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組合の結果と解放。そして息抜き。


 朝になり、俺は昨日言われた通り冒険者組合へと訪れていた。


「あ……」


 中に入ると、受付嬢がこちらを見て声を漏らす。

 そして、入るまでは騒がしかったざわつきが、一瞬で静寂へと変わる。


「お、お待ちしてました」


「ダンジョンの確認は出来たか?」


 受付へと近づきながら周囲の確認をするが、全員が俺へと注目している。

 ……これは、みんなを外で待たせておいて正解だったかも知れない。

 もしダンジョンの攻略が認められ、昨日のような騒ぎがもう一度起きたら……という懸念は的中していたようだ。


「はい。確かに、魔物達が一匹もいなくなっていました……」


 受付嬢は、そう言いながらも渋い顔をしている。


「ん、何か問題があったのか?」


「い、いえ。ダンジョン内のアイテム等が、殆ど手付かずだったもので」


 そう言えば、魔物が何も出なかったせいでそのまま奥へと行ってしまったのだ。盾以外は、何も取らずに出てしまったのを思い出す。


「ああ、そう言う事か。……もしかして、アイテムまで回収し尽くさないと攻略扱いにはならないのか?」


 だとしたら、少し面倒だが急がないと。ダンジョンは一度申請すると、攻略するか放棄をしないと他のダンジョンに挑めない。


「いえ! とんでもないです。魔物の殲滅やダンジョンボスの討伐で、攻略扱いになります。……ですが」


 なんだ。それなら問題ないじゃないか。

 しかし、そう思っても彼女の顔は晴れない。


「攻略が終わったダンジョンは、他の冒険者達が取り残しのアイテムを探索するんです。おこぼれでも、実力が低い冒険者には宝の山であることが多いので」


 それは知っている。前回の世界では、勇者が高難易度ダンジョンのアイテムを根こそぎ取り尽くしていた為かなり反感を買っていたんだ。

 自分たちが攻略出来ないダンジョンを攻略しているのだから嫉妬でしかないが、それでも余所者が自分たちの国で好き勝手するのを良い顔はされない。

 なので、俺がやっている事は間違いではないと思うのだが……。


「要領を得ないな。はっきり言ってくれないか?」


「は、はい!」


 受付嬢は飛び上がるように元気よく返事をした。……もしかして俺、怯えられてる?


「殆どのアイテムが手付かずのまま高難易度のダンジョンを攻略済みとして解放してしまうと、多くの冒険者が争うようにダンジョンを目指してしまいます!」


「それが困ると言うことか?」


 もしかして、それが原因で暴動でも起きるのか?ダンジョンの難易度や、そこで手に入るアイテムの等級を考えると起きてもおかしくは無い。


「いえ、むしろそうして頂けると組合としても活気が出ますし、助かる案件なんです」


「? じゃあ良いじゃないか」


 先程から彼女は、上目遣いでこちらを伺うように見ている。

 何がそんなに気になっているのか。


「……でもそうしてしまうと、あなた方が本来得るはずだった利益が失われてしまいますよ? ですので、早急に必要なアイテムだけ回収して頂けますと……助かります」


 なるほど、ようやく理解した。


「あー……つまり、このまま解放させても貰えると凄く嬉しい。けど俺がそんな話を聞くと、自分の利益の為にアイテムを回収したがるだろうから、早く取ってこい。そう言う事か?」


