ギクシャクな姉妹
「それが、主が欲しかった盾か?」
今俺の腕には、目当ての物だった創造の盾が装備されている。
「ああ、そうだ」
戻ってきて初めて着けるまともな装備。恥ずかしながら少しテンションが上がってしまう。
「見た目は普通の盾じゃがのう」
そんな事を言うリーラに、この盾の能力を見せてやる。
「見てろよ」
盾に対し、イメージをする。
「おー!」
盾はグニャグニャと形を変え、振り回しのし易いガントレットに姿を変えた。
ロロが期待通りの反応を見せてくれて、少し嬉しい。
「凄いが……もはや盾ではないのう」
リーラも驚いた様な顔をしてはいるが、リアクションが地味だ。
もっとロロみたいに驚いて欲しい。
「まあ、盾と言うよりは形を自在に変えることが出来る防具だからな」
「おうちで良く遊んだ粘土みたい!」
「そ、そうか」
ロロ、それは誉めているんだよな? 信じるぞ。
「それよりも……」
さっきから、会話に一切参加してこない二人。
「あれをなんとかしてくれないか?」
背後で、黙って俺たちについてくる二人を横目に見ながらリーラとロロに頼む。
「無理じゃ」
「こわーい」
だよなぁ。俺も嫌だし、あの空気に入るの。
「「……」」
二人の空気は、重い。
「まあ、そのうち慣れるじゃろ」
「だといいが……」
そんな事をぼやいていると。
「あー!」
ロロが、唐突に大声を出す。
「どうしたロロ!?」
敵か!?
「お名前!」
警戒を強くする俺に、ロロが発した言葉はそんな事だった。
「……へ?」
な、まえ?
「蛇のお姉ちゃんの名前、聞いてない!」
「あ、ああうん。そうだな」
名前、か。
「ラミアではいけないのか?」
俺がずっと呼んでいる名前そのまま使えば言いと、リーラは提案するが。
「それは見た目からつけたものでしょう?」
それを聞いていたラミアが、ようやく話に加わってきた。
「私はラミアではないし、付けてもらえるなら欲しいわねぇ」
……確かにラミアと言うのは見た目の印象からそう呼んでいただけだからな。
今は人間の姿なのだし、ラミアと言うのはおかしいか。
「そうだな」
考える。ミオンと同じで、OSN2から考えるが……だめだ浮かばない。
「えっと……」
2、ラミア……で。
「ニア、とかどうだ」
少し安直だが、いい名前ではないだろうか。
「あら、素敵ですねぇ」
「気に入ってくれたのなら何よりだ」
ミオン、ロロ、リーラ、ニア。随分増えたな……。
まさかこれ以上は増えないだろうと思うが……何故だろう、この予想は外れる気がする。
「と、もうすぐ出口か」
そうこうしていると、遺跡の出口が見えてきた。
「ほら、行くぞ。ミオン」
さっきから会話にも参加せず、とぼとぼと付いて来ていた不機嫌な女の子の、手を引く。
「あ……」
いきなり手を引かれたミオンはキョトンとした顔を浮かべるが。
「マスターは本当に……」
「嫌か?」
「そんな訳ありません」
繋いだ俺の手を、強く握り返し、微笑む。
「行きましょう」
久々に、笑ってくれた様な気がした。
♢
「何か……増えました?」
ダンジョンの状態を報告するために、俺たちは組合へとやってきた。のだが。
「恥ずかしながら……色々あってな」
受付嬢の視線は、今しがた仲間になったばかりのニアを向いている。
「……女性、ばかりですね」
そして、ぐるりと視線が向かうは残りの三人。
「……恥ずかしながら」
どう考えても、女好きと思われているよな。これ。
「それで、ダンジョンはどうでした?」
「ああ、それなんだが――」
ニアが殆ど捕食したせいで、遺跡はもぬけの空になっていた。
流石にこいつが犯人です。とは言えないが、魔物が居なくなった事だけでも伝えよう。
「旦那様」
