時、こう言った施設も見て回ったに違いない。
確かにこんな場所のベッドは巨大であることも多いからな。
「……」
黙ってミオンを睨み据えると、目を逸らされる。どうやら憶測は当たっていたらしい。
良かった。ここが選ばれなくて本当に良かった。
今の宿もだいぶ怪しい感じを醸し出しているが、こんな宿に少女達を連日連れ込んで寝泊まりをしていたら名声は名声でも違った物が広がる所だ。
「ご主人さま! ロロ今度ここに泊まってみたい!」
頭を抱える俺をよそに、ロロがいきなりとんでもない事を言い出す。
「ダメに決まっているだろ!?」
不意な発言に、つい大声で怒鳴ってしまった。
「ふえ……」
「あ」
俺の声にロロは驚き、一瞬だけポカンとした表情を浮かべた後、目に涙を浮かべるロロ。
「ご、ごめんなさ……い」
謝罪の言葉を述べながら、瞳からは溜まりきった涙がポロポロと溢れる。
しまった! 泣かせてしまった。
「いやいやいや! 今のは俺が悪かった! ごめんな。急に大声出して」
ロロを抱っこして、頭を撫でる。完全に俺の責任だ。ロロは何も知らず、ただ好奇心から言っただけに過ぎないのに。ついとは言え、大声を出してしまった俺が悪い。
よしよしと、あやすように背中も摩る。しばらくそうしていると、ようやく涙を収めてくれたロロが喋りだしてくれる。
「うう……じゃあ、泊まってくれる……?」
……言えない。このタイミングで無理だなんて、俺には言えない。
小さな子にこれ以上泣かれるのは胸が痛い。それに、下手をするとロロに嫌われてしまうかも知れない。それだけは避けなければ。
「……ロロが大人になった時に、それでも俺と入りたいと思っていたら泊まろうな」
悩んだ末、俺にはそんな言葉を絞り出すように言うしかなかった。
大丈夫だ。そんな先のこと、ロロも覚えているはずがない。もし覚えていても、その頃には他に身を捧げたい男がいるはずだ。
「ほんと?」
俺の胸の中からロロが顔を出しこちらを見つめる。泣いていた名残で瞳を潤ませながら。
「ああ。勿論、当然だ」
「約束……だからね?」
「う、うん」
もしかしたら俺はこの瞬間、将来に対してとてつもなく重い楔を打ち込んだんじゃないか?
「私は今からでも良いですよ?」
俺とロロのやりとりを黙って見ていたミオンが、話の区切りが一旦ついたのを見計らって何か言い出しているが、それは聞こえないフリ。
「とにかく! ここはもう終わりだ終わり!」
女の子四人と男が一人。そんな集団がこんな場所にずっと陣取っているせいで、注目が集まってきている。
何より一人は少女どころか子供だ。周りの連中が向ける目が痛い。痛すぎる。
「無視されました」
ミオンが後ろでこちらを睨んでいる気配がする。しかし今は気にしてられない。
「次は……」
強制的にロロの紹介を終わらせる。次に案内するのは、俺の指名制にしよう。
「リーラ。案内してくれないか?」
ミオンは絶対にダメだ。今の状態だと、私の案内する場所はここですとあのピンクな建物に入りかねない。
「む? 我か。出来たら最後の目玉として紹介したかったのだがな」
しかしリーラは不満そうな表情を浮かべてしまう。余程自分の案内場所に自信でもあったのか。
だが、こちらも譲るわけにはいかないんだ。
「いやー、リーラのお勧めにすっごい興味があるんだ俺! 今すぐにでも教えて欲しい!」
「そ、そうなのか? 全く仕方ないのう。そこまで言うなら、案内してやろう」
必死に持ち上げていると、気を良くしたリーラは満更でもなさそうに照れながら歩き出す。
……単純で助かる。
「何か言ったか主よ?」
「いや、何でもない。楽しみ過ぎて独り言を言ってしまっただけだ」
そう言うと、リーラ更に機嫌を良くして歩幅も大きくなった。
「そうかそうか! 期待するが良い、行くぞ!」
一人でガンガン歩いていくリーラの背中を見つめていると、ニアが側に寄って来る。
「旦那様も、すっかり扱いが上手くなってるようですねぇ」
「そんな猛獣の調教師みたいな言い方はやめてくれ……」
そして俺達は、リーラの案内で更に歩みを進めるのだった。




