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チンピラ冒険者、再び


「それにしても、ちょっと早く終わりすぎたな……」


 組合を出て、時間を確認する。もう少し手間取ると思っていた冒険者登録だが、予想以上に早く終わってしまった。


「ん?」


 どうやって時間を潰そうか……。そんな事を考えながら歩いていると、ふと、路地裏に小さな影を見た。


「あれは……人間の子供か?」


 背丈から、子供であることがわかる。耳などの獣人特有の特徴も見えなかったので、人間であると思われる。


「なんでこんなところに……」


 ここは、獣王国。人間や他種族も数多く住んでは居るものの、人間の子供が路地裏を一人で歩いていて安全だとは思えない。


「……」


 無視しようか、そう考えたが一度気になると頭から離れない。


「行ってみるか」


 仕方がない、少しだけ様子を見てみよう。

 問題なければそのまま帰ればいいし。


「随分奥まで行くんだな」


 子供の後ろ姿を常に視界に収めながら、後をついて行く。

 既に街並みはガラリと変わっており、周囲の様子は正直スラム街と言われても納得してしまうほど荒れ果てていた。


「このままだと、俺が戻れなくなってしまいそうだ……おっと」


 周りを見渡していると、足元の段差に躓きかけ――。


「見失った……」


 視界を子供に戻した時には、その姿は煙のように消えていた。


「何だったんだろうな」


 子供の歩き方は、明らかに慣れたものだった。

 不思議に思い、思考を巡らせようとしたが。


「そろそろだな」


 もうすぐ、待ち合わせの時間だ。

 ここまで来てしまっては、目的の場所まで遠すぎる。急がないとな。

 そう考え、俺の思考から子供の事はすぐに消え去ってしまった。



 待ち合わせ場所に、ようやく到着する。

 少し道に迷い、かなり遅れてしまった。みんなは待っていてくれるだろうか。


「いたいた……て、あいつら」


 無事、みんなの姿を確認するが……どうやら声をかけられているようだ。


「はあ……しつこいぞウヌら。我らは待ち人がおると言っているではないか」


 声をかけているのは、三人組の男達。しかしミオンとロロは完全に無視を決め込んでおり、リーラが相手をしているようだった。


「えー良いだろ? そんな奴放っておいて俺らと遊ぼうぜ?」

「それともその待ち合わせをしてる奴も、お前らみたいに美人なのか?だったら一緒に来てみんなで楽しもうや」


 明らかに下心アリアリの下品な顔を隠そうともせず笑っている。ミオン達を逃さないようにとでも思っているのか、男達は周囲を囲っているようだ。


「……」


 というか、あの連中……。


「ご主人さま遅いねー?」


 ロロが、ミオンにそう話しかけたのを、男達は聞き逃さない。


「え、なに? あんたら奴隷かなんかなの?」

「だったらその主人って奴に金握らせたら、こいつらとお楽しみも出来んじゃねぇか?」


 連中の目つきが露骨に、変わる。さっきまでは下心見え見えではあったものの、隠そうとしている様子も見えた。

 しかし、抱けるだろう。そう考えた瞬間、隠そうとしていた本性さえもあっさりと曝け出したことが、表情から窺える。


「むしろそいつぶっ殺してやれば良いんだよ。そしたら俺ら奴隷境遇を助けてやった恩人様になれるぞ」


 一人が、そんなとんでもない事を言い出し。


「へへ、そりゃいいな」


 他の奴も、その提案に同調を示した。


「……」


 まずい。俺を殺す。その言葉に反応して、ミオン達の気配が変わる。


「おい貴様ら――」


 リーラが一歩踏み出そうとした刹那。


「あ! ご主人さまー」


 俺は慌てるようにみんなの前に姿を表した。


「あん?」


「テメェ……」


 振り返った男達は、俺の顔を見るや露骨に顔を歪める。そして俺も、正面から連中の顔を見た。

 予想通りと言うか、ミオン達に絡んでいたのは組合で俺に絡んできた連中だった。


「遅かったですねマスター」


 ミオンとロロが俺の元に駆け寄ってくる。


「ごめんな。ちょっと気になる事があってさ」


「おい!」


 背後で連中が声を荒げているが……。


「主がさっさと来ないから、無礼な奴らに絡まれて困っておったのだぞ」


 リーラまでも、相手をするのを止めてしまったようだ。


「……危うく殺してしまうところでした」


 ミオンの発言に、冷や汗をかく。


「……間に合って良かったよ」


 この国では、都市内や町内でのいざこざや喧嘩程度は黙認されているが、殺しはご法度だ。

 ミオンが犯罪者にならなくて良かった……。


「聞いてんのかよ!」


 無視され続け、頭に血が上った男はリーラの肩を掴み無理やり振り向かせる。


「何じゃ、まだ居ったのか。はよ去れい」


 その手をリーラは煩わしそうに払い、今度は彼女が虫でも散らすように手を振った。


「なっ!?」


 その態度が余程気に食わなかったのか、連中の表情が、みるみる赤く染まっていく。


「関わるな。良いから行くぞ」


 これ以上絡んでも、時間を無駄にこそすれ得なんて一つもない。


「はーい」


「ですね」


