旅路は順調にはいかない
俺たちは、獣人の国を目指し歩みを進めている。
「ねーねー、お姉ちゃん」
ロロは、すっかりミオンに懐いたのか、姉妹のように手を繋いで歩いていた。
「なんですか?」
「あれなに?」
こちらを指差す。そこに立っているのは、俺と、あいも変わらず消し飛んでいく魔物達。
「あれは、マスターの特技です」
ミオンはロロの頭を撫で、子供にでも語りかけるような優しさで接している。
……あれが懐かれるコツなのか?
それにしても。
「人のスキルを宴会芸みたいに言うんじゃない」
まあ、はたから見たらおかしな光景に映るのはわかるが。
「……それにしても、思ったよりレベルが上がらないな」
この道中でも結構魔物は倒したはず。指輪の効果と、ミオンを見つけた屋敷の分を合わせても、そろそろ次のスキルを獲得してもいいはず……。
「……あ」
「どうかしましたか、マスター」
……屋敷では、ミオンから腕輪を受け取ったのですぐに帰ってしまったんだった。
「いや、なんでもない」
……仕方ない。それでも、もうすぐでレベルが上がるはず。
「とりあえず、急ごう」
「はい」
「はーい!」
三人仲良く、街道を歩いていく。
そんな折、変な集団が街道の小脇から飛び出してきた。
「おい!」
人数は四名。中心にいる筋骨隆々な男と、その周りには子分らしき男が三名。
「なんだ?」
「へへ、やっと見つけたぜ。ここで張ってれば絶対に通ると思ってた」
リーダーらしき男は腰から剣を引き抜き、こちらを……いや、ロロを見つめていた。
「あう……」
ロロは怯えた顔で、ミオンの背後へと隠れる。
なるほど。
「……ロロを誘拐したのはお前らか」
「あん?なんだお前」
男は、今気づいたとばかりにこちらを睨み。
「カシラ、後ろの女……」
ロロが隠れているミオンを見て、嫌らしく舌なめずりをした。
「……へへ、可愛いじゃねぇか」
あいつの頭の中では今、一体どういう妄想が行われているのだろうか。
……非常に、不愉快だ。
「こんな道を歩いてちゃ、俺たちに攫われたいって言ってるようなもんだよな」
そう言いながら片手に剣をぶらつかせ、不用意に近づいてくる。
「……」
それを、黙って睨んでいる俺たち。
「男の方はどうしやす?」
「さっさと殺しとけ」
それを怯えている。と勘違いしたのか、相手はなんの緊張感も見せようとはしなかった。
「へい」
「俺は、女の方と楽しんでるからよ」
そう言って、俺の後ろにいるミオンへと、片手を伸ばしてきた。
「触れるな」
その汚らしい手を、払い除ける。
「あ?んだお前、恐怖で声も出せてなかったクセして、女の前だからってカッコつけてんのか?楽に死にてぇならすっこんでろ!」
こちらの態度が余程気に食わなかったのか、分かり易い殺気を俺に向ける。それに反応したのか、背後のミオンからそれ以上の不穏な気配を感じた。
「ミオン抑えててくれ」
それを、制止する。
「試したいことも、あるんだ」
それは、魔物以外でも経験値は貰えるのか、と言う事。
……俺は今日、初めて、人を殺すかもしれない。
「お、おにいちゃん……」
ミオンの後ろから顔を覗かせ、不安そうにこちらを見ているロロ。
「ロロは、ミオンの後ろに隠れてるんだ」
それを安心させてやるように、ふり返ってニヤリと笑う。
「う、うん」
それを見ていた男は、顔を歪め、怒声をあげる。
「俺は、テメェみてぇなスカした野郎が何よりも嫌いなんだよ!」
その手に持つ剣を頭上へと高く振り上げ。
「死ねぇ!!!」
俺へと、叩きつける。




