町への道中、ミオンの疑問
「それにしても、マスターの……【反撃】でしたか。それは凄いですね」
俺たちは、獣人の国に向けて歩を進めていた。
そんな道中でも、【反撃】の効果は如何なく発揮されている。
「そうだな。自分でもびっくりしてる」
ただ歩いてるだけでも俺へ攻撃を向ける魔物などは、勝手に自滅していく。
俺自身のレベルが上がってる事もあるだろうが、ミオンから受け取った腕輪の効果もあるだろうか。
「五十レベル相当の力でも、驚くものなのか?」
また一匹、狼型の魔物、ワイルドウルフの首が飛ぶ。
「はい、私の戦闘能力は肉弾戦闘で対個人を想定しているものなので」
「そうか」
集団戦は苦手、という事だろう。
確かにこのスキルは、どちらかというと大群にこそ真価を発揮するものだ。
「制限などはないんですか?」
襲いかかる魔物達が、勝手に吹き飛んでいく光景を興味深そうに見ながら、聞いてくる。
「ああ、ないぞ。一度使用したら、自分の意思で解除するか、俺の防御を超えた攻撃で破壊されない限りは効果が続くみたいだ」
一番驚いたのがこれ。
防御を上げるスキルはそのどれもがマイナス効果を持っている。だが、不思議なことに、このスキルには制限がない。
勇者達の攻撃スキルにも、たいして制限がなかったと記憶しているが、これも攻撃スキルと同じ項目なのだろうか。
「私などが触れても、大丈夫なのでしょうか」
それを聞かれて、ふと、疑問になる。
「そうだな。どこからが、相手の【攻撃】として認識されているんだろうか」
そこら辺の判定を調べていなかった。
「私で試してみましょうか」
右手を伸ばし、俺に触れようとしてくるミオン。
「……やめておこう。ステータスの詳しい数値もわからないしな」
その手を俺は、スッ、と避けた。
ステータスの詳細は、王城で見た職業を調べる水晶でしか測ることは出来ない。しかし俺は、この世界に来て一度たりともステータスを調べたことがない。……いや、見せてもらえていない。
だから俺は、スキルやアイテムにある上昇効果やデメリット効果を、良く分からずに使っている事がある。
まあ、防御上昇は効果が分かりやすく実感できているので問題ない。
「それに、俺から触れる分には大丈夫みたいだしな」
そう言って、手を避けられて不満そうな顔をしていたミオンの頭を、優しく撫でる。
「……そのようですね」
彼女はそれを、静かに受け入れてくれた。
「それにしてもマスター、獣人の街へは歩いても三日はかかるはずですが、道中はどうなさるおつもりですか?」
唐突にそう聞かれ、
「……考えてなかった」
装備どころか金すらなかったことを、今更ながらに思い出す。
「……生き急ぐのは結構ですが、もう少し考えて行動しましょう」
「すまん……」
ミオンにため息をつかれ、やるせなさが全身を包む。
一人で復讐を遂げる。そのつもりなら、このままでも良かっただろう。だが、今はミオンがいる。彼女のためにも、先走るような行動は避けないといけない。
「幸いにも、この先に小さい町があるはずです。そこで宿を探しましょう」
それを言われ、さらに、言葉が出なくなる。
「……金がない」
情けない。なんかもう、穴があったら入りたい。
「そう言うと思ってましたので、用意しておきました」
そう言いながら、ミオンは懐から青い輝きを放つ石を一つ、取り出す。
「……ナニソレ」
「魔結晶です。私の体内で生成しました。これを売ってお金にしましょう」
なんなんだそのなんでも出てくる懐は。お前はどこかのロボットか?色も同じだし。
「……そんなことも出来るのか?」
「自動人形ですから」
「そ、そうなんだ」
自動人形って、凄い。いや、ミオンを造った奴が凄いのか?
「あ、見えてきましたよマスター」
痛むこめかみを抑えながら歩いていると、ちょうど町の光が見え始める。
日ももうすぐ落ちるだろう。
今日はあそこで一泊しよう。




