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龍からの呼び出し


「つ、疲れた……」


 その後、散々逃げ回った挙句、ふらりと現れた町長が暴走する町人達を抑えてくれた。

 しかしそんな町長に、是非宴を開かせてくれ。そう懇願され、結局夜遅くまでどんちゃん騒ぎに付き合わされる事となる。


「お疲れ様です」

「おつかれさまー」


 ふらふらになりながら部屋へと入ってきた俺を、先に戻って休んでいた二人の声が、出迎える。


「アイツら、好き勝手引っ張り回して……」


 宴では、男の獣人に力比べを挑まれ、複数の女の獣人には求婚までされる始末。

 あれでは俺を称える宴とは名ばかりの、ただ騒ぐだけの祭りでしかないだろう。


「でも、とても素敵な部屋を用意していただけましたよ?」


 今俺たちがいるのは、町長が用意してくれた町でも最高クラスだと言う宿。


「……そうだな」


 言うだけあり、前回の町で泊まった宿とは違い高級感が漂う広い一室だった。

 現代にいた頃で例えるなら、高級ホテルのスイートの雰囲気か。


「おふとんふかふかー!」


 ロロはというと、既に部屋へと馴染み、大きなベッドをトランポリンのようにして跳ねている。


「ベッドが三つ……それだけでなんて素晴らしいことか」


 そう、それこそがこの部屋の素晴らしいところ。

 ベッドがきちんと三つある。


「何か言いましたか?」


「いや、なんでもない」


 もしかしたらあの町長に、変な気を遣われるんじゃないかと不安に思っていたが杞憂で助かった。


「とにかく、早く寝るぞ」


 しかし、そんな余韻に浸っている場合ではない。


「そして明日、書き置きでも残してこの町を去るんだ」


「そうですね、町の皆さんには少し申し訳ないですが……」


 今宵の宴を思い返す。


「仕方ない。あの様子だとしばらく解放してもらえそうにないからな」


 下手をすれば、一生解放されないんじゃないかと言う恐怖すら覚えてしまう。

 そんな様子を想像し、首の裏を嫌な汗が流れた。


「……なんだ?」


 そんな時、部屋の窓に……ガンッ――と衝撃が走った。


「魔力反応などは、ありませんね」


 ミオンが周囲を警戒するが、不審な気配はないと言う。


「風か?」


 ……いや、そんなものが立てる音では無かった。

 警戒しながら、窓を開ける。


「……矢文?」


 そこには、矢が一本と……括り付けられた手紙が一つ。


「この世界にも、そんな文化があるのか?」


 矢を引き抜き、付いていた手紙を取り出す。


「マスターへの恋文でしょうか」


 横からは興味深そうに、ミオンが覗き込んできた。


「あの宴で散々告白されたのに、今更こんな伝え方してくる奴がいるか?」


 女の獣人の積極性については、今日だけでも嫌という程思い知ったが……。


「一体誰が……」


 手紙を開くと、そこには思ってもいなかった言葉が紡がれていた。


「……」



 〔拝啓、勇者殿〕

 今夜、月が天の中心にて輝く頃。

 町を出て東へと進んだ森の中にて待つ。必ず、一人で来い。

 来なければ……確実に後悔する事になるだろう。

 貴殿が、賢明な判断を行う事を祈る。

   〔紫龍〕



「紫龍だと……十二使龍の一匹のか?」


 そこに書かれていたのは、決して無視できない名前。


「何故、こんなものを」


 赤龍との戦いを覗き見られていた。と言う事だろうか。


「行くんですか?」


 手紙を見つめる俺に、ミオンが問う。


「当然だ」


「では……」


 俺の返答に、そそくさと準備をしようとする彼女を止める。


「お前は留守番だ」


「ですがっ!」


 珍しく、怒りの感情を露わにするミオン。


「何があるか分からないだろ?」


 それに、手紙には一人で来いと念を押されていた。


「だからこそ、一人で向かうことには反対です」


「……俺を、信用してくれないか?」


 ミオンの瞳を見つめ、そう、語りかける。


「……その言い方は、ずるいです」


 彼女は見つめる俺から視線を逸らし、寂しそうに呟いた。


「ごめん」


 俺には、謝ることしか出来ない。


「一つ、約束してください」


「約束?」


「絶対、帰ってきてください。……約束は、守るんですよね?」


 約束をしなければ、意地でもついていく。そんな強い意志を宿した瞳が、俺を貫く。


「……そうか、わかった。約束しよう。俺は必ず、帰ってくる」


「破ったら、マスターは嘘つきになりますからね?」


 泣きそうな表情を浮かべる彼女を、そっと抱きしめた。


「ああ」


「むにゅー。おにいちゃん、どこかおでかけ?」


 少し騒がしかったか。いつの間にか眠りこけていたロロが、目を擦りながら起きてしまう。


「心配ありませんよ。マスターは少し、お散歩に行くだけです」


 ミオンは俺の腕からするりと抜け出し、上半身を起こすロロの横に腰掛け、背中を摩る。


「ロロさんは、私と一緒に寝ましょう」


「うん〜」


 再び横になったロロは、今にも寝てしまいそうだ。


「……」


 そんなまるで親子のようにも見える二人を、黙って見つめる。


「は!? 待て! 一緒に寝るのは!」


 そうだ、ロロが潰されてしまう!


「大丈夫ですよ。マスターのように、力一杯抱きついたりはしませんから」


 慌てた俺の様子に察したのか、いたずらをした子供のような表情でミオンは言う。


「やっぱりワザとだったんじゃ……」


 あの時の、トラウマとも思える状況が頭をよぎった。


「ふふ、早く帰ってきて、三人で一緒に寝ましょう」


「はやくかえってきてね〜」


 ベッドから手を上げる、眠そうなロロの声。そして、こちらを見つめるミオン。


「……ああ、わかったよ」


 そんな二人を見て、絶対に戻る。より一層、決心を固めた。



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