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みんなの知識


「では。そろそろ宿に戻るとするか」


 そうこうしていると、リーラがとんでもない事を言い出した。


「……え?」


「そうですね。マスターももうお疲れのようですし」


 それは、困る。


「いや、もう少し……のんびりして行こうかなー、なんて」


 この衆人環視の中、周りを少女達に囲まれている状況を耐えつつ、俺は考えなければいけないのだ。

 今日の就寝の打開策を。


「あらぁ、宿があるんですか?」


 リーラの発言に、ニアも興味深そうに反応してしまった。


「そう言えば、ニアが増えてしまったな」


 そう、だからダメなんだ。このまま宿に戻ったら、俺はおそらく圧死する。


「そうですね……流石に五人はあのベッドでも狭いと思います」


「……やっぱり、今日もみんなで寝るんだな」


 当然のように、俺に話は一切通らず五人で寝ることは確定しているようだ。

 だが、まだ救いはある。ニアが一緒に寝るとは、まだ決まっていない。


「当たり前です。今日は私の番なんですから」


 ミオンの番って、まさか誰が俺の上で寝るとかの話か?


「もしかして、旦那様達は一緒に寝てるんですかぁ?良いですね」


 自身の頬に手を添え、赤らめるニア。何か良からぬ勘違いをしていないか?文字通り寝るだけだぞ。


「今日からはニアも一緒だ」


 リーラめ、余計な事を。


「良いんですかぁ?」


 と言うか、話が勝手にサクサクと進んで行く。


「別に……俺以外は強制じゃないから良いんだぞ。無理しなくても」


「いやですわぁ。私が拒否するとでも?」


 お前も、一緒に寝たいのか……。


「……ニア、お前もか」


「勿論ですわぁ」


 なんで、みんな同じベッドで寝ることに拘るのかわからない。

 一人の方がのんびり眠れるのに。


「でも宿代は前払いなのだろ?では、あそこに泊まった方が良いのではないか」


「ですね」


「……俺は床に寝るから、お前達はベッドで寝たらどうだ」


 もう、いっそ床で寝た方がマシかも知れない。


「では、帰りましょうか」


「楽しみですわぁ」


 俺の声は、華麗にスルーされる。


「なんでこう言う時だけみんな息ぴったりなんだ?」


 もう少し、俺の意見を聞いてくれ。


「さあさあ、旦那様。行きましょう?」


「……」


 ニアにそう声をかけられるが、俺は動き出さない。


「ニア、ダメだぞ。宿に行く時の主はこうするんだ。ミオン」


「はい」


 そう言って、二人が俺の脇に抱え……。

 ズルズルと引きずり始める。


「あらあら、旦那様ったら子供みたい」


「まったく、無駄だと分かっているのだから、大人しく戻れば良いものを」


「そこがマスターの可愛いところでもあります」


 ……そうやって、俺は出荷される家畜の気持ちを味わいながら運ばれていく。


♢


 結局、昨日と同じように宿まで引きずられて来ました。


「ここが、お部屋なんですねぇ」


「はい」


 とうとう、来てしまった。

 昨日までは、百歩譲ってまだ良かった。四人なら、まだ寝ることが出来たのだから。


「では、寝る場所を決めようか」


 リーラが先手を切って仕切り出す。


「私は決まっていますよ」


 やはり、ミオンは俺の上で寝るつもりらしい。


「では、残りは三人の場所だな」


「一人は、仲間外れになってしまいませんかぁ?」


 そう、四人だと左右の関係上、どうしても一人あぶれてしまう。


「だから、お前達四人で寝てくれ。俺は一人で我慢するから」


 もう分かってるが、そう発言してみる。


「どうしようかのう……」


「では、これならどうですか?」


 はい、みんな聞いてくれません。


「マスターの頭の上であれば、スペースがあるかと」


「うーむ。それでは主の足がはみ出てしまうし、その場所の者が寝づらいであろう」


「そうですね……」


 みんなで腕を組み、知恵を絞っている。

 この光景が、俺を苦しめる為に行われているものでなければどれほど嬉しいか。


「じゃあ、これはー?」


 そんな時、黙って事の成り行きを見守っていたロロが、みんなを唸らせる作戦を思いついた。


♢


 夜、ベッドには五人が敷き詰めあって寝ることとなった。

 左腕にはリーラ、右腕はニア。そして俺の上には。


「あの……」


「なんですか」


「流石に、重いんだけど」


 ミオンが寄り添って、その腕の中にロロが収まっている。


「私がですか?」


「いやミオンがとかじゃなくて、二人も乗るとね?」


 ロロが考えた作戦とは、一番小さい自分がミオンと一緒に寝ればいいと言うもの。


「ロロさんが考えた物ですので、クレームはロロさんにお願いします」


 ミオンが抱えているロロを見るが。


「えへへー、ご主人さまとおねえちゃんの匂いー」


 幸せそうに寛いでいるロロに、今更どいてくれなんて俺には言えそうにもない。


「……」


「納得してくれたようで何よりです」


 沈黙をする俺を見て、同意をしたと判断するミオン。


「ずるいだろ……」


 俺がロロには甘いことが、完全に見透かされてしまっている。


「それにしても、みんなで寝るって言葉通りの意味だったんですねぇ」


 俺とミオンの小さな言い争いが終わったのを見計らい、ニアも会話に混ざり出す。


「当たり前だ」


 変な想像をしてるんじゃないかと懸念をしていたが、思った通りだ。

 しかし、ニアは頬を染め。


「私は、深い意味でも良かったのですがぁ」


 艶っぽく囁く。

 そんなつもりなんか無かったはずが、少しだけ変な気持ちが湧き出そうになる。


「……みんなにはまだ早い」


 だが、ニアはともかく他三人の見た目は少女と言っても差し支えない。ロロに至ってはガチ幼女。手を出すなんて出来るわけがなかろう。


「どう言う意味なのだ?」


 俺とニアの会話を、リーラは分かっていなかったようだ。


「リーラ、まじか」


 数百年生きているはずのドラゴンが、まさか生娘?いや、見た目で考えるのなら当然か。

 ……いやしかし、あの姿は俺の印象が影響されているはず。

 リーラの知識の偏りが俺を混乱させる。


「どう言うことー?」


 ロロがミオンの腕から、俺を覗き込む。良かった、逆にロロが知っていたら俺は立ち直れなかったかも知れない。


「ロロは後十年は知らなくて良いことだ」


 頭を撫で、ごまかす。ロロはこのまま無垢に育ってくれ。

 そんな中、ミオンはと言えば。


「私は……」


 顔を真っ赤にして俯いてしまっている。ミオンは、意味が分かっているようだ。


「み、ミオン」


 俺の胸の中で頬を赤らめ身動ぎをするミオンを見ていると、俺まで変な気分になりそうで困る。


「あらあらぁ」


「なんなんじゃ? 一体」


「わかんなーい」


 そんな俺たちを、微笑ましそうに見るニアと不思議そうに首を傾げる二人。


「二人ともそのうちわかるわぁ」


「分からなくても良いんだよ」


 これ以上、俺を悩ませる種を増やさないでくれ。


 夜は、騒がしく更けて行った。



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