さっさと洞窟は抜けよう
「あの、マスター」
「どうした?」
戻ってきたミオンは、ある一部の茂みを指差して言う。
「あの茂み、怪しくないですか?」
指を指すそこは、その部分だけ不自然に草が多いように思えた。そこに近づいていくと、左目につけていたモノクルが赤く反応する。
「ああ、ビンゴだ」
ここには、意図して隠された何かがある。恐らく、抜け道。
「よく見つけたな」
横に立っていたミオンの頭を、つい撫でてしまう。
「は、はい……」
ミオンは言葉に詰まったのか、顔を下に向けて黙り込んでしまった。
……怒らせてしまったか?
「おねえちゃんだけずるい!」
そうしていると、ロロが我慢の限界!とばかりに俺の空いている腕に抱きついてくる。
「ロロも!」
そして抱きついたまま、一生懸命背伸びをして頭を向けてくる。
「はいはい」
仕方ないな……、とミオンの頭に置いていた手を今度はロロへと向ける。
「ふゆぅ〜」
……気持ちよさそうな表情で猫撫で声を出すロロに、不覚にも父性のようなものを感じてしまった。
「仕方ないやつだな……」
しばらく頭を撫で続けていると、満足したのかロロは離れる。……その間、不思議とミオンが睨んでいた気がしたが……まあ、気のせいだろう。
「よし、行ってみるぞ」
謎に時間を浪費してしまったが、ようやく動き出せる。
怪しい茂みをかき分けると、そこには案の定、人一人がやっと通れるであろうかと言うサイズの穴が隠されていた。
「これは、洞窟か」
「そのようですね」
ミオンと二人で覗き込むが、中は暗く数メートル先も見えそうにない。
「まさか、こんなサイズの洞窟が反対まで続いてるのか?」
いや続いているのなら、まだいい。これが途中で途切れていた方が目も当てられない。
「失礼します」
考え込んでいると、ミオンが洞窟の入り口へと立ち、目を凝らすように睨みつけた。
「……どうやら、反対まではしっかりと繋がっているようです」
そして、手を壁へと合わせ。
「壁には魔法で強化がされているようですね、かなり高レベルのものだと思われます」
「魔法?」
……まさか、魔法使いの奴か?
「いや、アイツはこの時点では、まだそんなもの使えなかったはずだ」
俺はアイテムの補正とスキルで順調にレベルを上げているが、現時点で勇者達はまだ十レベルにすら到達していないはず。
それに戦闘職と違い、魔法使いや回復師は大器晩成型。今の時点では初級魔法が関の山。
しかしそれでは、この洞窟全てに魔法をかけられるような奴が他に存在することになる。
「……あの誘拐犯達にそんな魔法が使える奴が居たとは思えないが」
居たのなら、逃げずに襲いかかってきはずだ。
であれば、王宮直属の高位魔法使い……?
「……まさかな」
いくらなんでも、木端のゴロツキと王宮を結びつけるのは突飛過ぎるか。
「通るのをやめておきますか?」
悩み過ぎていたせいか、ミオンがそう提案してくる。
「……いや、行こう」
向こう側まで繋がっているのなら、ここを通らない手はない。
「分かりました」
「俺が先頭、ロロを挟んで後衛がミオンだ。いいな」
もし何かあるのなら、先頭の方がより危険度が高いはず。
「はい」
「わかったー!」
♢
「くそ……思ってたより暗いな」
入り口から分かっていた事だが、洞窟内は予想以上に暗く足元すら見えない。
「おにいちゃんおにいちゃん」
そんな時、後ろを歩いていたロロが服の裾を引っ張ってきた。
「ん?」
「ぼたんみたいなのがあるよ」
気配から、どこかを指差していることがわかる。
「見えるのか?」
「?」
今恐らく、ロロは不思議そうに首を傾げているのだろう。
「そうか、獣人は夜目が利く種族もいるんだったな」
多分、ロロはそういった能力に秀でているのかもしれない。
「ありがとう」
「ふみゅう」
どこにいるのか分からないロロを、手探りで見つけて頭を撫でてやる。
「……これか」
そしてもう片方の手で壁を探っていると、突起のような物がある事が分かった。
それを、ついそのまま押してしまう。
「――!?」
その瞬間、撫でられていたロロが声に出ない悲鳴を上げて抱きついてくる。
「あ……」
「マスター、事前に一声頂けませんと」
そうか、夜目が利くと言うことは、急に明るくなることに弱いと言うこと。
「ごめん、ごめんなロロ」
目をぎゅっと閉じて、震えながら抱きつくロロに謝りながら、安心させるように背中を撫で続ける。
「だ、だいじょうぶ」
しばらくそうしていると、ようやく落ち着いてきたのか震えが止まった。
「ほら、手を繋ごう」
それでもまだ涙目なロロの小さな手をそっと握ってやると、ようやく笑顔を見せてくれた。
「うん!」
そんな俺たちの光景を、ジトっとした目で見つめる、影が一つ。
「……マスターは、ロロさんに少し過保護過ぎませんか?」
「そ、そうか?」
「そうです」
……視線が痛い。
「……」
ミオンの無言のプレッシャーに耐えられず、つい目を逸らしてしまった。
「さ、さあ早く行こう」
このままここに居ては胃に穴が空いてしまう。
「……(宿に着いたら覚えてろ)……です」
出口に向けて歩き出そうとした背中に、ミオンの小さな声がかかったような気がした。
「何か言ったか?」
振り返って問いかけるも。
「いえ」
そこには、いつもの無表情をしたミオンの姿。
「そうか」
どうやら、機嫌は治っているようで安心する。不機嫌は一過性のものだったのだろうか?。
とにかく、良かった。
あのままの状態だと、流石に気不味過ぎるからな。




