表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/51

契約のワケ


「もし魔王を討伐した時、俺はお前を全力で擁護する。誰にもお前を傷つけさせない。約束しよう」


 どこにいるかも判然としない紫龍に向かって、俺はそう誓った。


『……そうか』


 紫龍は、少しだけほっとしたようなため息をこぼし。


『助かる』


 一言、そう答える。


「だが、お前は口約束で信用出来るのか?」


 ……俺自身は、紫龍に対する疑いは薄い。しかし、こいつはそうでは無いはずだ。


『ふふ、心配いらない』


 紫龍がそう答えた瞬間。


「う……」


 レベルアップの時とは違う謎の目眩が、俺を襲う。


『契約はここに成立した! 龍の魂を触媒とした契約だ。我はお前を裏切らず、お前も我を裏切ることは許されない!』


 ドラゴンの……契約魔法?


「そんな魔法があったのか……」


『ああ、お互いが納得した時、初めて発動出来るものだ。これが発動した時点で、お前が私を信用してくれた証となる……礼を言おう』


 声だけでも、紫龍が相当喜んでることが伝わる。


「いいさ」


 目眩はすぐに治り、自分の中に、不思議な感覚が宿っているのが分かった。

 これが、契約か。


「それで、もう行ってもいいのか?」


 紫龍が望んだ事も、もう済んだだろう。用事がこれで終わりなら、俺は早く町に戻りたい。


『む? 随分とそっけないな』


 そんな俺に、紫龍は何故か少し寂しそうだった。


『私達はもう、魂で繋がった盟友も同然。もっと語り明かしても良いのだぞ?』


 こんな真っ暗な森の中で、姿も見えない奴相手にか?

 誰も通りかかることはないだろうが、見られたら完全に変な奴だと思われる。……今でも相当怪しいはずだ。

 それに。


「町で、俺を心配そうに待ってる人がいるからさ」


 宿で待っている、二人を思い浮かべる。自然と、笑顔になってしまった。


『むう……。ならば仕方あるまい』


 そんな俺に、納得はしてないが、しょうがない。とばかりに帰宅の許可を出す。


『どうせこれからいくらでも話せるのだ! 行くがいい!』


「ああ、それじゃあな」


 虚空に向かって手を振り、俺はその場を後にした。



「紫龍か……」


 前回の世界で、魔王を裏切った二体のドラゴンがいた。それは十二使龍の内の二体。紫龍・白龍。

 俺たち勇者パーティーは、十二使龍の内七体を殺している。そして他の三体を、紫龍・白龍の力を借りて獣人達が駆逐したのだ。

 そしてその時の戦闘で、味方をした二体の龍も、戦死したと聞いている。

 自身を犠牲にしても、その身を投げ打って助力してくれた二体の龍。俺が紫龍の提案を疑いもせず飲んだのは、そんな理由からだった。


「……」


 俺は、龍二人とは面識がない。だが、前回の世界で伝え聞いた話では、二体の龍は最後まで世界の未来を案じていたと聞いている。

 この世界でも、奴らがその心を持っているのなら、紫龍は心強い味方となるだろう。


「……これから?」


 紫龍達の事を考えながら帰宅についていたが、ふと、紫龍の最後の言葉が引っかかる。


「なんで俺と知り合う奴には、含みを持たせるような言い方をする奴しかいないんだ……?」


 何故か嫌な予感がするが……まあ、気にしないことにしよう。



「マスター!」


 宿に戻った俺に、開口一番、ミオンが抱きついてきた。


「んぐっ!」


 頭までしっかりと抑えられ、息ができない。


「ちょ、離してくれ……」


 腕を軽く叩き、解放を要求するも。


「……いやです」


 拒否されてしまった。


「……」


 それだけ、不安にさせてしまったという事か。


「普段冷静なのに、変な所で意固地だよなミオンは」


「私が感情を露わにするのは、マスターに関することだけです」


 確かに言われてみると、そうかも知れない。


「……嬉しいけどさ」


 照れ臭さは残るものの、ミオンのそんな気持ちは、嬉しい。それが俺の本音だった。


「おにいちゃんかえってきた〜?」


 完全に眠りこけていたであろうロロも、俺たちの騒ぎで目を覚ます。


「はい、帰ってきましたよ」


 ようやく俺を解放してくれたミオンは、そんなロロの元に歩み寄り、頭を撫でている。


「じゃーねよー? ロロもうねむい……」


「ふふ、そうですね」


 なんだか二人とも、嬉しそうだな。


「……本当に三人で寝るのか?」


 せっかくベッドが三つもあるんだから、わざわざ一つに集まらなくても……。


「当然です」


 当然なのか。


「ベッドが三つもあるのに?」


「とうじぇんでしゅー」


 ロロなんかもう呂律も回っていないじゃないか。


「私は、マスターのお願いを受け入れました」


 突然、俺の頭をがっしりと掴み、ミオンが見つめる。


「今度はマスターが、私達のお願いを受け入れませんか?」


「うっ……」


 先程の意趣返し、と言うわけか。


「わ、わかった」


 だがそんな事を言われたら、もう拒否なんかできそうもない。


「ありがとうございます」


「ねよ〜」


 渋々と、ミオン・俺・ロロの順でベッドに寝る。


「明日、生きていると良いな……」


 両腕を二人にがっしりと掴まれながら、何故かちょっとだけ走馬灯が見えたような気がする。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