 俺たちが背を向けこの場を去ろうとした時――。


「糞が! 調子こいてんじゃねぇぞ人間の分際で!」


 男の一人が、腰の剣を勢いよく引き抜いた。


「「「……」」」


 瞬間、ミオン・ロロ・リーラの三名は、俺ですら怯んでしまいそうな殺気を男達に向ける。


「うっ……」


 剣を抜いた男は、途端に萎縮して後ずさる。


「お前ら落ち着け……」


 みんなが怒りをそのままに連中の相手をしてしまうと、簡単に殺してしまうだろう。


「ですが……」


 不満そうにこちらを見やるミオンだが。


「この街では、殺しはご法度だぞ。憲兵に捕えられたら、しばらくはみんなと会えなくなる」


 そう言うと、彼女は大人しく殺気を引っ込めてくれた。


「……」


「仕方ないのう」


 それを見て、ロロとリーラも同じように続く。


「へ、へへ。言い訳しやがって。どうせビビってるんだろ?」


 ……先程あれだけの殺気を向けられて、良くもまあそんな思考に至るものだ。


「殺さねぇ程度に叩きのめそうぜ。その後にこの女たちとお楽しみだ」


 三人が、俺を囲むように移動する。


「発想が勇者やチンピラと変わらないな」


「獣人は友好的なんじゃありませんでしたっけ」


 ミオンが純粋な疑問、という風に聞いてくる。


「まあ、どんな人種にも変な奴はいるさ」


 あの国の王がクズだからと言って、国民全員が同じと言う訳でもない。


「女たちは、離れていた方がいいぜ」

「お楽しみの前に顔や体に傷がついたら萎えちまうからな」


 全く……いい加減、ミオン達をその嘗め回すような視線で追うのを止めてくれないだろうか。だんだん、腹が立ってくる。


「……みんなは離れていてくれ」


 まあ、みんななら万が一にも怪我をすることはないだろうが。


「えー」


「行きますよロロさん」


 不満そうなロロの手を、ミオンが引っ張って離脱する。


「主のスキルだと、恐らく殺してしまうぞ?」


 一人残ったリーラが、小声で俺に忠告をしてきた。


「分かってる」


 俺の【反撃】は、自分の防御力と相手の攻撃力の差が大きければ大きいほど、威力が増す。

 ……なら、相手に攻撃力を上げさせてやればいい。


「お前ら、獣人なら【狂化ビーストブースト】が出来るだろ?」


 獣人だけが使える【狂化】、これはスキルと言うより、種族の特性や能力に近い。

 自身の思考力が著しく下がり、暴走に近い形で暴れてしまうと言うもの。

 しかもこれは一日に一度しか使えない上に、全身が筋肉痛になる副作用付きだ。


「……は? 何言ってやがる」


 当然、おいそれと使うような物じゃない。

 下手をすると相手を殺しかねないし、思考が落ちてる以上、途中で攻撃を止めることも難しいからだ。


「なんだ、使えないのか? 【狂化】すら使えない雑魚獣人が冒険者になるなんて世も末だな」


 だが、相手は元々血の気の多いチンピラみたいな連中だ。こうやって挑発してやれば……。


「――」

「なっめやがって!」

「後悔すんなよ!」


 ご覧の通り、あっさり乗ってくる。


「「「【狂化】!」」」


 三人が、同時に能力を発動する。


「そうだ。それでいい」


 筋肉の肥大化により、身体が二回りは大きくなる。攻撃力、防御力共に相当上昇しているのが窺えた。

 ……確か【狂化】の上昇率は、ニ〜三倍だったか。


「それなら、余程運が悪くない限り死ぬことは無いだろ」


 三人から感じ取れる力は、前回の誘拐犯の頭のそれを大きく超えている。

 俺も当時から更にレベルが上がっているが、この様子を見るに恐らく大丈夫だろう。


「「「ガアアアアア!!!」」」


 完全に準備を整えた連中は、同時に俺へと襲いかかる。


「【反撃】」


 他のスキルは、当然使わない。これ以上防御を上げたら多分、死ぬ。

 爪や剣が、俺へと触れようとした瞬間――金属が勢いよく叩きつけられたような音が、周囲に響く。


「グルアァァァ!?」

「ガッ!?」


 三人は勢いよく壁へと吹き飛ばされ、力なく倒れていた。


「あ、ああ……」

「ああああ!?」

「うぅ……あぁ」


 どうやら、【狂化】も解けてしまったようだ。今頃、副作用と【反撃】のダメージが同時に奴らを襲っていることだろう。


「い、痛えよぉ……」


 奴らの腕は、変な方向に曲がったりズタズタに切り裂かれたような傷が見えたりしている。


「やっぱり獣人って頑丈なんだな……」


 だが、腕が無くなったりしている様子はない。もしかしてこいつら、相当強い冒険者だったのか?

 誘拐犯の時の事を考えても、奴らへのダメージが想定以上に浅いような気がする。

 が、まあ好都合だ。


「この様子なら、歩いて十分帰れるだろ」


 奴らの様子を確認して、そう判断する。放っておけば死ぬような怪我であれば、介抱の必要があったが……これなら診療所などに連れていく必要もないだろう。

 何より、この騒ぎで人が集まって来ていた。早く移動しないと。


「みんな行くぞ」


 遠目で様子を見ていたミオン達に声をかけ、急いでその場を後にした。



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