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最強タンクはやり直す


「――い」


 声が、聞こえる。


「――おい」

 

 何処かで聞いたことのある、憎たらしい声だ。


「おい! いい加減目を覚まさんか!」

 

 ゆっくりと目を開けると、そこは見覚えのある空間。


「全く、他の者は起きていると言うのに」

 

 眼前には、小太りで髭を生やし、煌びやかな装飾に身を包む、俺がこの世界で三番目に憎む男の姿。


「ここは……?」


 懐かしい。王の居座る玉座の間だ。

 まさか、死んでしまうとは情けない。とでも言われるのか。


「ふん、では、説明する」


 こちらを睨み、鼻で笑い、姿勢を正すその姿。

 やはり、王で間違いない。


「ここはカランダイム国、お前たちは全員、この世界へと魔王討伐のために召喚されたのだ」


 ……どういうことだ? その説明は、かつて既にされたもの。


「えーどうして急にー?」


 この声は!?


「私今日ネイルの予約してたんだけど」


 魔法使い、回復師。両名の顔を見やる。

 こいつら……よくも平然と俺の前にっ!


「ふむ、まあ落ち着け。とりあえず、お前たちの職業を見せてくれないか? おい持ってこい」


 その声に、頭に上っていた血が、スッと引くのを感じた。

 まさか、これは……。

 王の声で、メイドが一人、水晶のような物を手に俺たちの前に出てくる。


「こちらに、手をかざしてください。ご職業が表示されるはずです」


 そう言って、水晶を胸の高さまで掲げる。


「俺は、武闘家だな」


 最初に手をかざしたのは、ラフな格好をした坊主頭のスポーツマン然とした男。

 あの時……俺を殺した男だ。


「回復師だって、何それ?」「魔法使いって強いのー?」


 次に、髪を金髪に染めた濃い化粧が目立つギャルのような女、回復師と、歳相応なのか不相応なのか、茶髪をツインテールにまとめている頭の悪そうな女、魔法使いが続く。


「弓術士……」


 その声に、つい振り返る。

 もしや、と考えていたが、信じられないでいた。もしあいつが居なかったら、そう思うと怖くて。だが、こいつが、弓術士が生きているなら間違いない。

 俺は、過去に戻ってきたっ!

 その時、俺が最も憎む、声が耳に届く。


「俺は……」


 そう、あの時俺を騙し、殺した張本人。


「勇者だ」


 スカした金髪を肩にまで伸ばした、いかにもチャラ男と言った風貌の男。

 視界にそいつを収めた瞬間、つい、飛びかかって首を絞め殺してやりたい衝動に駆られる。

 

 だが待て、ここ騒ぎを起こしても、今の俺にはどうしようもない。

 勇者は初期の状態でも相当強かったはずだ。そして俺も恐らく、レベルなどは初期化されているだろう。


「おお! 勇者殿まで来てくれたのか! これでこの国は安心だ」


 自身の溢れ出してしまいそうな感情を必死に抑えていると、そこは既にお祭り騒ぎの様相を呈していた。

周りに控えてる兵士たちも、嬉しそうに肩を叩きあい、小躍りをしているものまでいる。


「と、すまないな。忘れておった」


 そんな中、ただ一人、職業確認をしていない男へ、ようやく思い出したとばかりに聞いてくる。

 ……こんなところまで、前回と一緒か。


「して、お前はなんだ?」


 俺はここで、職業をタンクだと伝え、王に落胆される。

 最初は他の連中も普通に接していたはずだが、俺に対する王の露骨な対応で、少しづつ歪んでいったのだ。


「……」


 もしかしたら、ここで、職業が変わってるかもしれない。そう期待もしていたが、結果は無常にも、見覚えのある文字を表示していた。


【タンク】


「どうした?」


 無言の俺に、王は訝しげに顔を歪める。


「……タンクだ」


「……うーむ、そうか。タンクタンク」


職業を聞いた奴は、自身の髭を撫でやり、わざとらしく唸る。


「タンクってなにー?」「さあ?」


 女二人の、ささやき声が、耳に届いた。


「まぁまぁまぁ。良いだろう。今夜は祝杯をあげよう! 勇者召喚のお祝いだ」


 この後、散々呑んで酔っ払ったこいつは、タンクの俺に対し嫌味をひたすら垂れ流していくのだ。

……もう俺はここに用はない。


「ちょっと待って」


 そんな時、弓術士が声をあげる。

 丁寧に手入れされた艶のある黒いロングヘアーが特徴的な、あの二人の女共と比べても十段以上は美形であろうその相貌。

 何度見ても、目を奪われそうになる。


「私、やるとは一言も言ってないんだけど」


 弓術士が腕を組んで不機嫌そうにそう語る。


「ふむー? しかし、魔王討伐をしない限りは帰れないぞ?」


「なっ!? 無理矢理呼び出しておいてそんな勝手な!」


 王の発言に、弓術士は怒りを露わにして叫んだ。


「まあ、良いじゃないか」


 そんな中勇者が、弓術士の手を取り、胡散臭そうな笑みで微笑む。


「俺が勇者になったんだ。すぐに返してあげるよ」


「は、はあ?」


 取られた手を、乱暴に払いながら勇者を睨む弓術士。


「とにかく! 俺たちが魔王とやらを倒せばなにも問題はない。そうだろう?」


 払われた手を残念そうな顔で見て首をふり、あいつは自信たっぷりな顔で、そう、宣言した。


「うむその通りじゃ。さすが勇者。聡明だのう」


 初めて見た時も、なんだこいつは。と不信感を得たものだが、今更見るとより吐き気がする。


「俺は、失礼する」


 これ以上、こんな気持ちの悪い茶番を見てはいられなかった。


「……なんじゃ、空気を壊すのう」


 王はこちらを睨むように見据えている。


「タンクは必要ない。最初からそう思ってるんだろ?」


 こちらも同じように睨み返し、吐き捨てるようにそう言った。


「なんじゃその口の聞き方は!」


「まあまあ! 良いじゃないですか。行きたいって言ってるんですから」


 怒りを露わにした王を、意外にも止めたのは勇者だった。


「僕がいれば問題ない。そうでしょう?」


 王を見据えにこりと笑う。

 顔だけは無駄に整っているせいで、変に様になっている。


「ま、まあ。そうじゃな」


 勇者の様子に、とりあえず怒りの矛を収めた王。

 それを確認して勇者は、もう一人の男にも声をかける。


「君もどうだい。彼と一緒に行ったら?」


 そこで、奴の狙いがわかった。

 こいつは自分以外の男を追い出したいだけだ。


「遠慮する。それに前衛一人で戦うつもりか?」


 そう問われた武闘家は、それでも脱退を否定した。


「……そうだね。でもくれぐれも僕の邪魔はしないでくれよ?」


「ふん」


 嫌らしく浮かべた勇者の笑みの意味を、武闘家は知ってか知らずか、鼻を鳴らすだけで答える。


「……」


 そんな中、許可は得た。そう判断して、俺は王の間を退出する。


「それでは、あんなやつは放っておいて、盛大な宴を始めよう!」


 背後からは、憎たらしい王のそんな声が聞こえてきた。



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