 そして組合としても、そう言う情報をきちんと伝えずに解放してしまうとトラブルの種になる。

 だから出来るだけ俺の機嫌を損ねないように、こちらの様子を伺いながら言葉を選ぶように話していたのだ、アイテムを出来るだけ多く残して貰えるようにしたくて。


「ま、まあ。端的に申しますと、そうなりますね」


 だったら、話は簡単だ。


「いいよ」


「……え?」


 俺が端的に返事を返すと、受付嬢はあっけに取られた顔をする。


「ダンジョンを解放してくれて良い。俺達は既に目的の物は手に入れているからな」


 先程も思ったように、前回において高難易度のダンジョンは殆ど勇者が狩り尽くしていた。だからこそ俺は、ダンジョンのどこに、どんなアイテムがあるのかを知っている。

 なので俺は、本当に必要な装備やアイテムしか取らない。それ以外に興味があるとしたら、ミオンが居た部屋のように隠された通路がある場所だけ。

 あの遺跡には、それは無かった。なのであのダンジョンに俺はもう興味がない。


「ほ、本当に良いんですか?」


「くどいぞ。なんならこの場で宣言しようか?」


 そう言って、ことの成り行きを黙って見守っていた後ろの連中に、振り返る


「何を――」


「俺は、遺跡のダンジョンの権利を完全に放棄する! 残ってるアイテムはお前達の物だ! 早い者勝ちだぞ! 急げよ!」


 そう、叫んだ。

 瞬間。


「「「う、うおおおおおおおおお!?」」」


 絶叫が、波のように押し寄せてくる。


「マジかよ!?」

「い、急げ! 早く申請するんだ!」

「ちげぇよ! 解放ダンジョンは申請なんていらねぇ。解放を組合が出した時から、いつでも入れるようになるんだ!」

「それっていつだよ!?」

「知らねぇよ! 二、三日中にはされるだろ!」

「と、とにかく、準備を……」


 組合の中は一気に大騒ぎとなり、話を聞いていた連中の半数は慌てるように組合を出て行ってしまう。

 恐らくは、ダンジョンを探索する為の準備や、今の話を仲間などに知らせに行ったのだろう。

 騒ぎは、しばらく収まりそうにない。


「と、とんでもない事をしましたね……」


 受付嬢は、俺の背後の喧騒を苦笑いをしながら見つめている。


「問題があったか?」


「いえ……この組合がこれほどの盛り上がりを見せたのを、私は初めて見ました」


 しかし、注意や文句を言うわけではなく、むしろ――。


「ありがとうございます」


 そう言って、頭を下げてきた。


「い、いや。別に礼を言われるような事じゃ……」


「下げるような事です」


 彼女は頭を下げたまま、言う。


「そ、そうか?」


「はい」


 頑固だな。ミオンみたいだ。だとしたら、こちらが折れない限り彼女の頭が上がることはないのだろう。


「……分かった。貴女の気持ちは受け取っておく」


 そう言うと。


「ありがとうございます」


 ようやく、彼女は頭を上げてくれた。その頬は興奮しているのか、照れているのか、赤く色づいている。


「……ミオンがいたら折檻されていたかもな」


 まず間違いなく、不機嫌にはなっていただろう。その点でも、外で待たせておいて良かった。


「何か言いました?」


「いや、なんでもない」


 とりあえず、一旦話を進めよう


「後は解放宣言を待つだけなんだな?」


「そうですね。恐らく二日程度でなされると思います」


 二日か……。結構時間がかかるな。


「それじゃあ、その間新しいダンジョンを探索でもしておくか」


 待つ時間が惜しい。それなら、他のダンジョンも今のうちに回ってしまおう。


「え? 出来ませんよ」


 俺のそんな発言を、受付嬢はあっさりと否定してしまった。


「……どうしてだ?」


「ダンジョンを攻略した人は、解放宣言が出るまで他のダンジョンには入れないんです」


 ……初めて知ったぞ、そんな事。


「そ、そんなルールがあったのか」


「はい。解放宣言は攻略した人の名前も公開されます。その時に他のダンジョンで死亡されてると困りますので」


 確かに、その理由なら納得できる。


「知らなかった……」


 思い返してみると、確かに勇者もダンジョンを攻略した後はしばらく遊び歩いていた。あれは、ただ遊び歩いていたのではなくダンジョン解放を待っていただけなのかも知れない。

 ……いや、あいつは普通に遊んでただけか。


「あなたは、この街に来たばかりでしょう?」


 勇者の素行を思い出し、少し嫌な気持ちになっていた俺を受付嬢の声が引き戻す。


「ん? ああ、そうだな」


 来たばかり、と言うか三日ぐらいしか経っていない。


「でしたら、昨日の皆さんとのんびり観光でもしたらいかがですか?」


 観光……? 彼女にそう言われるまで、考えた事すらなかった。

 勿論、みんなが観光したいと言うのであれば行ってきても良い。と言うつもりではあったが、その間俺は普通にダンジョンに行くつもりだった。みんな。その中に、自分をカウントしていた事がない。


「何か急いでらっしゃるようですが、息抜きも必要だと思いますよ」


「息抜き、か」


 思い返すと……、ここまでずっと駆け足でやってきた。

 休む暇もなく、ただ前へ、前へと一歩でも多く進むために。


「皆さんも、喜ぶんじゃないですか?」


 もしかしたら、みんなもそんな俺を見て遠慮していたのかも知れない。

 自分が仕える主人が何も言わずに走り続けているんだ。その中で、自分だけ休みたい。何て言える娘が、あの中にいるだろうか?

 ……割と言いそうなメンツだな。

 だけど。


「そう、かもな」


 もしそれを、俺の口から言えば……彼女達はきっと喜んでくれる。そんな確信がある。


「じゃあ、二日後に」


 この二日は、休養にしよう。自分だけじゃない、彼女達の休息に。


「はい、お待ちしております。楽しんできて下さい」


「そうするよ、ありがとう」


 俺はそう言って、組合を後にする。



「あ、マスター」


 外では、みんな俺が戻るのを待っていた。


「どうしたのだ? 先程もの凄い人数が駆け出すように出て行ったが」

「ご主人さまー」

「ふふ、何か晴れやかそうな顔をしてますねぇ」


 暖かく出迎えてくれるみんなを見てると、やはり息抜きは必要なんだと思う。

 こんな俺に、文句も言わずについて来てくれる、みんなに。


「ああ、相談があるんだ」


 そんな彼女らの顔を順番に見つめ。


「少しだけ、のんびりと街を見て周ろうか」


 微笑みながら、そう言った。


「良いのー!?」

「ほう、主がそのようなことを言うとは」

「マスターがお望みでしたら、そうしましょうか」

「私はこの街の事を全然知らないので、助かりますわぁ」


 みんな、驚きつつも心なしか表情は嬉しそう。やっぱり、こう言った息抜きがしたいと思っていたのかも知れない。


「じゃあ、行こうか」


 そう言って街の中へと繰り出す。


 今日と明日は、みんなで遊び尽くそう。



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