そう言おうとした俺に、ニアが小声で囁く。
「どうした?」
聞かれては不都合な話なのかと、自然と俺も小声で返した。
「あの遺跡、旦那様が攻略したことにしませんか」
「……なぜ?」
「あそこに来てたという事は目的があるのでしょう?」
「そうだな」
「では、名声を高めておいた方が宜しいかと思いますよぅ?」
名声か……。確かにそうすれば前みたいな奴に絡まれたり、ダンジョンの申請をする度に止められる事もなくなる。
それにニアの件で、多少目立ったところで魔王が俺達を警戒をする。なんてことがない事も分かった。
「どうせ他のダンジョンも周るなら、いつかは誤魔化せなくなりますし」
「そう……だな」
この際だ、ニアの意見に乗ってしまおう。
「どうかしましたか?」
ひそひそ話を続ける俺たちに、不思議そうな顔をする受付嬢。
「いや、あの遺跡なんだがな」
そうと決まったら、話は早いほうが良い。
簡潔に伝えてしまおう。
「俺たちが攻略した」
そう言った瞬間――。
「え!?」
受付嬢の驚きと共に、周囲がドッと騒ぎ出す。
「ひうっ」
「な、なんじゃ?」
ミオンとニアは気にも止めていない様だが、ロロは驚きで俺に抱きつき、リーラは落ち着かない様子で周囲を見回している。
今回も、聞き耳を立てられていたようだ。
周囲では、他の冒険者達が騒ぎ通していた。
「……明日、またお越しいただいても良いですか?」
そんな中、受付嬢だけが真剣な顔でそんな事を言う。
「何か問題があったのか?」
恐らく、疑っているのだろうが……。
「いえ……ダンジョンを確認しに行かないといけないので……」
「ああ、そう言う事か」
本当に攻略されたのか、直接組合が確認する必要があるのだろう。
「分かった、また明日来る」
「はい、宜しくお願いします」
そう言って、俺たちは逃げる様に組合を後にした。
……あの後、組合では俺たちのことが好き勝手に噂されているに違いない。
少し早まっただろうか?
♢
「大騒ぎになってしまったな」
組合を出た俺たちは、談笑しながら街を歩いている。
「ま、仕方なかろう」
「びっくりしたねー」
一番驚いていたであろう二人は、未だ落ち着かないのかソワソワしている様だ。
「取り敢えず、明日もう一度来るしかないだろうな」
明日、本当に遺跡が攻略されたと知った組合の雰囲気を思うと、多少憂鬱になる。
「まだ日が高いですが、どうしますか?」
「そうだな……一度別行動でもするか」
「えー! 一緒に行こうよー」
ロロが腕を引っ張って駄々をこねるが。
「ごめんな……少し調べたい事があるんだ」
頭を撫で謝罪をすると、不満そうながらもどうにか離してくれた。
「では、待ち合わせは前回の噴水で良いですか?」
「そうだな。時間は、三時間後ぐらいにしようか」
少し街の人達に話を聞くだけだ。そう時間は取らないだろう。
「分かりました。行きましょうロロさん」
「ぶー」
ミオンが、ロロの手を引いて歩いていく。正直本当の姉妹より姉妹らしい姿だ。
「お前も、少しは姉妹仲深めてこい」
「……はい」
あまり仲がこじれていると、今後にも支障が出てしまうからな。
「あらあらぁ」
「なんじゃ、今回は我が抑制役か?」
いつもロロと一緒にはしゃぐ側に回っているリーラは、いきなりの大役に目を丸くする。
「頼むぞ、喧嘩し始めたら止めてくれよ」
いつも抑え役のミオンがあの様子では、リーラに頼むしかない。……非常に不安ではあるものの。
「う、うむ」
リーラも自信はないのか、渋い顔で頷く。が。
「じゃあな!」
ピッと手を挙げ、さっさと行く事にした。
「軽い!? もう少し発破をかけたりせんか!」
ま、不安に思ってても仕方ない。リーラを信じるしかないだろう。




