町人の反応
「……ん?」
ドラゴンを倒し、早くミオンの元に戻らなくては。そう思い踵を返した視線の先。
「お、お……」
そこには、何十以上かも分からない人数の獣人が、目を丸くして俺を見つめていた。
「おおおおおおお!」
そして俺と目が合う瞬間、大量の人の波が俺を目掛け押し寄せてくる。
「な、なんだ!?」
人の波は俺を揉みくちゃにしながらも、どうやら称賛の声を上げているよう。
「すげえ! すげえぞ!」
「勇者様だ!」
「な!? 俺をアイツと一緒にするな!」
あんな奴と間違われるのだけは看過できない!
「勇者様! 勇者様!」
しかし、彼らは俺の声が聞こえていないのか、腕や服を引っ張ったりと混乱は苛烈を極め始めている。
「は、放せ!」
そんな時、聞き覚えのある声が、俺の耳に届く。
「マスター、こちらへ」
「え?」
声の主の姿を認識する暇もなく、強烈な力が横から腕をひっぱり群衆から救い出してくれる。
「た、助かった……」
人の壁ともとれる群衆をようやく抜け出し、尻餅をついてため息をこぼす。
「格好良かったですよ、マスター」
そんな俺に、頭上から救い出してくれた張本人。ミオンの声が聞こえた。
「よかった!」
後ろには、ロロの姿もある。二人とも、怪我はないようだ。良かった。
「ああ……ありがとう」
ん? 怪我はない?
「……ミオン、お前」
目の前に立つ彼女は、平然とした表情で、両の足をしっかりと地面につけ立っている。
「あ、足は?」
そこには、先程の怪我は消え去り、傷の跡すら見る影もない。
「治りましたよ?」
「は?」
ど、どういう事だ? と頭は疑問で埋め尽くされる。
「自動人形ですので」
そんな俺に彼女は端的に、答えた。
「自動人形って……そういう……」
つい、こめかみを押さえてしまう。
あの時の怪我は、人間じゃないから痛みを感じないとか、心配するなとか言う意味じゃなく。
「?」
すぐに治るから大丈夫という意味だったのか……。
「俺の怒りは……ただの空回りだっただったわけだな」
話をきちんと聞かなかった俺が悪いとは言え、なんか、滑稽だ。そう思ってしまう。
「……そんなことはありませんよ。私などの為に怒ってくれて、とても嬉しかったです」
落ち込む俺の手を握り、ミオンは柔らかく微笑む。
その顔は、今まで見たミオンのどんな表情よりも輝いて見えた。
「ま、まあな」
それに対し、つい照れて目を逸らしてしまう。
「それに、マスターのおかげでこの町も最小の被害で済みました」
そのまま町を見渡すミオン。その視線を追う。
確かに町の惨状は、ドラゴンに襲われたにしては大分マシだと言えるかもしれない。
「ドラゴンを倒すことは最初から決めていた。町が無事だったのは、結果論だ」
「それでも、皆さんは感謝していると思いますよ?」
そんな事を言いながら、俺の後ろに視線を向ける。
……嫌な予感がする。
そう思い、恐る恐る振り返ると――。
「あっちにいたぞ!」
「勇者様ー!」
俺が集団の中に居ないことに気づいた町の住人達が、こちらに目掛け迫ってくる光景。
「げ……」
もう一度あの波に飲まれてはたまらない。
俺はミオンとロロの手を引き、しばらくの間町の中をひたすら逃げ回り続けることになった。
♢
……そんな彼らを、はるか上空から覗き見る、一つの影。
『ふふ……面白いモノを見つけた……。勇者、か』
その影はそれだけを呟き、姿を消した。




