ロロとの約束
「【反撃】」
ガァン!!! おおよそ、人体からは発しないであろう轟音が、辺りを包んだ。
「へへ……これでお前の頭も真っ二……へあ?」
男の腕は、肘から先が無くなっている。
「お、俺の腕があぁぁぁぁぁぁ!?」
無くなった自身の腕を見つめ、痛みに耐えられないのか地面を転がり絶叫をあげる。
「腕だけで済んだのか。思ったより強かったんだな、お前」
レベル一の勇者で、顔が歪み歯が折れるぐらい、だったか。あの時よりレベルが上がってはいるはずだが、それでもここら辺で倒した魔物はどいつも一撃で消し飛んでいた。
そう考えると、こいつの強さが相当なものだった事が窺える。
「か、カシラ!?」
「こ、こいつ。よくも!」
周囲にいた子分たちが、自分の親玉がやられたことで頭に血が上り、こちらへと一斉に剣を向ける。
「良いのか?」
「な、何を……」
「お前らは、明らかにあいつよりもパワーが劣っているだろ?そんな筋力では」
取り囲む三人の男たちを、睨みすえる。
「あいつより、凄惨な反撃を喰らうぞ?」
おそらく、道中の魔物達のように。
いや、下手に実力があっては、即死できない分余計に辛い目にあうだろう。あの男のように。
「ひっ……」
こちらの威圧に、男たちは一歩、後ずさる。
「まだやるか?」
それに対し、こちらから一歩、近づいてやった。
「うわあああああああ!?」
その瞬間、蜘蛛の子を散らすように連中は逃げていく。
「待て! お前ら、俺を置いていくな!?」
その場に残ったのは、俺たち三人と、腕を失くし既に戦える状態では無くなった、カシラ。
「……」
そいつに、無言で近づいていく。
「ま、待て。望みはなんだ? 金か? 女か? なんでもやるぞ!」
「……どうせそれも、奪ってきたものだろ?」
「ならどうしたら良い!? どうしたら助けてくれる!? 俺はこれしか知らねぇんだよ!」
俺は、無様に地面へと平伏している男に侮蔑を込めた視線を送り、横を通り過ぎた。
「どうもしないさ。部下にも逃げられ、その致命傷。どうせ長くは持たない」
背後で待っていた二人に、行こう。と合図をし、その場を去る。
「お、おい! 待て。助けてくれよ! 置いていくな!?」
背後では、男が喚いている声が聞こえる。
「おーーーーーーい!?」
その声はしばらくの間、耳障りにも響き続けていた。
♢
「もう目を開けても大丈夫」
男の声が聞こえなくなったのを確認して、ミオンへと声をかけた。
その後ろには、両手で耳を塞ぎ硬く目を閉じているロロの姿。
おそらくあの光景を見せないように、ミオンが指示していたのだろう。
「ふぇ?」
ミオンに肩を叩かれ、ロロはようやく、目を開けた。
「こわいおじさんたちは?」
キョロキョロと周りを見渡すが、奴らは当然、既にいない。
「マスターが退治してくれました。もう大丈夫ですよ」
誇らしそうに語るミオンを見て。
「へー! すごい! おにいちゃんつよいんだね!」
キラキラとした瞳で、ロロは俺を見つめてきた。
「そうです。マスターは凄いんです」
「なんでお前が嬉しそうなんだ……」
ロロの純粋な眼差しに、少しだけ照れ臭さを覚えるも。
「ま、まあ。約束したからな」
俺は頬をかきながら、そう答えた。
「やくそく?」
「ああ、お前を街まで送り届ける。そう約束しただろ」
そう、約束。
「俺は、絶対に約束は守る。そう決めたんだ」
「ほえー!」
俺の顔を、ロロは興奮したように頬を赤く染め見つめている。
「……ロロさんロロさん。こちらへ」
「?」
そんなロロに、ミオンは手招きをして呼び寄せていた。
「……何をしてるんだ?」
二人して、こそこそと内緒話か?
「! ……ねぇねぇおにいちゃん」
一瞬、ロロの顔が輝き、こちらへと駆け寄ってくる。
「……なんだ?」
「じゃあ、わたしのことをまもってくれるんだよね?」
国までの護衛、ということか?
「? ああ、そうだな。守るぞ」
「!? やった!」
唐突に、飛び跳ねて喜ぶロロ。
「な、なんだいきなり」
意味がわからない。
「わたしのこと、ちゃんとまもってね!」
そう言って、ロロは俺の腕へと抱きついてきた。
「こ、こら。急に抱きつくんじゃない!」
「えへへ!」
そんな俺たちの様子を、ミオンは微笑ましそうに、見つめていた。
……何か、とんでもないことになっているんじゃないか? そんな予感がする。




