表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/51

討伐、そして裏切り


「へっ! 覚悟しろよ魔王」


 そう言って勇者は聖剣を構え、魔王へと対峙する。

 それに対し魔王は、やや落胆を含ませた声で勇者へと返答した。


『そんな装備で、私を倒せると思っているのか?』


 勇者の装備は、見た目も美しい純白の鎧。

 しかし、それは見た目に凝っていると言うだけ。特に大した能力もなければ付加もない。戦闘に関して言えば、完全に邪魔なだけの代物だ。

 魔王を前にして、着けるような物ではない。


「さてな。おい! 早く前に出ろ」


 それを知ってか知らずか、やけに強気な勇者はメンバーへと指示を出していく。


「……分かってる」


 俺は勇者の前に歩み出し、盾を構えた。今日、こいつを倒せば、全てが終わる。こんなことはもう最後にしよう。


「魔法と回復も頼むぜ!」


 勇者は背後で待機している、二人にも声をかけた。


「はーい」「任せてー!」


 二人はそれに答え、声をかけられたのが余程嬉しいのか、魔法使いの方は手まで振っている。


『……ふん、愚かな。では死ぬがいい』


 他のメンバーも見やり、完全に失望した。そんな声音で、魔王はまず後衛の二人へと、右手から球状の黒い闇の塊のような物を打ち出す。


「……【援護カバー】」


 その球体と奴らの間に、俺はスキルを使い割り込む。

 そして、盾によりいとも容易く弾き返した。


『な!?』


 余程自慢の攻撃だったのか、防がれた魔王は明らかに動揺している。


「隙あり!」


 そこに、聖剣を振りかざした勇者が現れ、魔王の突き出したままの右手を切り落としていく。


『グアァァァアアアアア!?』


右手を失い、絶叫をあげる魔王。


『な、なんだお前は!?』


 右腕を抑えながら、憎々しげにこちらを睨み言い放ってきた。


「勇者さ」


 魔王の雄叫びに、何を勘違いしたのか、勇者が聖剣を肩に乗せ、自慢げに名乗っている。


『違う! 今の傷は貴様の力量ではない、聖剣に依るものだ! 貴様などどうでもいい!』


 そう言って、勇者の発言を一蹴し、再度、こちらへと目を向けた。


『何故! お前は無傷なのだ!!!』


 明らかにこちらを見て叫ぶ、が。


「……」


 それに対し、無言を貫く。今日ここで死ぬ相手に、自己紹介は不要だ。


『答えないか。それもいい、ならば、私の最強の秘術を持って、この世から永遠に消し去ってくれる!!!』


 そう叫ぶと、一瞬にして魔王の周囲に魔力が集まっていく。

 本気の一撃を決めるつもりらしい。


「【不動】【鉄壁】【堅城】……【防殻】【守護】【聖域】」


 それに対し、俺も自身のスキルを発動していく。

 いくつか使用回数制限のあるものや、使用後にデメリットを喰らうものもあるが……ここで終わらせてしまうのなら、問題ない。


「……【絶対防壁】!」


 体力を10%だけ残し、代わりに防御を10倍にするという、最後の切り札。

 全てのスキルで上がった防御が、これにより更に跳ね上がる。


『死ね! 終焉乃牢獄エンドゲート!』


 魔王の方も準備が済んだのか、膨大な魔力を一身に宿し、魔法を放つ。

 頭上から、巨大な目が現れ、ここにいる全てを焼き払わんとする光線の牢獄が、俺たちを襲った。


「この程度か……?」


 目からの光線が止まり、動くものが何も無くなった広場に、俺は一人、立っていた。


『ば、馬鹿な』


 魔力を全て使い果たした魔王は、渾身の一撃を受け切られ、絶望へと顔を歪めている。


『お前は一体……何なのだ––!?』


 叫ぼうとした刹那。


「よそ見してんじゃねぇよ」


 背後から、勇者の不意の一閃が、魔王の首を落とした。


「何だ、魔王だって言うから期待してたのに、てんで大した事なかったな」


 チリとなり消えていく魔王を尻目に、勇者はつまらなそうに呟いている。


「私何もしてないんだけどー」「これちゃんと報酬貰えるの?」


 はたから見れば、一瞬でかたがついてしまった為、魔法使いや回復師も文句を垂れているようだ。


「安心しろって、俺がちゃんと言ってやるから。そ、れ、に。今夜は二人ともとことん可愛がってやるぜー」


 嫌らしそうな笑みを浮かべ、両手をワキワキと動かしている。


「きゃー!」「ほんとスケベだよね」


 満更でもないのか、二人とも嬉しそうだ。


「ふう」


 一方俺は、そんな三人を尻目に、全てのスキルを解除してホッと一息つく。

 そう言えば、武闘家の奴を見かけないが、何処へ行ったのか。


「……ああ、お前は来なくていいぞ」


 周囲を見渡していた俺に、勇者の冷たい声がかかる。


「は?何を言って……」


 振り返り、発言の意味を問おう、とした。


「……すまない」


 その時、背後から謝罪の言葉と、想像を絶する痛みが、俺を襲う。


「が……はっ! な、なんで!?」


 倒れ込み、血を吐き、理解の追いつかない頭が、ようやく発した言葉が、何で? だった。

 そしてあの声は、武闘家。何故、今こんなことを!?


「お前は知らなかっただろうがな、魔王を倒したら現実に戻れる。あれは嘘だ」


 混乱冷めやらぬ頭に、勇者から衝撃の一言が発せられた。


「なっ!?」


 地面に倒れ伏す俺に、勇者は楽しそうに近づき、しゃがみ混んでこちらの目を覗き込む。


「だからよー、お前、絶対駄々こねるじゃん? 魔王討伐の報酬もワケマエ減るしよー。死んでくんね?」


「!???」


「ま、死んだら向こうに戻れるかもしれないじゃん? むしろ俺ら優しくねー?」


 理解が追いつかない。追いつかない。追いつかない。


「優しいー」「この世界嫌がってたみたいだしこれも親切心だよね」


 何を言っているんだ、こいつらは?


「……知っていたのか」


 勇者の背後に立つ、武闘家を睨む。


「ああ、俺も奴らと同罪だ。恨んでくれて構わない」


 何をいけしゃあしゃあと。そう言えば、自分の罪が軽くなるとでも思ったのか?


「ぶっころ、して、やる……!!!」


 声に、全ての憎悪を乗せ、吐き出した。


「おいおい、さすがタンクだな。ほんとしぶといぜ」


 指一本も動かない体を、勇者が頭を掴み、無理矢理持ち上げる。


「じゃあな」


 そう言って、ニヤリと笑い、俺に対し聖剣をかかげ。


「あの世であいつに謝罪でもするんだな」


 振り、下ろした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